第12話 作戦開始!

 ———場所は変わり、報告の文書を送った俺達はカゲチ村の近くに位置する森の中にやって来ていた。

 

 もちろん、俺達の討伐対象である野盗達が、この森の中にある洞窟を根城として使っているからだ。

 現在そんな洞窟は、魔物使いと思われる2人の線の細い男達と、そいつらが使役しているであろう狼型と猪型の魔物達が警戒にあたっている。


 そんな野盗たちの根城を少し離れた繁みに隠れて見ていた俺は、


「……クソッタレだ。この世界も、嘘付き村長も。そして……こんな勝算皆無の戦いに身を投じる俺も、全部クソッタレだよちくしょうが」

「なにいきなり自虐してるのよ。それに……勝算がないわけではないでしょう?」


 何て言いながら、どんよりと周りの空気が重くなっていると錯覚しそうなほどテンション低下中の俺へと、別の繁みに隠れていたエレスディアが、不思議そうに小首を傾げる。

 そんな彼女に現実を見せてあげることにした。


「良いか? 今俺達は、生身で真正面から馬に喧嘩売ってるくらい勝算が低い」

「なら必勝ね。馬になら勝てるわよ、私もアンタも。というか秒殺よ、秒殺」

「やだもうこの世界」


 俺の世界では生身で馬に喧嘩売ったら普通に死ぬんよ。

 何でこの世界の人間は馬をワンパンできちゃうのよ。


 完全に感覚がおかしいこの世界に辟易しつつ、少し真面目っぽい雰囲気を作る。

 それをいち早く察知したエレスディアも少し表情を引き締めたので、


「エレスディア、作戦は忘れてないよな?」

「当たり前でしょ。アンタみたいに馬鹿じゃないから」

「こいつ容赦なさすぎない?」


 何てお小言をもらいつつ、作戦について振り返る。


 まず当初の予定としては、村の娘達だけ助けて、後は救援に来た先輩方に丸々バトンタッチしようと踏んでいたのだが……どうやら明後日にでも野盗はこの村を襲撃したのち、この場所から去ってしまうらしい。

 というのも……精々足掻いてみせろ、と向こう側のリーダー格の大男がわざわざ言ってくれたんだとか。

 

 だからこそ、今直ぐにでも対処しなければならなかった。


 多分襲撃されるなら、普通に虐殺が始まる。

 それを看過できるほど、俺も薄情な人間じゃない。


 ———これらの理由から、全面的に潰すことを決めた俺達は、とある作戦を考えた。


 作戦自体は簡単。

 まず俺が野盗の前に堂々と現れる。

 そこで注意を引いたと同時に、小麦粉単体と小麦粉に水を混ぜた物の2種類を結構な速度で投げてもギリ割れない程度の強度の袋に包んだ———小麦粉爆弾をエレスディアが遠距離から魔物や魔物使いを中心にマシンガンのごとく投げまくっている隙に、強化魔法で五感を強化した俺が魔物達を殲滅する———『不意打ちベトベトマシンガン大作戦』という名の作戦。


 何でもこの村は小麦の名産地らしく、大量に小麦粉が手に入るのだ。

 そしてこの世界の小麦粉は、水に混ぜると俺の世界のとは比べ物にならないほどベトベトでドロドロになる。

 これを使わない手はない。

 

 配役については、チート能力がある俺の方が再生能力が高いから、必然的に死ににくい俺がコッチになっただけ。

 もちろん嫌だけどね。


 これだけ聞くと、騎士のくせに随分狡い手……と言われそうだが、寧ろ格上相手に無策でツッコむ馬鹿がどこにいるんだって話だよ。

 俺は死にたくないし、出来るなら痛いだって嫌だもん。

 

 そして今エレスディア自前の魔法鞄の中に、ハンドボール程度の大きさのドロドロな小麦粉が入った袋が合計50個ある。

 小麦粉水を包む袋の素材とかは適当に寄せ集めた物だし、不発も考慮して少し多めに作っておいた。


 何て作戦を思い返した俺は、腰に帯びた剣の柄に軽く触れたのち、そっと立ち上がると。


「そんじゃ、行ってくる」

「ええ、気を付けなさい。死んだら許さないわ」

 

