第15話 帰還

「———知らない天井……ではないな、うん」


 目を覚ました俺は、見覚えのある天井———騎士団修練施設の医務室であることに気付き、安堵と落胆の2つの感情が胸中に渦巻く。


 ……あぁ、またこの場所に戻ってきちゃったのかよ……。

 一瞬嬉しくなったけど、実際全然嬉しくないよぉ……。

 てかどうして俺は医務室にいるの?


 ふと浮かんだ疑問に記憶を探ってみても一向に答えがないので、医務室のベッドの上で腕を組みながら首を傾げていると。

 

「うーん……さっぱり分からん」

「ぶっ倒れたのよ、アンタ」

「え? ……あ、エレスディアじゃん。どうよ、良くなった?」

「……まぁね。アンタのお陰で生きてるわ」


 唐突に医務室の扉が開き、エレスディアが答えをくれた。

 首にタオルを掛けているのと、若干汗をかいていることから……鍛錬の後なのかもしれない。

 疲れてるだろうにわざわざ来てくれるなんて、随分ご苦労なこった。

 

「……それで、アンタはどうなのよ。全然目を覚まさないから……えっと……」

「え、もしかして俺、3日寝てたとか!?」

「———し、心配…………は? 何言ってるの? アンタが寝てたのは丸1日よ」


 どうやら違うらしい。

 こういう時のテンプレは3日寝てたなんだけど……ちょっと残念。

 まぁそれより……。


「———心配?」

「……っ」

「ん? 何が心配だったんだよ? ほらほら言ってみなって〜」


 俺が揚げ足を取るようにニヤニヤと笑みを浮かべれば……。


「う、ウザっ……これなら後2日は寝てて欲しかったわ」

「酷くない? え、何か物凄く心配してる雰囲気出しといて、いきなりそんな突き放すなよ!?」


 ちゃんと嫌そうな表情を浮かべて距離を取るエレスディア。

 その開いた距離が、今の俺達の心の距離……うわぁヤバい、泣きそう。


「……ぐすん」

「ちょっ、何泣きそうになってんのよ!? ……あぁもう分かったわよ! アンタがカゲチ村に戻った途端に倒れて、馬車の中でも戻ってからも目を覚まさないから心配だったのよ!」


 『これで十分!?』と言わんばかりに、羞恥で頬を若干赤く染めたエレスディアが涙目でキッと睨んでくる。

 その姿は大変良いのだが……流石に自分が心配かけた側となると、いたたまれない気持ちになってくる。


「わ、悪かった……心配かけて」

「全くよ。……まぁあの状況なら、精神的疲労で倒れるのも無理ないけれど」


 あ、俺が倒れたのって精神的疲労だったのね。

 なら身体は大変元気だったってことか。


 しかし、確かに今思ってみれば、あの戦いはマジで精神を張り詰めていた。

 正直【極限強化グレンツヴィアット・フェアシュテルケン】を発動させてた時なんかは、攻撃が見えても避けれないくらい必死に制御していた気がする。


 だからか知らんけど、そん時自分が何を言ってたのか、正直あんま覚えていないんだよな……。

 何かヤバいことでも言ってなかった良いけど。


 そう内心ヒヤヒヤしていると……エレスディアが俺の袖を引っ張ってくる。

 何事かと彼女の顔に目を向ければ、目を伏せつつも顔を朱色に染め、何か言いたげな表情を浮かべていた。

 その今まで見たこと無い表情に思わずドキッとした俺は、そんな動揺を隠すように口を開く。


「ど、どしたのよ、急に。言いたいことがあるなら言ってみ?」

「……アレ、どういう意味なのよ……」


 あ、アレ……?

 アレとは一体何ぞ?


「すまん、もっと詳しく頼むわ」

「だからっ! ……アンタが言ってくれた言葉よ……っ」


 あんまり言わせるな、と言いたげに睨んでくるが……俺はそれでもさっぱり分からなかった。

 寧ろ頭に浮かぶ疑問符が増えるばかり。


 え、ホントに何なの?

 もしかして俺、【極限強化】の時に何か言ってた!?

 しかもこいつの反応的に結構大事めなやつ!?

