第17話 最強の騎士団長の弱点
———騎士団長、カエラム・ソード・セレゲバンズ。
アズベルト王国の男爵家出身にして、騎士団最強の座に君臨する騎士。
『
名実ともに世界最強の騎士に相応しいってわけだ。
彼女———俺はずっと彼だと思っていたが———は、この世界の名だたる魔法使い達も『絶対に戦いたくない者』扱いを受けているとの噂もあるくらい。
そんな皆んなの憧れにして世界最強の騎士は。
「———さて、どう処罰してやろうか?」
「…………」
依然として土下座をしたままの俺に、楽しそうに声を掛けていた。
俺は上から聞こえる愉悦に染まった声に内心舌打ちする。
いや何で俺が悪いみたいになってんのよ。
元はと言えば、この女が初対面のくせに
誰だって開幕一発目に『ハハッ、お前ブッサイクだなぁ!』とか言われたら顔面ぶち抜くじゃん?
まだ手が出なかっただけ我慢した方だと思うのよ、俺は。
まぁでも圧倒的階級が上の者に舐めた口をきいて許されるわけもないのも理解はしている。
納得なんざ全く、これっぽちも、1ミリたりともしていないが。
そう、内心で不平不満を垂れている俺を、
「……騎士団長、コイツは……ゼロはどうしたら許して貰えるのでしょうか? この馬鹿はいつも考えなしに会話する者でして……」
エレスディアが全く庇っているとは思えないディスりと共に騎士団長に尋ねる。
普段なら即座にツッコんでただろうが……今回ばかりはエレスディアの言葉に文句は言えなかった。
だって俺の口のせいでこんな状況に陥っているのだから。
「ふむ、そうだな……ククッ」
「き、騎士団長?」
俺はずっと床しか見えないけれど、声色からしてあのエレスディアでさえ圧倒されているらしく普段の覇気がない。
あ、アリが俺の前を……強く生きるんだぞ、俺みたいになんなよ?
詳しく言えば、異性……それも美少女と美女を前にして土下座をする情けない姿を晒すんじゃないぞ、ってこと。
「ククッ……いや。前会った時は『私、他人なんか興味ありません』って顔してた奴が……苦手なはずの私を前にしてそんなことを言うようになるとは、とな」
「べ、べべべ別に今でも他人は興味ありませんが!? もちろんゼロにも! な、何なら、このゼロとかいう馬鹿はいつもウザくてキモくて変態で……!!」
おい、俺への不平不満&悪口オンパレードじゃん。
流石に黙ってはいられんよ?
俺はちょっと泣きそうになりながら、
「お、おい、そんなに言わなくても良くない? 初対面の人にそんなこと言ったら第1印象最悪じゃん?」
「既に最悪ならもう下がることはないわよ!」
「た、確かに……っ!! ———って騙されねーよ!? 俺、そんな第1印象最悪になるほどのことはしてないからね!?」
頭を上げてキッとエレスディアを睨む。
そんな危ない危ない……危うく騙されるとこだった、と胸を撫で下ろす俺の視線を受け、流石に言い過ぎたと自分でも分かっているのか、エレスディアが気まずそうに目を逸らした。
何て言い争う俺達を見ていた騎士団長ことカエラムは。
「———ククッ、なら罰として……お前らには2時間くらい訓練を受けてもらおう」
ニヤニヤとほくそ笑みながら、そんなことを言った。
「何で私まで!?」
「「良いではないか良いではないか」」
「全然良くないわよ!!」
エレスディアも巻き添えで。
「———おいおいその程度かよ、新入り! もっと足動かせ動かせ!」
「おいおいおこの程度でへばんなよ、新入り! そんなんじゃ戦争で生き残れないぜ!」
「いやだから……ゴホッゴホッ! 俺は新入りじゃないんですって……!」
「「言い訳をするな!」」
「言い訳じゃないのにっ!!」
えっと……地獄です。
訓練が始まって1時間半。
騎士団長であるカエラムの命令で訓練を一緒に体験させて貰っているわけだが……すっかり忘れていた。
———ここにいる奴ら……全員精鋭騎士階級だった、と。
つまるところ、ここにいる騎士達は全員ロウ教官に匹敵するないし上回る実力者なわけだ。
そんな奴らの受ける訓練を、兵士階級と騎士見習いの俺達が受ければ。
「———し、死ぬ……これは死ねる……っ!!」
もちろんの如くぶっ倒れる。
これから国王陛下との謁見があるはずなのにぶっ倒れている。
汗掻きすぎて気持ち悪い中、ぶっ倒れている。
もう意味分からんて。
そもそも俺はあんたらの尻拭いをやってやったんじゃん。
何でこんな揉まれなあかんねん。
思わず関西弁が出てしまうくらいにこの世の理不尽さを痛感していると。
「どうだ? 本場の訓練は?」
出ました全ての元凶、騎士団長のカエラム。
銀色の髪を垂らしながら、ニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべ……地面に大の字になった俺の顔を覗き込んできた。
殴りたいその笑顔。
「……どうも何も、超絶キツいですよ。普通に騎士になりたくなくなってきました」
「ククッ、これでも大分軽めな方だぞ?」
「俺、将来は下級騎士で退職したいと思います」
無理無理。
こんなキツい鍛錬を毎日できるわけ無いじゃん。
修練施設の訓練でも死ぬほどキツいのに。
てか———。
「———こんな中々お目にかかれない美人が騎士団長って知って、一瞬舞い上がった俺の気持ちを返して欲しいんですけど」
そう大きくため息を……。
「———ふえっ!? わ、わわわたしが美人……!?」
…………お?
俺は、顔を真っ赤にして口を押さえるカエラムを見て……ほくそ笑む。
「騎士団長、騎士団長」
「な、何だ?」
俺は未だ赤みの抜けきっていない頬の熱を冷ますように手で仰ぐカエラムに。
「騎士団長って、可愛いですよね」
「!?」
「それに、見惚れるくらい綺麗ですよね」
「〜〜〜っっ!?!?」
至極真面目な顔で言えば……ただでさえ真っ赤だった顔が、湯気が出そうなほど真っ赤に染まり、遂には顔を手で隠してしまう。
その姿を確認した俺は、内心ガッツポーズを決めた。
———憂さ晴らしといこうじゃないか騎士団長様よぉ!!
その後、ロウ教官が来るまで、仕返しとばかりに褒め倒してやった。
騎士団長はノックアウトしてたことと、大変スッキリしたことを、ここに明記しておく。
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