第25話 暗い未来が待ち受けど(アシュエリside)
———アズベルト王国は大国だ。
聖光国、大帝国に並んだ三大強国の1つ。
それぞれが別々の強大な力を持っている。
聖光国は、神の声を授かる神巫女に神の力を代行する『代行者』という存在と、神聖魔法という信徒にしか使えない魔法。
大帝国は、三大強国の中でも最も多い人口を生かした、徹底された実力主義の100万を裕に超える圧倒的な軍隊に最低でも戦略級を誇る複合魔法。
そして私達アズベルト王国は、『五大賢者』率いる魔法師団と『
この3つがあったからこそ大国としての地位を確立しているのだ。
しかし、15年前———今代の国王……私のお父様の身にアクシデントが起こった。
そう、本来国王が次期国王に自らが譲渡しなければ消えることはないはずの『未来視』が突如使えなくなってしまったのだ。
代わりに、同時期に生まれた私———アシュエリ・フォン・デュヴァル・アズベルトの瞳に『未来視』が宿った。
前例は一応ある。
200年前に1度だけ女王が君臨した時期があるのだが……国王と次期国王のみが読むことを許される書紀には、その時も当時の国王から『未来視』が消失し、生まれたばかりの女王の瞳に宿ったと記されている。
私はそれを見た時、言葉を失った。
今までの国王が出来ていたことが今のお父様には出来ないと分かれば、誰もがお父様を心の何処かで蔑むと分かっていながら……お父様は自身の力を失ったというのに『200年振りの女王の誕生だな』と言って笑って私の頭を撫でてくれた。
だから私は、お父様の期待に応えるために頑張った。
生憎私には、歴代の国王のように剣術や魔法の才能は突出していない代わりに、将軍としての才があったらしい。
だから様々な政策の本を読み、戦略の本を読み、自分で制御できない未来視の制御を鍛え上げた。
しかし4年前———状況が一変する。
何と生まれた第1王子であり、弟のレバン・フォン・デュヴァル・アズベルトの瞳にも『未来視』が宿っていたのだ。
本来1つのモノが、2人の中に現れる……なまじ鍛錬をしていた私だからこそ1つの仮説が浮かび上がった
———私と弟、どちらかがこの世から消えない限り、完全な未来視を使えない。
未来視は弟と会うと、私の意識とは関係なく引き合うように光り輝く。
幼い弟は『お姉様、おめめがぴかーって光ってますっ!』と楽しそうに笑っているが……私には最悪の仮説が現実味を帯びる根拠となるだけだった。
これだと、私達のどちらかは死んでしまう……いや死ぬのは男ではなく女の私だ。
今までの国王のほぼ全てが男なのだから。
しかしお父様はこれを許さなかった。
弟の未来視については公表せず、戦乱にならぬように、直様私を王位継承者から弟の補佐を務める宰相候補に仕立て上げたのだ。
こうすれば、男こそ上に立つべきなどという頭の硬い貴族達も黙ってしまう。
弟には武術と魔法の才能があったのも幸いした。
だから特に貴族達も反発しなかったが……未来視のことを知らない貴族達は、女というだけで王位継承者から下げられた私を憐れんだ。
しかし時間が経つに連れ……それは蔑みへと変化していった。
そんなある日のこと。
———私は未来を視た。
玉座の間でお父様とお母様が絶望した様子で見つめているのだ。
何をかって?
