第31話 不恰好な英雄へ(途中からアシュエリside)
今回長いです。
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———国を揺るがす内乱から1週間が経った。
その間に、まぁ色々とあったのだ。
まずは城の修繕作業と国民達への説明から始まり……五大賢者の内、城にいた者が国王陛下より叱咤されるという珍しい現象もこの1週間の内に起こった。
余談だが、内乱を引き起こした首謀者のドルトリストは王国の地下深くに閉じ込められて拷問中らしい。
やはり殺さなくて正解だった。
また、戦地にいた騎士団達は、内乱が起こったと伝令で知り、騎士団長であるカエラムが暴れに暴れた結果……数時間の間に、たった1人で2万の敵兵と戦略級魔法使い2人と上級魔法使い7人を屠ったのち、俺達がバルバドスに勝った次の日には戻ってきたらしい。
それを聞いた時は、普通にドン引きした。
いやバケモンかよ。
戦略級魔法使いとか精鋭騎士でも負ける可能性の方が高い相手なんじゃないの?
そんなのを平然とやってのけて、更に上級魔法使いと敵兵2万ね……もう考えたくもないわ。
今度会ったら死ぬ気で謝ろう。
土下座の所作も更に磨いて、声に悲痛と誠意の感情を籠める練習もしよう。
何て常にビクビクしている俺だが、今回は目が覚めたら1日半が過ぎていた。
こういう時のテンプレは3日と決まっているはずなのに、今回もこの前もなぜ3日にならないのだろう。
あ、俺が【無限再生】で一瞬で身体が治っちゃうからか。
因みに目が覚めた時は、俺のベッドの周りにエレスディアとアシュエリ様、国王陛下と王妃殿下と小さな金髪片目金眼のショタっ子———第1王子殿下、フェイとザーグ、ロウ教官という大変豪華なメンバーが勢揃いだった。
カエラムも本当は来る予定だったらしいが、エレスディアが来るのを死守してくれたらしい。
俺が一命を取り留めた瞬間だ。
そこから数日経って、元通りに修繕された玉座の間で、俺とエレスディアが再び褒美をもらった。
どちらも晴れて精鋭騎士となり、またどちらも領地を持たない名誉貴族という地位に付くことになったのだが……俺は不満で一杯である。
いや、普通に爵位も精鋭騎士もマジで要らないのよ。
そもそも俺は、本来下級騎士にでもなってそこらの地方で適当に仕事するという崇高で完璧な人生設計を立ててたのよね。
それがあっさりと崩れ去ってちょっとゼロ君(16ちゃい)困惑中なんですけど。
何てちょっとズレたことを考えていると。
「……ゼロ?」
気付けば、キラキラと輝く金髪と金と碧のオッドアイを持った超絶美少女———アシュエリ様の顔が直ぐ目の前にあった。
今いる場所がアシュエリ様の自室なので何もおかしいことはないのだが、如何せん距離が近い。
俺はその美貌と近さに一瞬呆気に取られたのち、
「のあっ!? ど、どうしたんですか急に。止めてくださいよ、心臓が止まったらどうするんですか!」
「……ずっと、呼んでた。でも……ゼロが無視した」
ぶすっとした表情で少し拗ねたように言うアシュエリ様。
その表情に俺が罪悪感を感じて慌てて謝ると。
「そ、それはすみませんでした……。ちょっと色々と考えてて…………あの、アシュエリ様? その『え、あの考えなしのゼロが考え事!?』みたいな顔で見るの止めてくださいます!?」
非常に失礼なことに、アシュエリ様が有り得ないとでも言いたげに、驚いた様子で僅かに目を見開いて俺を見つめてくる。
この人の中の俺のイメージは一体どんなことになってるのだろう、と一度問いただしてやりたい。
何て思いつつも、今までを振り返るとあながち否定も出来ないので、苦し紛れに渾身のジト目でせめてもの抵抗の意志だけ見せる。
そんな俺の様子に、アシュエリ様がクスクスと楽しそうに笑う。
———初めて会った時の諦観に染まった顔は、今や見る影もなかった。
……ま、美少女の笑顔が見れるなら精鋭騎士も悪くないか。
