第29話 限界突破VS戦鬼
「———……結構キツいな……」
今まで感じたことのない高揚感が生まれると共に、全身を今まで感じたことのない痛みが襲い……俺は思わず顔を歪める。
全身は白銀のオーラで装飾されるも、チラッと身体を見れば、身体が耐えきれないようで魔力が肌に亀裂を作って真っ赤な光を放っていた。
どうやら俺の唯一の取り柄である【無限再生】も、無理しすぎて再生が地味に追いついてないらしい。
そんな俺を見て、少し離れて剣を構えるバルバドスが驚愕に目を見開きながら呟いた。
「ゼロ様……貴方様は【極限強化】を習得できていないようにみえます。現に、身体が過剰な強化に耐えきれていません」
「やっぱ分かる? まぁ何処かのドM美少女と違って俺は天才じゃないんでね。だから無理してでも使ってるってわけ」
「……そんなことをすれば身体が崩壊するはず……」
おっと、そんなバケモノを見つめるような目を向けるのは止めてもらおうか。
これでも俺は清く正しく日本で鍛え抜かれし変態な一般ピーポーやぞ。
まぁでも言いたいことも分かるため、俺は苦笑交じりに肩を竦めた。
「無茶苦茶痛いよ、超痛い。今直ぐ回れ右して帰りたいくらい。しかも今なんか【極限強化】の比にならんくらい痛いし」
「ではなぜ……」
なぜか……まぁそうだな。
俺は剣を中段に構え、顔が痛みで歪みそうになるを抑えながら笑みを浮かべる。
「———美少女に頼られたら手伝っちゃうのが男なんだよ」
刹那———軽く地面を蹴ってバルバドスに肉薄する。
景色が一瞬で移り変わり、瞠目するバルバドスへと容赦なく剣を振り下ろした。
———ギャリィィィィィィ!!
流石のバルバドスも受け流すのが不可能とでも思ったのか、押し負けないようにと力を篭め……今回始めての鍔迫り合いが起こる。
金属同士が擦れる音が響き渡り、共に剣と剣の間にスパークが散りながら均衡が保たれる。
「おっ、力は結構同じくらいってことか」
「……ゼロ様は長生きできそうになさそうですね」
「お、おいやめろよ、そんな物騒なこと言うなよ! これでも70歳までは余裕で生きる予定なんだけど!?」
「それは難しいかもしれませんね……!! なぜなら———」
今までの余裕そうな笑みから一転。
「———私には主より貴方を殺すように命じられております。私とて、絶対に負けられないのですよッッ!!」
そう言いつつも、この戦いを楽しむように戦士特有の獰猛な笑みを浮かべたバルバドスが、より一層力を篭めて俺ごと弾き飛ばした。
軽々と宙を舞う俺は、
「……ッ、爺さんのくせにどこにそんな力があんだよ……!!」
力で押し負けたことに僅かながら動揺するものの、俺は直様空中で体勢を整え、余裕を持って着地。
【無限再生】をもってしても直様回復できない僅かに痺れる手を一瞥すると。
「アンタ、マジで強すぎん? こちとら限界なんかとっくに越えてんだけど」
「私からすれば、この強さを誇っていながら、まだ剣を持って1年弱というのがビックリです」
そんな会話を交わしながら、俺達は幾度となく剣を斬り結ぶ。
剣閃が繭のように俺達を包み込み、火花が地面を焼き、床が陥没し、音は遥か過去に置き去りにして、数瞬前に俺達がいた場所で剣戟の音とソニックブームによる衝撃波が鳴り響く。
技術を捨てて防御無視の特攻をかます俺に対して、バルバドスは長年培った圧倒的な技術と判断力で対抗していた。
まさしく剛と柔の戦いだ。
「だりゃあッッ!!」
「くっ……はあああッッ!!」
俺が胴体を裕に切断できる剣を薙げば、バルバドスが器用に力を受け流しつつ反撃とばかりに斬り上げを叩き込んでくる。
もちろん避けるなんてことはしないので、スパッッと俺の胸から横腹までが綺麗に裂けて大量の血が噴き出すが……それも一瞬のことで、直様傷が元々なかったかの如く消滅した。
「貴方のその体質は本当に厄介ですね……!! 身体の強度も上がっているようですし……」
「ふはははははっ!! そうでしょうそうでしょう! なんてったって、これなかったら俺のアイデンティティが消失するからな!」
お互い指し示したかのように鍔迫り合いを止めてバックステップで距離を取る。
バルバドスはドルトリストを護るように階段の中段で止まり、俺はアシュエリ様達を背で護るように止まった。
「……ゼロ、身体が……」
「アシュエリ様、俺は大丈夫ですよ。ちょっと身体が灰になってますけど、一応再生してますし、この魔法を解いたら直ぐ元通りになりますから」
俺を見上げて心配そうに声を漏らすアシュエリ様に、顔こそ向けないものの、余計な心配を掛けぬように言葉を重ねる。
ただ、現状として攻めあぐねており、時間が経てば経つほど不利なのは俺だ。
限界を越えているために魔力の消費量が異常だし、正直耐えきれないくらいの痛みが全身を苛んでいるので、いつ意識を失ってもおかしくない。
肝が冷え、額から冷や汗が頬を伝って地面に落ちる。
すると突然、背後からアシュエリ様の身体に流れる魔力が急激に上昇し、広い玉座の間を眩い光が照らし出したかと思えば———。
「———ゼロ、あと30秒耐えて。あと30秒耐えたらいける……!!」
アシュエリ様が自信たっぷりに力強く、王としての覇気を纏った言葉を紡いだ。
そんな彼女に俺が返すのはたった1つだ。
「———
更に魔法に魔力を篭めて駆け出す。
身体の炭化が進み、白銀のオーラが灰と混ざり合って彗星の如く尾を引き、一条の光の残像と共にバルバドスへと接近。
寸前で地を蹴って飛び上がり、渾身の膂力をもって剣を振り下ろす。
「姫様の命令だ、意地でもやってやろうじゃんか!」
「その心意気や見事です。ですが、私を打ち砕くことなどできません!!」
対するバルバドスも、俺と同じ様に魔力を底上げし、全身を先程よりも大きくて熱い赤黒いオーラで包みこんで俺の剣を迎え撃った。
———ガァァァァァァァァァン!!