 僅かに会話を交わすと同時———俺は意を決して繁みから飛び出し、




「———やぁ、野盗の諸君。少し俺とお話でもどう?」




 一歩で数メートルまで距離を縮め、軽快な笑みを浮かべて話し掛けた。








「———……何者だ、貴様? ここがどこか分かっているのか?」


 2人いる魔物使いの内の1人が、警戒してか、迂闊に手を出すわけでなく、魔物を待機させながら話し掛けてくる。

 そのため、後ろの5体ずついる狼型の魔物と猪型の魔物の唸り声が大変怖い。


 これで実は口から上級魔法並のビーム放てるとかやめてよ?

 そんなことされたら普通に泣き出しちゃうからな。


 何て内心ビビリ散らしながらも、表情と態度には一切出さず、飄々とした雰囲気をイメージして肩を竦める。


「分かってるよ、もちろん。薄汚い人間以下のごみ溜だろ?」

「おい小僧———」

「……待て、弟よ。挑発を真に受けるな」

「す、すまない兄貴……」


 さっきからやけに似てるなーって思ってたら兄弟だったらしい。

 まぁ心底どうでもいいけど。


 俺は僅かに後方のエレスディアに意識を向けつつ、もう少し情報を引き出すべく口を開いた。


「なぁ……魔物使いってお前らだけだよな?」

「な、何で分かっ———あっ……」

「…………」


 俺と兄と思われる男の呆れた視線が、うっかり口を滑らせた弟と思われる男の方へ向けられると共に、殺伐とした空気はどこへやら、気まずいというかギクシャクした空気が流れ始め……つい同情の言葉が漏れた。

 

「……アンタも苦労してんだなぁ」

「……ああ、弟じゃなかったらぶん殴ってるほどには」


 き、気の毒に……。


「立場が違えば、酒を飲み交わしてたかもな……。残念だよ、ホントに」

「あぁ、俺もそう思っていた所だ。だが———!?」


 何か言おうとしていた兄の方の男の言葉を遮るように、超高速でハンドボール程度の弾が幾つも飛んでくる。

 どうやらエレスディアが俺達の雰囲気の変化を察知して投げたらしかった。

 ナイスタイミングだよ。


 小麦粉爆弾は、一直線に魔物使いの2人に向かうと。


 ———バフンッッ!!


「ゴホッゴホッ!? な、何だよコレ!?」

「コホッ、くっ……お前たち、我らを守れ!」

「「「「「ガウッ!!」」」」」


 2人の顔面に直撃したソレは、大量の粉を撒き散らしながら煙幕のように視界を覆い尽くした。

 しかし相手も馬鹿ではないので、俺が攻撃してくることを警戒して、直様鋭く狼型の魔物に命令を下す。

 俺の思惑通りだと言うことも知らずに。

 

「「キャウン!?」」

「「「グルッ!?」」」


 案の定、狼型の魔物達は小麦粉の入った袋を切り裂き、ベトベトになったり粉を大量に吸い込んでむせている。

 猪型は……何か勝手にパニクって岩や洞窟に激突したり、お互いにぶつかり合って気絶していた。


 使役した魔物って主に似るんだね。

 それにしても面白いくらい引っ掛かるのな。

 エレスディアのコントロールも凄まじいし……お前、地球なら世界一のピッチャーになれるよ———って巫山戯てる場合じゃねーわ!


 俺は慌てて顔の下半分を布で覆うと。


「———【身体強化アップ】、【全部分強化オールアップ】」


 剣を引き抜く動作の中で、死ぬ気で鍛えた【身体強化アップ】と【全部分強化オールアップ】を小声で発動させた。

 フッと身体が軽くなる感覚と共に全身を全能感が支配する。

 それと同時に、力強い輝きを放つ白銀のオーラが俺の身体の周りを綺羅びやかに装飾したのを確認すると。

 



「———さぁ、正々堂々殺し合いしようぜ!!」

「「どこが正々堂々だ、この卑怯者ッッ!!」」




 何て、最後の最後にツッコんでくる芸人魂に燃えた兄弟の命を刈り取るべく、白銀の輝きに包まれた剣を振るった。

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