第11話 依頼

 月日は流れ、遂に試験開始の日となった。

 試験内容や割り振りは、3日前から全新人達に通達されており……朝から大量の新人達でごった返している。


 というのも。


 新人達は、ここ半年間ほど全くと言っていいほど外(騎士団修練施設の外)に出ていないのだ。

 貴族も平民も階級すらも関係なく、全員纏めて一歩たりとも。


 だからか、試験にも関わらず……新人達は何処か浮かれ気味で、通達された日から念入りに準備を済ませ、こうして朝一から我先にと出発しようとしているのである。

 ただこれは毎年恒例の様で、教官達が別に咎める様子もなかった。


 そんな中、俺達はと言うと……。



「———ここがカゲチ村か……意外とおっきな村なんだな」

「そうね、村というより……街って表現の方が合ってそうな規模ね」



 まだ朝日が登って数時間という時間帯に、既に依頼人がいる村にやって来ていた。

 そして今も言った通り、想像以上に発展していて広い村の様子に驚いている真っ最中である。


「なぁ、物凄く嫌な予感するんだけど」

「奇遇ね、私も面倒事の予感がビンビンしてるわ。だって、ここなら駐屯騎士の1人や2人は雇えそうだもの」


 駐屯騎士とは。

 大まかに言えば、ある程度大きく、騎士を雇える程度の税収がある街や領地が、自分達の街や領地を護ってもらうために要請を出し、それを騎士団が受け取ってから派遣される下級騎士達のことだ。

 規模や金で変動するが……このくらいの大きさならいてもおかしくない。


 このカゲチ村の広さを例えるなら……ディズ◯ーランドの3分の2くらい。

 中世よりのこの世界の村にしては少々大き過ぎるくらいだ。


「ま、ウジウジ考えていても仕方がないわ。依頼主の下へ行ってみましょうか」

「……うぃーす……」

「アンタ、依頼主の前でソレやったら拳骨だから」

「さぁ行こうか、美しきマドモアゼル」

 

 拳骨だけはご勘弁!








「「———……」」

「……え、えっと……」


 ……時が過ぎること数十分。

 依頼主であるひ弱そうな30後半の男———村長のアゲルの家に訪れた俺とエレスディアは、


「———よし、こいつぶん殴ろうぜ」

「ひっ!?」

「非常に賛成したいけれど我慢して。依頼主に手を上げたら私達が罰せられるわ。……あ、でも、転んだとかならお咎めはないわよね?」

「ヒィィィっ!?」


 村長の口から聞いた依頼内容のせいで手が出そうになっていた。

 ビクビク怯える村長に向け、俺はドンッと木製の机を叩いて吠える。


「おい、何だよこの依頼内容の違いは! なぁぁにが『複数の中級魔物の討伐』だ! いざ蓋を開けてみれば『複数の中級魔物———を使役する魔物使いが複数所属していると思われる野盗らの討伐』って……報告詐欺にも程があんだろ! オレオレ詐欺師もビックリだよ!」

「ひぃぃぃ、すみませんすみませんッ!!」


 腰を抜かしてただただ頭を地面に擦り付けて謝り倒す村長。

 その姿は酷く哀れに見えるが……それを請け負う側の俺達からすれば溜まったもんじゃない。


「解散だ、解散。これは俺達の手に負えねーよ」

「そうね、こればっかりは……」


 俺が手をひらひらさせて身支度を整えようとすると、顎に手をやったエレスディアも渋顔を作りつつ、同意する。


 まぁそりゃそうよ。

 中級魔物が複数体ならまだしも……それを使役する魔物使いが何人もいるとこの村長は宣うわけだ。

 それに話によれば、使役する魔物の種類も違って、魔物使いも最低2人以上と何とも不明瞭で情報が欠如し過ぎている。


 ただでさえ格上相手に情報すらなく、確定俺達よりも人数が多いと来た。

 そんな中戦うとか自ら命を差し出すようなモンだろ。


「エレスディア、こういった場合はどうしたら良いんだ? 通信魔道具とか貰ってきたか?」

「通信魔道具は……ないわね。だから手紙を出すしか無いけれど、それだと3日は掛かるでしょうね。その間は待つしか———」

「———ま、待ってくださいっ! 依頼を放棄するおつもりですか!? お願いします、どうか助けてください! 報告を偽ったのは謝ります! 後で私がどんな罰も受けると誓います! ですから……ですからどうか私達の娘を……!!」


 教官への報告について話し合う俺達の会話に割って入った村長が、目に涙を溜めるどころか大粒の涙を流して、何やら引っ掛かる言葉を口にした。


 …………私達の娘……?

 まさか人質にでもされてんのか?


 流石に聞き流すには、大き過ぎる情報だった。

 苦虫を噛み潰したような表情でチラッとエレスディアを窺うと、彼女も彼女で眉間にシワを寄せて何かを考えている様子だが……どうやら依頼を投げ出す気はサラサラなさそうだ。


 やっぱお前も引っ掛かるよね……あぁもうちくしょう!


 俺は大きなため息と共に涙を流す村長に目を向けると。


「…………上級魔法使いはいねーんだな?」

「!? も、もちろんです! 魔物使役の魔法以外を使う姿は誰も見たことありません!」

「へぇ……」


 村長が目を大きく見開いて俺を見上げ、エレスディアが面白そうに笑みを浮かべている。


「アンタにしては珍しいじゃない。ガクブルじゃなかったの?」

「今でもガクブルだわ、何ならさっき以上にガクブルだわ」


 でもさ、でもさぁ!

 その娘さんとやら達の命が危ないってのに見て見ぬ振りは……何かこう気持ち悪いんだよ!

 てかこれで俺達がやらなくてその子達が死んだってなったら、どうせ俺達が批難されて嫌悪の目を向けられんだろ?

 それに上級魔法使いがいないなら死ぬこともないだろうし……全く、全く!

 ホント理不尽だらけだなこの世界は!



「……すまんエレスディア、力を貸してくれ。俺1人じゃ100パー無理だ」



 俺は頭をガシガシかいたのち、真剣な表情を作ってエレスディアに告げる。

 すると———彼女が何故か嬉しそうに微笑んだ。


「ふふっ、アンタがその気になるなんて珍しいし……決闘の貸しもある。———もちろん手伝ってあげるわよ」

「すまんね、俺は自分勝手なもんで」

「この半年近くでよーーく分かったから別に良いわ」


 そう茶目っ気たっぷりに言ってくるエレスディア。

 普段の鬼みたいな姿が嘘みたいだった。


 まぁそれは置いておいて。


 しゃがんだ俺は、再び村長の目を見つめると。




「———さぁ、お前が知ってること全部話せ。俺達がその娘くらいは何とかしてやる……かもしれんよ?」




 依頼を受ける意思表明を行った。

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