———私の首だ。
胴体が泣き別れした私の首をドルトリストが持ち、それを見て絶望した表情で殺される……そんな未来。
そう、この騒動は———弟の未来視を知っていたドルトリストが未来視を完全なモノにした弟を傀儡にして王国を牛耳るために起こしたモノだった。
この騒動が起こるキッカケは、私がお父様に婚約者候補だったアルベルトに暴力を振るわれたことを知って、死刑にしたことだった。
それを絶好の好機と捉えたドルトリストが領民と私兵を扇動して王城に強襲を仕掛けてきたのだ。
その時騎士団は隣の公国との戦争に駆り出されて王城に居なかった。
もちろん未来が見えてから、未来を変えようと努力した。
しかしどれだけ頑張っても未来は変わらず……ドルトリストの懐刀に家族を殺すと脅されてしまう始末。
だから私は諦めた。
全てを諦めたつもりだった。
———専属護衛となった、ゼロ。
彼が現れてから、動き始めた。
しかし、ゼロという平民は、私の未来視には全く映っていなかったと断言できる。
私の未来では、私の専属護衛は既に騎士は止めているが、国王からの信頼も厚いドルトリストの懐刀になるはずだった。
そんな中、突如として現れた少年。
私と同い年で、騎士としてはあまりにもおちゃらけていて、馬鹿で、貴方を思って言った私の言葉を一切聞かない少年。
エレスディア・フォン・ドンナートという、将来『
しかも、ゼロという得体の知れない少年は、副騎士団長にという誘いを辞退して教官となって前線を退いた———あの『隻眼のロウ』がお父様に推薦した騎士だった。
僅かに……ほんの僅かな一縷の希望が見えた気がした。
だが、その一縷の希望が私の諦めた心を再び燃え上がらせたのは、アルベルトと出会った時だ。
アルベルトは貴族達の間に流れる、弟に王位継承権を奪われたということをゼロに話そうとした。
その瞬間、気付けば口を開いていたのである。
何故か分からないけれど、彼だけには聞かれたくなかった。
その時———ゼロはアルベルトをぶん殴ったのである。
それも、私から見ても可哀想になるくらいにボコボコになるまで。
挙句の果てには『あー、スッキリしたぁー』と、公爵家の嫡男を殴ったとは思えぬ脳天気なことを宣う始末。
私は彼の奇行に圧倒されて言葉が出ず……気付けば城に戻っていた。
同時に何十、何百と視た未来を視る。
———未来が、変わっていた。
アルベルトは1年の謹慎処分で済んだことで、大義を失ったドルトリストは動けず、反乱は起きていないことになっていたのだ。
そして未来の私は、本当に自分かと疑うくらいに、幸せそうな笑みを浮かべてゼロと過ごし、死ぬはずだったエレスディアと火花を散らし合っている。
———心がふっと軽くなった。
———涙が溢れ出した。
———生まれて始めて声を上げて泣いた。
でも……その姿をゼロに見られたくなかった。
気を使わせたくなかったし、彼には普段通りに接して欲しかった。
だから、私は彼が帰ってきても無表情を貫いた。
彼を見たら緩みそうになる頬を必死に引き締め、思わず抱き着きたくなる衝動を抑えるので精一杯で。
そこからの2週間は、人生で1番楽しい日々だったと断言できる。
私の人生を、全身に乗った重荷から私を救ってくれた彼との日々は、全てが輝いて見えた。
王城を案内して、庭へと一緒に散歩行った。
自由気ままに王都を周ってみたり、彼の話を夜通し聞いたり。
恥ずかしさを我慢して下着屋にも連れて行ったし、一緒にシャワー……はちょっと大胆だったとは思うけど、彼の反応が可愛くて……愛おしかった。
でも———。
『実はあのクズ男、昨日の夜に暗殺されたらしいんです』
その言葉を聞いた時、足元が崩れ落ちる錯覚に陥った。
有り得ない、そんなわけない……と未来を視て———絶望した。
未来では、ゼロは私の目の前で首を斬られ……その後は今までの未来と同じ。
だから私は彼を拒絶した。
彼に死んで欲しくなかったから、私を見捨てるように言った。
言ったのに……。
「おいおい、お姫様守護バフが付与された俺に勝てると思ってんのか!」
「な、何なんだコイツ……!? は、刃が通らん……!?」
「それに早い……!!」
ゼロは私を見捨てなかった。
それどころか、中級騎士でありながら上級騎士5人を相手に圧倒している。
既に2人がゼロの剣によって斬り捨てられた。
しかも戦いの最中だというのに。
「へいへい鈍ってんじゃないの? 中級騎士に負ける程度なら上級騎士名乗るのやめるんだなぁ!! あ、アシュエリ様、酔いは大丈夫そうです? 多分今の俺は平民愛用の馬車より揺れ酷いですから」
「…………」
「マジっすか? アシュエリ様の三半規管強えぇ……俺もそんくらい乗り物酔いなかったらなぁ……」
普段のおちゃらけた様子は微塵も変わらない。
挙句の果てに私の乗り物酔いを心配までしてくる。
……一体何なんだ。
何でそんなに私に構うんだ。
どれだけ貴方は私の心を揺さぶるんだ。
もう、分からないことが多すぎて、考えるのが馬鹿らしくなった。
気付かない内に、彼の脳天気さが感染ってしまったのかもしれない。
ホント、どうかしてる。
まるで病気だ。
私の消え掛かった心に巣食う———恋という病気。
未来視何かより制御の効かない酷い病気だ。
でも———。
「……ゼロ」
「ん? どした———おお、いい顔になりましたね」
私が恋に落ちたこの少年が、未来を諦めないというのなら———。
「これからのことは私が教える。だから……」
例え暗い未来が待ち受けど———。
「私を、私の家族を守って———
「———お任せあれ、
貴方と共に、望む未来を
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