第26話 俺の身体、特別製なんだよね
———さて、アシュエリ様には任せろと豪語したわけだが……。
「死ね!! はぁああああああああ!!」
「死ねとか言うなよ、傷付くだろ!!」
「ゴハッ!?」
久し振りの戦いだというのに、何故か知らんがめっちゃ調子いい。
今ならロウ教官との1on1でも勝てそうなくらいに調子がいい。
今も、片手でアシュエリ様を守っていると言うのに、俺よりも鍛え抜かれた騎士達の剣技を3人纏めて片手で軽々と対処できている。
もちろん全身は死ぬほど痛いが……前使った時より遥かに軽い。
明らかに【
「ふふふ……ふはははははははっ!! 行ける……行けるぞ……これなら誰にも負ける気がしない!!」
「い、一体何なんだコイツは!? 斬っても斬っても直ぐに回復するなんてあり得ないだろう!?」
俺の眼前で勇猛果敢に剣を振るう騎士が、声に恐怖の感情を篭めて絶叫する。
それでも繰り出される剣技に一片の迷いや躊躇も見えないところから、相当な腕前だと分かる。
少し前の俺なら一瞬でボコボコにされていたレベルだ。
だが、あくまで少し前の俺ならの話。
俺はアシュエリ様には絶対に攻撃が当たらないように、必要最低限の動きで、前と両サイドから放たれる全ての攻撃を避け、受け流した。
剣戟によって金属同士が衝突する音がグチャグチャになった部屋に木霊する中。
「アシュエリ様、少し揺れます」
「ん」
俺は小声でアシュエリ様に告げたのち———前からの振り下ろしを下段からの斬り上げで弾き、続けざまに、両サイドからの袈裟斬りと横薙ぎを刹那の内にその場で一回転して弾き飛ばした。
更に動きを止めることなく、バンザイの状態で目を見開く眼前の騎士を鋭く見据えると。
「来世は命を大切にしろよ」
腕を引き絞り、上級魔法———【斬撃強化】によって強化された剣で胸を穿つ。
濃密な白銀のオーラで装飾されたバスターソードから放たれる音を置き去りにした鋭い突きは、相手のオーラも鎧をも一切合切を突き破って心臓を斬り裂いた。
騎士は驚愕に目を見開いたままハイライトを失い、支えとなっていた剣を引き抜くと同時に地面に崩れ落ちる。
「ふぅ……アシュエリ様、大丈夫ですか? 一応血が飛び散らないように刺突で殺したんですけど」
「……大丈夫」
俺が腕の中のアシュエリ様に問い掛ければ、しっかりとした声色で返してくれる。
ホントにこの人は三半規管が強いらしい。
羨ましい、是非とも俺のと交換してください。
何て場違いなことを考える俺の耳朶を、憎しみさえ孕んだ怒号が揺らす。
「き、キサマァアアアアアアアア!! よくもガウェインを!!」
「いやいやお互い様じゃん。アンタだって俺とアシュエリ様の命を奪おうとしてんだから俺だって奪うに決まってんだろ、ばっかじゃねーの?」
しかも今回は相手側が始めた戦いだ。
俺達が強襲したならいざ知らず、自分達から戦いを仕掛けておいて『殺すなんて許せない!!』とかいう頭悪い言葉は吐くのは一体どういう了見なのだろうか。
随分と自分勝手な奴らだなぁ。
俺は自分が加害者のくせに被害者ぶる奴が1番嫌いなんだよ。
そういう怒りも篭めて小馬鹿にしたように煽れば、両サイドにいた2人の騎士達の魔力が膨れ上がり、纏われたオーラが怪しげに揺らめく。
俺は少し嫌な予感がしたので素早く後ろに下がり、2人が同時に見える位置に移動すると。
「アシュエリ様、俺の後ろに隠れててください。俺のでっかくて偉大な背中を見てればオッケーです」
「……分かった」
そっとアシュエリ様を離し、俺の背後に回らせる。
これで両手が空いた。
今まで出来なかった———肉を切らせて骨を断つ、という作戦が使える。
当たり前だが、俺の1番の武器は剣でも魔法でもない。
神様から貰った【無限再生】という圧倒的再生能力だ。
圧倒的に実力が上の者からの攻撃ならちょっとアレだが、俺と同格程度の相手の攻撃を受けた所で痛くも痒くもないのだよ。
ということで……俺はただ、斜め上に剣を構えた。
なんてことない、ただの袈裟斬りの構えだ。
それ故に、騎士達は俺の動きに眉をひそめる。
当たり前だ。
相手が自分達の本気の一撃を前にして、あろうことかマトモに防御の構えを取らないのだから。
ただ、相手もプロだ。