お金だってもう一生掛けても使えきれないくらい貰ったしな。
これからは、適当にアシュエリ様の護衛を務めつつ早期退職を考えるとしよう。
1番現実的で楽そうだ。
まだ巻き返せる、何て輝かしい未来について思い描いていると。
「———ゼロ」
笑みを止めたアシュエリ様が、ジッとこちらを見つめて言った。
無を称えた創作じみた美しい顔と、見れば簡単に分かるほどの好意的な感情を乗せた瞳のアンバランスさに、俺は吸い込まれるように見惚れてしまう。
そんな言葉を失う俺にアシュエリ様は———
「———家族を、未来を、そして……私を絶望の淵から救ってくれて、ありがとう」
そう告げて、僅かに瞳から暖かい涙を零しつつ、はにかむように一切の曇りを感じさせない笑顔を咲かせた。
あまりにも綺麗で、可憐で、心を揺り動かされる笑みだった。
私の目の前で、想い人———ゼロが呆気に取られたような、ぼーっとした様子で私を見つめている。
そんなに見つめられたらちょっと照れる。
でも、嫌じゃない。
寧ろずっと私だけを見てて欲しい。
しかしそれはずっと続かず、ハッとした様子でゼロが動作を再開させると、瞳をこれでもかと泳がせたのち、スッと目を逸らして零す。
「……ま、まぁ最初に言いましたからね。あのまま放っておけるほど俺は屑じゃないんですよ。つまり、えっと……そう、全部自分の安寧のためですから!」
完全に照れ隠しに出た言葉だと分かる。
私のせいで照れていると考えると少し舞い上がってしまうというものだ。
私は僅かに口角を上げて告げた。
「ゼロ、照れてる」
「うわああああああやめて、言わないで! ただでさえ恥ずかしいのにこれ以上指摘されたら死んじゃうからあああああ!!」
どうやら私の言葉がトドメだったらしく、ゼロは周りの音を遮断するべく耳を押さえてしゃがみ込んでしまう。
そんな彼を微笑ましく見つめていると……何者かに扉がノックされた。
私には騎士のように気配を感知する力はないけれど……女の勘で、扉の向こう側にいるのがエレスディアだと確信する。
先程の照れはどこに言ったのか、ゼロが目線だけで入れて良いのか訴えてくる。
もちろん2人の時間を邪魔されるのは嫌だが……ここは1つ良い考えがあるのだ。
「……ん」
「あ、良いんですか? はーい、入って良いぞ」
「失礼いたします」
私が僅かに頷けば、扉が開かれ、エレスディアが入ってきた。
エレスディアは私とゼロが近いことに一瞬眉を潜めたが、
「これはこれは、最近巷で人気の精鋭騎士、エレスディアさんじゃないですか」
「アンタねぇ……その言葉遣いは止めてって言ってるでしょ? 次言ったら殺すわよ」
彼に話しかけられると直ぐに表情を元に戻す。
まぁ緩みそうな口角は隠せてないが。
因みにゼロは全く気付いた様子なく、脅しに屈してヘコヘコ頭を下げている。
「へ、へへっ……悪ぅござんした。あ、疲れてる? 俺が肩でも揉もうか?」
「……別にいいわよ」
「ちょっと迷ったよね」
「迷ってない」
迷ってた。
一瞬期待で瞳が輝いたのを私は見たから。
それには流石のゼロも気付いたのか、先程逆の立場に立たされたはずなのに、懲りずにニヤニヤと揶揄うような笑みを浮かべて追撃する。
「いや絶対迷った———おっと、拳を振り上げてどうしたよ。殴る気か? 俺を殴る気か?」
「そうよ」
「またまたー、冗談にしては笑えな———痛ぁ!? え、ガチで殴るなよ!? ごめん、ごめんなさい! 謝るのでどうか頭を殴らないで! 馬鹿になる!」
「元々馬鹿だから良いじゃない」
「おい流石の俺も怒る———冗談ですやーん、ただのじゃれ合いですやーん」
結構本気の顔で拳を握るエレスディアに、ゼロが三下のような笑みを浮かべて腰低くご機嫌取りに奔放する。
こう見ると、とても国を救った英雄とは思えない。
容姿はそこそこ整っているものの、貴族の子息に比べたら大分劣る。
髪と瞳こそ珍しい黒髪黒目だが、これも珍しいだけでいないわけでもない。
身長も普通で、体格も騎士にしては細い。
言動も、とてもお伽噺に出てくるような英雄のように格好良くない。
おちゃらけてて情けないことも沢山言うし、男女関係なくプライドはないのかと思うほどに直ぐに土下座をする。
あと、よくチラチラ私の胸とかを見てくる変態さんだし、私の前で堂々と他の女の子にモテるかを聞いたり、今みたいにイチャイチャする有り様。
でも———彼は私を救ってくれた。
絶望的な未来を、変えてくれた。
彼がいなければ、今私は生きていない。
彼のお陰で私は生きている。
こうして想い人を作ることが出来ている。
想い人と話している。
「……エレスディア、ゼロを殴らないで。彼は、私との大事な約束を履行中」
「…………え?」
「は、はい? な、何ておっしゃられたのか、もう1度聞いてもよろしいでしょうか?」
ゼロが驚いた様子で此方を見つめ、エレスディアが露骨に動揺し、何かを我慢するように口元をヒクヒクさせながら問い掛けてくる。
そんなエレスディアの前で、私は見せつけるようにゼロの腕を抱き、彼に向かって笑みを浮かべた。
「ゼロは、私を好きにできる。ゼロ、何がしたい?」
私がそう告げた瞬間、場の空気が固まる。
しかし直ぐにエレスディアが眉を吊り上げてゼロに詰め寄った。
「ゼロ、約束ってどういうことよ!? それに王女殿下を好きにできるって一体何をしたの!?」
「ちょ、ちょっと待って! 俺も今何が何だか……いやマジなんだって! タイム! 俺はタイムを要求する!」
エレスディアに詰め寄られてタジタジになっているゼロを見ながら、
———ゼロ、私は貴方が好きです。この世界の誰よりも、貴方が好きです。
いつか伝える言葉を、私はそっと心の中で呟いた。
ゼロが2人の美少女に詰め寄られて慌てふためいている頃。
「———アイツが上手くやった。王国は未だ混乱に包まれている」
「……ですが……」
「くどい! お前は黙って従っていればそれでいいのだ! ……チッ、力だけあるから面倒臭い」
とある場所にて、苦言を呈そうとする少女に青年が叱咤していた。
青年はそんな少女を鬱陶しげに見たのち、欲望に満ちた笑みを浮かべる。
「いよいよだ……遂にあの国を滅ぼせる……!! そうすれば、我も……!!」
そんな欲に囚われた青年を見ながら、少女は天を仰いで零した。
「……誰か、お兄様を止めて……」
その言葉は、誰の耳に入ることもなく消えていった。
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どうもあおぞらです。
これにて第2章『内乱』は完結です。
いやぁ遂にゼロが羨まけしからんことになってますなぁ!
くそう、作者だって美少女に……おっと、思わず欲望が。
まぁそれはそうと、今章はゼロが飛躍する章でした。
前章は上層部だけで有名になりましたが……遂に国民にも広く知られるようになりました。
同時にタイトル通り、美少女たちに狙われてますね。
あと完全に余談なんですけど、25話のタイトルとか最後の文は、作者が生きてきた中で1番好きで、何度も元気を貰った曲の歌詞をモチーフにしてます。
その曲というのが『夜もすがら君思ふ』という曲で、拝借したのは『時代柄暗い未来が待ち受けど、愛を謳う』と言う部分です。
めっちゃいい曲なので是非聞いてみてね。
そして次話から———第3章『戦争』が始まります。
遂にゼロが国内ではなく他国に進出します。
ゼロは留まることを知りませんから当たり前ですね。
是非とも引き続きゼロ達をよろしくお願いします!!
それと最後に『続きが気になる!』『面白い!』や『ゼロがかっこいい!』『ヒロイン達が可愛い!』などと思ってくだされば、是非とも☆☆☆とフォローよろしくお願いします。
また、一応全てのコメントは見てますので、是非とも応援コメントもよろしくお願いします。
以上、あおぞらでした!
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