第2章 内乱
第16話 王城……の前に騎士団本部
———死にたくないから、魔法でも消し飛ばない身体を手に入れるために騎士団に入団した。
それが当初の目標で俺の原動力だった。
もちろんそれは今も同じだ。
だが、あくまで俺にとっては死なないための手段でしか無い。
ある程度の強さを手に入れれば、別に金持ちにならずとも、階級が上がらなくとも全く問題なかった。
死なないと自信を持って言え、普通の生活が出来ればそれでいい、と。
そんな一種の手段でしか無いはずの騎士団入団であったが……まさかの意図しない所で功績を上げたらしく、王城に呼ばれた。
それも、陛下直々に褒美を授けるとまで言う大層な話にまで膨れ上がっている。
まぁつまり何が言いたいかと言うと。
「正直に言うわ。———チビリそうなくらい緊張してきた」
この一言に尽きる。
寧ろこの一言しか今の俺の頭に存在しない。
もうね、無意識の内に全身が震えるんだよね。
俺の全細胞が緊張で縮こまってるんだよね。
もちろん、国王陛下に直に会うのが緊張する、というのもある。
だって俺は前世でも有名人でなければ陽キャでもない普通の人間だ。
緊張しないわけがない。
平社員が社長に会うとなれば、誰だって緊張するだろ?
アレが不敬があった場合に、クビが飛ぶんじゃなくて首が飛ぶ、に変わったら誰だって緊張するに決まってじゃん!
だが、意外なことにそれは全体の大体3分の1程度だ。
だって俺死刑くらいじゃ死なないし。
では、残りの3分の2は何か。
そう問われれば、答えは1つ。
———俺を消滅させられる者がいる。
王城……つまり王の膝下なんだから、俺を跡形もなく消滅させられる魔法使いが最低でも5人はいる。
因みに5人なのは、王国に『五大賢者』と呼ばれる、最低でも小国級の魔法が使える者達がいるからだ。
そんな輩に1個下の等級の魔法まで———何なら不完全で1個下とすら言えないレベルの魔法しか使えない俺が消し飛ばされないわけがない。
ついでに言えば、騎士団長や騎士副団長を含めて……ロウ教官を超えるバケモノ騎士がうじゃうじゃいるわけだ。
…………うーん、地獄かな?
神様は俺を殺させようとしているのかな?
『たかが一端の人間に2度目の人生は与えすぎた!』とでも言いたいの?
そんなわけで無意識の内に身体を震わせる俺に。
「アンタね……良い加減落ち着きなさいよ。陛下は大変聡明で寛容な方よ?」
王城に呼ばれたもう1人の功績者———エレスディアが呆れた様子で言った。
エレスディア・フォン・ドンナート。
赤髪赤眼の絶世の美少女。
僅かに釣り上がった目から気の強い美人といった印象を受ける。
スレンダーな体型と髪と、眼の色とは正反対の抜き刀の如き冷徹な雰囲気が、それを補強していた。
俺からしたらこいつも十分緊張の対象なのだが……根は生粋の
緊張する必要性を欠片も感じない。
何てエレスディアのことを考えつつ、反論の言葉を口に出す。
「いやいや……俺からしたら、全然緊張してないエレスディアの方がおかしい」
「何を緊張する要素があるのかさっぱりね。だって王城には世界最高峰の魔法使いがいるのよ? 興奮はすれど緊張なんてあり得ないわ」
確かに、彼女は先程から緊張というか……やけにソワソワしていた。
それが高名な魔法使いがいるから、というのは納得できる。
できるが……俺には分からん感性だ。
「ちっ、お前に共感を求めたのが間違いだったよ、この
「なっ!? アンタ……2人の時ならいざ知らず、まさか他の人がいるこの馬車の中で言うなんて流石に許さないわよ!!」
「許さなかったなら何なんだよ! 言ってみろよ! ほら言ってみて! お前に何ができるか言ってみて!」
そう俺がグイッと顔を近付けて言えば……。
「次の夜の鍛錬で絶対……ぜ、ぜったい、ボコボコ……うぅ……」
始めこそ意気揚々と言っていたが、どんどん尻すぼみに声が小さくなっていった。
悔しいのか、頬を僅かに赤く染めている。
これで俺に何も出来ないことが照明され———。
「———お前達、次五月蝿くしたら……帰って鍛錬追加だ」
「「…………」」
ロウ教官の脅しに、俺達はお互いに睨み合いつつ……身を縮こまらせた。
『———仮だが、一先ず2人の正式な甲冑を持ってくる。2人の身体に合わせる微調整に数時間は掛かるだろうが……それまでは騎士団本部の散策でもしているといい』
そう言い残して消えてったロウ教官の言葉通り。
「……広ぉぉぉぉ、そんでめっちゃきれーだなぁ……」
「アンタと同じ感想なのが悔しいわ」
騎士団修練施設とは天と地の差、月とスッポンと評せるほどの豪華絢爛な騎士団本部を、俺達はぶらぶらと征く宛もなく彷徨っていた。
外からは修練施設以上の騎士達の剣戟の音や掛け声が嫌でも耳に入ってくる。
その音が何か懐かしいような気になるのがめっちゃ悔しい。
「ぐっ……俺も遂に、掛け声が聞こえたら無意識に声が出そうになる領域に足を踏み入れてしまったのか!? くそう、そんなことには絶対ならないぞ! そんな高校野球部も真っ青な騎士魂を持ってたまるかっ!」
「アンタ何言って———」
「———ほぅ、随分と面白い奴じゃないか」
エレスディアの言葉を遮るように、如何にも芯の強そうな声色の声が割って入ってくる。
俺達が驚いて振り向けば……。
———平民みたいな格好の銀髪碧眼の美女が立っていた。
身長は俺と同じ170センチ程度に、出る所は出て、締まる所はしっかりと締まっている……まさに男の理想を体現したかのような抜群のプロポーション。
髪とは真逆の獰猛な笑みを浮かべてた姿は、肉食獣のようだった。
男勝りな口調もそうだが、纏う力強い空気から只者じゃないことが分かる。
そんな美女は、俺を舐め回すように上から下まで見ながら言った。
「ふむ……思った以上に不細工だな」
「こいつ失礼過ぎるだろ。おい、騎士団長はどこだよ。とんでもなく失礼な女がいるって騎士団長に直談判してやっから! ほら、謝るなら今の———」
「早く口を閉じなさい!!」
とんでもなく失礼な女に捲し立てる俺を、絶叫にも似た大声を上げて止めてくるエレスディア。
何事かと不審に思って視線を横にずらせば……とんでもなく青ざめた表情でふるふる首を横に振っていた。
どしたんだこいつ?
何でこんなにビビってんの?
俺が何か引っ掛かるな、と思いながらも首を傾げようとしたその時。
「———騎士団長は私だが……何だって?」
その声が聞こえた瞬間、俺は迷わなかった。
「私が悪かったです申し訳ありませんでしたどうか命だけはお救いくださいお願い致します一生のお願いです」
久し振りの全身全霊の土下座だった。
それと同時に納得もした。
……騎士団長が女って、テンプレだったなぁ。
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