 やっべ、何も覚えてないんですけど。


 ジーッと俺の目を見て、まるで俺の言葉を待っているかの如く黙り込んだエレスディアの姿に、俺の中で更に焦りが膨らんでいく。

 こうなったら、素直に覚えていないと言うべきか……と諦めの境地に達しそうになっていたその時。



「———ゼロ、どうやら目を覚ましたようだな」


 

 再び扉が開き、隻眼のイケオジことロウ教官が入ってきた。

 もちろん窮地だった俺がこのチャンスを逃すわけもなく……。


「あ、ロウ教官! あんまり時間経ってないですけどお久し振りです! もう目はバッチリ覚めましたよ。ええ、それはもうすんごく!」


 主に冷や汗をかいたから、とは言えないが。

 

 因みに、俺の袖を引っ張っていたエレスディアは、ロウ教官が入室してくるとほぼ同時に一瞬で手を離している。

 あまりの速技……俺じゃなきゃ見逃してるね。


「……ロウ教官、今回は一体どのような御用で? またここの馬鹿がやらかしたのですか?」

「おい、俺がいつやらかしたのか言ってみろよ。言えないだろ? だって1度もやらかしたことないからな!」


 若干不機嫌そうなエレスディアの言葉に俺が反論するも……まさかのロウ教官がそうだと言わんばかりに頷いた。

 真面目ちゃんである俺には青天の霹靂である。


「ほらやっぱり。アンタ、私が知らない内に一体何をやらかしてたのよ?」

「え……いやマジで身に覚えないんですけど。いやホントマジで!」

「でもロウ教官は……」


 エレスディアに責められ、タジタジな俺が助けを求めるように教官に目を向けると。


「いや、別にゼロが何かやらかしたわけではない。どちらかと言えば……2人がやらかした、と言えるな」

「「え?」」


 キョトンとする俺達2人に対して、心底愉快そうに笑う。


「ああ、もちろん良い意味だ。お前たちは、お前たちが斃したあのフードの男。あの男が誰か知っているか?」


 そう尋ねられ、俺達はお互い見合わせたのち、首を横に振る。

 すると、ロウ教官は『なら説明からだな』と言って話を続けた。



「彼奴の名は、アンドリュ・ハイド・キリング。又の名を———『快楽の死神ルスト・トーテンガイスト』。貴族の娘7人を陵辱した上で殺害し、追っ手の私兵を100人以上を殺したことで……長らく王国を震撼させ、騎士団から指名手配を受けていた連続殺人鬼の名前だ」

「ッ!?」

「??」


 

 エレスディアと違って俺はさっぱり知らないけど、とにかく物凄くヤバいヤツなのだけは分かる。

 ———で、そのヤバい奴を、先んじて俺が殺したわけだ。


 …………———ファッ!?


「フッ……やっと分かったか? つまり、ゼロ———君が、本気の騎士団を出し抜いて逃げ延びていた凶悪犯罪者を殺したんだ。まだ兵士階級の君が」


 そう言われて、やっと事の重大さに気付いた。


 え……アイツそんなヤバい奴だったわけ?

 確かに無茶しないと手も足も出なかったけど……ええぇぇ。


 俺は未だ理解の追い付かない頭を必死に回転させ、言葉を紡ぐ。


「え、えっと……これから俺はどうなるので……?」


 恐る恐る問う俺に、ロウ教官がニヤリと笑みを浮かべ———。





「———ゼロ、並びにエレスディア・フォン・ドンナートの両名は、これより早急に王城へ向かうように!! 陛下自ら、両名に褒美を授けるとのことだ」





 『歴代初の快挙だ、ガッハッハ!!』と、固まる俺達に告げるのだった———。


—————————————————————————

 ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。

 これにて第1章『初陣』は完結です。

 本章はゼロが頭角を現すまでの物語。


 そして次話から始まる第2章『内乱』で遂にタイトル回収が……!?

 是非ともよろしくお願いします!


 それと異世界週間ランキング10位ありがとうございます!

 これからも頑張ります!


 モチベで執筆スピードが変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします! 

 また、応援コメントもくださると嬉しいです。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る