直様迷いや違和感を捨て、飛び掛かってくる。
「「これで終わりだァああああああああああ!!」」
裂帛の声と共に、俺の首と心臓に正確無比の一撃が繰り出される。
まるでコマ送りのように見える中、二振りの剣は吸い込まれるように俺の首と心臓を捉え———直撃した。
首を狙った一撃は半ばで止まり、心臓を狙った一撃は心臓の数センチ前で動きを止める。
相手にとってはこの時点で勝ちを確信するだろう。
普通の人間……幾ら騎士であろうとこれほどまでの重症で生きられるわけがない。
特に首なんかは半分くらい剣が食い込んでるわけだし。
だが———それは、相手が俺じゃなかったらの話だ。
「———捕まえた」
自分でも恐ろしいほど殺気の籠もった声が漏れた。
別に大きな声でもないのに、俺の声が空間を揺らす。
どうやら俺は、痛みを忘れるくらいには怒っていたらしい。
俺の後ろにいる少女に、あんな顔をさせた首謀者に。
ならば、とっとと終わらせて首謀者をぶった斬りに行くとしよう。
俺は斜め上に構えた剣を握る手に力を籠める。
「———地獄で待ってな。直ぐにアンタらの親玉も送ってやっから」
白銀のオーラを纏った剣が閃いた。
「———アシュエリ様、行きましょう」
俺は首と胸に刺さった剣を引き抜くと、呆けた様子で此方を見るアシュエリ様に手を差し出す。
しかしアシュエリ様は一瞬俺の手を見つめたのち、瞳を潤ませて言った。
「……傷」
「ん? あぁこの傷ですか? 相手が大して強くなかったお陰で、首も半分しか斬られてないですし、胸の方も心臓にちょっと刺さった程度で済みましたよ」
ほんと、これがロウ教官とかだったら身震いじゃ済まないな。
だって確実に首は斬られるし心臓だったら胸に風穴が空くもん。
その瞬間にアシュエリ様の首も斬られて終了ってなっちゃうから。
何て考えてたら、アシュエリ様がふるふると首を横に振る。
そしてジッと俺の首を見ながら口を開く。
「……その傷、致命傷」
「まぁ普通の人なら? でも俺の身体は特別製だからもう治ってますよ。やっぱお姫様の護衛は特別じゃないと務まらないって言いますし? あ、何なら触って……めちゃくちゃ触るやんこの人」
俺が心配を掛けないように茶目っ気たっぷりに言えば、俺の手を取って立ち上がったアシュエリ様が俺の首や胸をペタペタ触りだした。
続けて目を見張りながら、独り言くらいに小さく零す。
「……本当に治ってる。さてはゼロ、吸血鬼?」
「え、もし俺が吸血鬼って言ったらアシュエリ様の血を吸ってもいいですか?」
俺は揶揄うつもりで言ってみたのだが、
「……ん、どうぞ」
「そうだった! この人って羞恥心をどっかに捨ててきたんだった!! ごめんなさい、俺には美少女の柔肌に噛みつけるほどの度胸はないです!」
僅かに首を傾げ、俺が吸いやすいように鎖骨部分を差し出すアシュエリ様の、無自覚な反撃に敢え無く撃沈した。
ホント誰だよこんな子に育てたやつ!
くそう、全部終わったら国王陛下に本気で直談判して性教育を1から受けさせてやる!
「アシュエリ様、それで俺はこれからどこに行けばいいですか!?」
自分でも顔に熱が籠もるのを自覚しつつ、それから何とか意識を逸らそうと彼女に問い掛ければ……。
「……何でそんなに残念そうなんですか。今って大分ヤバい状況じゃないんですか」
「……ゼロに侵された」
「言い方! その言い方は非常にいけないと俺は思います!」
俺が何処となく残念そうな表情で姿勢を元に戻すアシュエリ様に声を上げれば、普段通りの無表情ながら、瞳に決意の炎を宿したアシュエリ様が話す。
「……お父様達は、まだ殺されない。首謀者———ドルトリストは歪んでいるから。お父様達を殺すのは、私の首を見せて絶望した時だけ。だけど、痺れを切らす可能性もある。城には、五大賢者がいるから、私達は玉座の間に向かう」
「仰せのままに」
俺はひょいっとアシュエリ様を抱き上げると。
「アシュエリ様、快適な移動を保障しますよ」
「……期待、してる」
玉座の間へと駆け出した。
「……無事で、良かった」
本当に小さく、下から彼を見上げながら呟いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます