第27話 お任せください国王陛下。俺、頑張ります!
「———……アシュエリ様アシュエリ様、多くないです?」
俺は玉座の間に向かいながら一振りの下に敵の騎士を斬り伏せつつ、お姫様抱っこからおんぶに変わったために背中にいるアシュエリ様へと目を向ける。
すると、アシュエリ様は少し怒りを孕んだ声色で漏らした。
「……近衛兵は、後で地獄の鍛錬。……何で、ゼロが震える?」
「すいません、ちょっと騎士団修練施設での地獄の日々を思い出して。普通にその言葉は軽くトラウマですね」
だってあの時ほど心身共にキツかったことはないし。
てかフェイとザーグは元気にしてるかなぁ……もう1ヶ月も会ってないんだよな。
エレスディアとかもこの騒動の対処にあたってんのか?
何て、楽しくも苦難に塗れた日々を思い出して俺が懐かしんでいると。
「い、いたたたっ、な、何するんですかアシュエリ様!?」
突然後ろからにゅっと手が出てきて、俺の頬が引っ張られる。
それなりに力を入れているのかそこそこ痛いが……やっているのが美少女なので許せるどころか寧ろ嬉しい。
一応、これがフェイとかザーグならはっ倒してるかな。
幸せな気持ちを味わうのもそこそこにして、肩に頭を乗せ、未だ俺の頬をムニムニと弄びながら不服そうにムスッとしているアシュエリ様に視線を向けると。
「……エレスディアのことを考えてた」
じとーっとした瞳で見つめ返され、俺の心を見透かすような瞳から逃げるようにそっと目を逸らしながら口を尖らせる。
「あの、ホントになぜ分かるのか教えてもらっていいですか? 何か皆んなが皆んな俺の思考を読むんで、俺の頭の中が公共物になってないか心配なんですけど」
エレスディアだって言葉にしてないのに思ってることバレるんだよ。
俺は一言も話してないのにバレるとか本格的に意味分からないんだけど。
誰かが魔法で俺の頭で考えたことを周りに垂れ流してない?
あ、そんなこの世で最も意味ない行為はニートでもしない?
やかましい。
何て内心でセルフ漫才を繰り広げていた俺だったが、玉座の間の方角で強大な気配を感じて否応なしに思考を停止させざるを得なかった。
「……アシュエリ様、めっちゃヤバい気配がするんですけど」
「……ドルトリストの懐刀の1人。『
「何ですかその強そうな名前、めっちゃ戦いたくないんですけど。強さはどれくらいですか?」
俺が走りながら自覚できるほどに顔を顰めつつ問い掛けると、アシュエリ様が少し言いにくそうに黙り込んだかと思えば……消え入るような声で告げた。
「———……精鋭騎士の中でもトップクラス」
「マジかよ、ロウ教官とほぼ同格じゃん。ヤバい、こりゃ超まずい」
まさかのまさか。
背中が未だ見えないくらいに差があるロウ教官と同格らしい。
洒落になってないよマジで。
一応アシュエリ様がいるので勝てないとは言わないが……一筋縄どころか勝てるビジョンがさっぱり浮かばないのが正直なところだ。
ただ諦めるという選択肢もないわけで。
の、望み薄いなぁ……これはマジで絶体絶命通り過ぎて確殺だなぁ……。
まぁもちろん頑張るんだけどね。
「アシュエリ様、玉座の間に突撃しますよ」
「……分かった」
俺はアシュエリ様を背負ったまま———意を決して玉座の間に飛び込んだ。
「———アシュエリ!!」
「あぁ……アシュエリ……」
玉座の間に突入すると、俺の背中に乗っているアシュエリ様を見た国王陛下と王妃殿下が僅かに顔の険を取り、安堵を孕んだ声で彼女の名を呼ぶ。
そんな2人を見ながら、同じように安堵した様子で『良かった……』と俺にだけ聞こえるほど小さく呟いた。
「へぇ……上級騎士5人を相手に無傷か……中々やるね」
前方。
俺を見下ろす形で玉座に座る、
因みに、玉座の間には玉座に座るドルトリスト、玉座の階段を降りた先に国王陛下と王妃殿下を囲むように中級騎士レベルが10人と、上級はおらず……。
「…………『
「先程ぶりでございますね、ゼロ様。その名は何十年も前の名ですよ」
代わりといったは何だが、普段の燕尾服姿から一転、真っ赤に染まった騎士の鎧を身に纏った執事長———バルバドスがドルトリストの隣に控えていた。
その足元には国王陛下達の護衛と思われる騎士が全身血だらけで横たわっている。
「……そこに倒れてる騎士は?」
「死んでます。最近の精鋭騎士はやはり弛んでいますね……『
薄気味悪い笑みと共にバルバドスが足で騎士を蹴り上げれば……宙に舞い上がった騎士が俺の目の前の地面に落ちる。
俺はアシュエリ様を降ろして近寄り、そっと頸動脈に触れた。
血の巡りを感じず、冷たい。
確かに死んでいた。
それだけ確認して俺はゆっくりと立ち上がると。
「そんなの俺に聞かれても知らんがな。生憎精鋭騎士には、中級騎士の俺に地獄の鍛錬を受けさせた恨みしかないし」
そう言って肩を竦める。
ここで怒りを露わにしたって意味がないことは分かりきっている。
ならば、俺は俺のペースで話せばいい。
「そんで、色々とまだ分かんないことが多いんだけど……アンタもそこの玉座に座ってるムカつくイケオジも敵ってことでおーけー?」
「まぁ君の立場からすれば敵かな」
僅かに殺気の籠もった俺の言葉に、心底余裕そうな笑みをたたえるドルトリスト。
それほどまでにバルバドスを信頼してるのか……うわぁめんど。
俺が内心でため息を吐いていると……国王陛下のいつもの覇気は鳴りを潜め、申し訳無さそうに言う。
「……ゼロ君、申し訳ない。騎士団は前線で、城の中は魔法使いは使い物にならん。そのせいで新人の君をこんな場所に……」
「いや謝らないでくださいよ、国王陛下。なんてったって俺はアシュエリ様の護衛ですよ? 彼女の願いを聞き届けるのも仕事の1つですって」
「……申し訳ない」
俺は気にしてほしくなくて軽く言っているのだが……どうやら国王陛下は、若い俺がわざわざ死地に来させてしまったことを悔やんでいる模様。
だが、その心配はお門違いってものだ。
「———俺は死にませんよ。何としても皆んな守って生き残ります。これでも王国随一の期待の超新星ですからね!」
どこまでも自信満々で大胆不敵な笑みを浮かべつつ、腰に手を当てて胸を張る。
そんなあまりにも場違いなテンションで不可能とも思えることを述べた俺に、この場にいる全ての者の視線がコチラに突き刺さった。
主に身の程知らずと馬鹿にしているような視線だが。
え、そんなに見るなよ。
ほら見ないの!
俺は動物園のチンパンジーじゃねーぞ!
え、知能はチンパンジーの方が上?
やっかましい!
何て、身体に溜まる緊張を解すように内心ふざけ倒していると。
「はははは……ガハハハハハハハハ!! 良く言った、それでこそ我が国が誇る騎士だ! この状況を覆してくらた暁には、余がどんな褒美でも用意しよう!!」
「マジですか!? じゃ、じゃあ……女の子にモテることも……!?」
国王陛下が心底やられたと言わんばかりに笑う。
そんな彼に俺が恐る恐るといった感じで問い掛けると……国王陛下が一瞬キョトンとしたのち、更に楽しそうに笑った。
「ガハハハハハ、もちろんだ! そもそも国を救った救世主がモテないはずがなかろう!? きっと美女がよりどりみどりになるであろう!!」
「!?」
マジかよ、クソやる気出てきたんですけどっ!?
ヤバい、今のモチベーション人生一かもしれん!
だから、
「アシュエリ様、その目は止めてくださると嬉しいです」
「……モテたいの?」
俺は後ろから突き刺さる絶対零度の視線に冷や汗をかきながらか細く訴えた。
すると、感情の読めない無機質な声色で、俺の訴えを無視して訊いてくる。
何だろう、この返答にミスったらヤバい気がする。
自分の首を自分で締める気がする。
「……そ、そりゃあモテたいですよ……? 男は美少女に褒められただけで調子に乗る単純な生き物ですからね。だから———」
「ゼロが勝ったら私が何でもする」
「———これはしょうがな……今なんて?」
俺は思わず聞き間違いかと聞き返す。
しかし、アシュエリ様は表情を全く変えること無く……力強く頷いた。
「———ゼロが勝ったら、私が何でもする」
…………Why?
「な、何でもするとは……?」
「……言葉通り。私ができることなら、何でも。シたいなら、逢瀬でも」
「よーし俺頑張っちゃうぞー!!」
即座に【
何千何万と魔力切れと肉体破壊を繰り返した俺の身体には、常人を遥かに上回る魔力が流れているので……多分10分とか20分くらいならこの状態でも持つはずだ。
ただその代わりに、死にたくなるくらいの痛みは気合いで耐えないといけないんだけどね。
と、いうことで。
「おい、そこで呆気に取られてる王様気取りの勘違い野郎と、戦場の鬼か家政婦の鬼か何か知らん時代遅れのクソ爺!」
身体と共に膨大な白銀のオーラで装飾された剣を、場の流れについて行けず玉座で呆けているドルトリストとバルバドスに向ける。
そして、痛みをおくびにも出さず、ニヤッと笑みを浮かべて宣戦布告と共に反撃の狼煙を上げた。
「———俺の輝かしい未来のための踏み台にさせてもらうぜ! とっととくたばってくれや!」
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週間総合2位と100万PV、たくさんのギフト感謝!
これからもおねしゃす!
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