剣がぶつかると同時に床が『ドゴンッ!』と音を立てて陥没し、衝撃波が玉座の間全体を激しく揺り動かした。
しかし、頭の上で俺の剣を受け止めているバルバドスがニヤッと笑う。
「若輩者が限界を越えたのです。老兵もそれに応えなければならないでしょう?」
「何言って———!?!?!?」
唐突に俺の全細胞が警鐘を鳴らしたかと思えば、バルバドスから放たれる魔力や威圧感が倍増した。
俺は即座に剣に力を篭めた反動を利用して距離を取る。
しかし、離れていても一向に警鐘は止まず全身が粟立ってゆく。
「貴方は将来強くなる。ここは人生の先輩として、戦場の鬼と呼ばれた私の真髄をお見せいたしましょう。しかとその眼に焼き付けておいてください———」
一方的に告げたバルバドスが、裂帛の声を張り上げた。
「«我が身を揺蕩う数多の魔力よ、我が身に進化を
膨大な魔力が収束してバルバドスの額に一本のツノが生え、まるで若返ったかのように全身が僅かに膨張して皺が減り、全身がより戦闘向きな身体付きに変化する。
瞳が真っ赤に染まり、一睨みされただけで全身に何倍もの重力が押し掛かるような錯覚に陥った———
「おぐっ———!?」
グンッと俺の意思に反して身体がくの字に吹き飛ぶ。
内臓が潰れると共に視界が揺れ、背中に強烈な痛みを感じて自分が扉横の壁に激突したのだと理解する。
おいおいマジかよ……これだけ命を賭けても倒せねーのかよ……!
クソゲーすぎんだろうが……!!
何て内心愚痴りながら傷が治ったのを確認して壁から起き上がり、キッとバルバドスを睨む。
対するバルバドスは笑みを消して圧倒的な威圧感を放ちながら、蹴りを放った状態で止まっていたが、ゆっくり足を降ろしながら言う。
「これでも、あの隻眼のロウと過去はライバルだったのですよ? 上には上がいるのです」
「へっ、へへっ……ロウ教官ってマジでナニモンだよ……」
「英雄ですよ。私より年下でありながら圧倒的な速度で私を越え、『
強敵に会えば会うほどロウ教官の力の片鱗を教えてもらうんだけど、本格的にそんな相手に初っ端から出会うとかヤバ過ぎるだろ。
しかもそんな相手にめちゃくちゃ親しげに話してた俺は命知らずの馬鹿かな?
そんな風に昔の自分に呆れていると、バルバドスが剣の切っ先を向ける。
「そろそろ終わりにしましょう。既に限界を越えた貴方では絶対に私には勝てません。ですから———」
その後ではたして彼が何を言おうとしたのか分からない。
何故なら……彼が言葉を紡ぐより先に声を上げた者が居たからだ。
「———そんなことないわ」
その者は、俺がこの世で最も信頼している相棒とも呼べる存在だ。
そんな乱入者———
「何してるのよ、ゼロ。私は外と中合わせて200人以上もの騎士を斬ってきたのだけれど?」
「……いやぁすまんね、こちとら鍛錬してねーんだわ」
「全く……仕方ないから加勢してあげるわ。アンタを助けるって宣言したものね」
———エレスディア・フォン・ドンナートが扉の奥から歩きながら現れる。
彼女は呆れたような、安堵したような様子で俺へと軽口を飛ばしたのち、腰から真紅のオーラを纏った剣を抜き放つと。
「【
芯のある力強く凛々しい声色で紡いだ。
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