第10話 ご褒美(軽い性描写です)
「———はぁぁぁぁ……。やっと終わった……」
決闘が行われた夜。
既に日が沈んだどころか、兵士階級の奴らは寮から出られなくなった時間帯。
俺は一足も二足も遅く、寮から少し離れた場所にある大浴場にやって来ていた。
———大浴場。
それは俺がこの地獄のような施設に来てから唯一、心を休めさせられる場所ある。
人が多いこともあり、大浴場にある風呂は25メートルプールより広く……洗う場所まで含めたら前世の小中学校の体育館より大きいかもしれない。
元日本人としてはちょっとテンションが上がるってものだ。
「あぁぁぁぁ……やっぱ風呂サイコー……」
手早く身体を洗い、湯船に肩まで浸かった俺は、おじさんのような日本人特有の声を思わず漏らす。
疲れが一気に取れるのと一緒にストレスもスッと抜けてく気分がする。
それはそうと。
「てか、どうして俺があんな注意を食らわないといけねーんだよ。全部エレスディアがやったことなのにさ」
そう、この時間まで俺が拘束されていた理由は、決闘についてと、公衆の面前でエレスディアとイチャイチャ(実際は俺がなすすべなくされてただけ)したことについて———教官から注意を受けていたからだった。
一緒に注意を受けたエレスディアはもう部屋にでも戻っている頃だろう。
てか全て俺に非などないはずなのに……理不尽だな、おい。
何か途中から出会いの少ないらしい教官職への文句と俺達への嫉妬が中心になってた気がするし。
まぁ話を聞いてると、絶対教官にはなりたくないなって思ったね。
「……てか、よく考えたら貸し切りじゃん、教官はそもそも別の所で入るらしいし。やば、ちょっとテンション上がってきたかも」
だってこの25メートルプール並の大きな風呂を独り占めだぜ?
そんなのテンション上がるだろ!
どうしよ、泳いでみようかな?
何てワクワクしてきた俺は、早速湯船の中の壁に足の裏を付けて蹴りを———
「———ね、ねぇゼロ。今……入ってる?」
——————へっ?
「ぶほっ!? がぼぼぼぼぼ」
「ちょ、ちょっとゼロ!?」
思いっ切り足を滑らせて風呂の中で溺れるという、中々に珍しい珍事件を引き起こした俺を、驚いた声を上げたエレスディアが慌てて引き上げる。
何とか引き上げられ、俺はうつ伏せで風呂横でゼェゼェ息を吐く。
「ゲホッ、ゲホッ! はぁぁっ、はぁぁっ…………はぁ、はぁ」
あ、危なかった……し、死ぬかと思った……。
俺のチート能力も溺死には効かんって……分かってんのかエレスディアさんよォ!
「お、おい、一体何してんだテメェ! 危うく死ぬとこだったろ!
俺は上を見ないようにしながら声を張り上げる。
それに対して心無しか普段より勢い小さめで反論の声が頭上より飛んでくる。
「ど、ドジっ子じゃないわよ! それにドMはやめろって言ったでしょうが! 普通に殴られるのは嫌よ!」
ちょっと何言ってるかわからない。
てか分かりたくもない……ってそんなことはどうでもいい!
落ち着け、俺……何が起こったのか整理しようぜ。
一体何が起こったのかを簡単に説明すると。
———突然、エレスディアが扉から顔だけ出した状態で声を掛けてきた。
更に付け足すなら……ここは男湯である。
もう一度言おう、ここは男湯である。
「おい、お前ここがどこか分かってんのか!? 男風呂なんだけど!? お・と・こ・ぶ・ろ!」
「し、知ってるわよ! 流石にそんなミスしないわよ!! だからアンタがいるか訊いたじゃない!」
…………ほぅ?
すまん、ちょっと頭を整理する時間をくれ。
まず、エレスディアはこの風呂が男湯だと知っていながら来た。
その証拠に、俺が中にいるか確認した。
その上で男湯に入ってきた、と。
…………ふむ。
「……お前、ドジっ子じゃなくて痴女の方だったのか」
「痴女!? アンタ、純真な乙女になんてこと言うのよ!」
「どこが純真な乙女だコラ! 男共に訊いたら、100人に100人がお前を痴女って言うに決まってる! ほら出てけ、バレたらまた教官にキレられるから!」
「なっ……そ、そんな追い出さなくても……。ただ私はアンタを労おうと……」
…………何だって?
俺は彼女から出た言葉に———思わずエレスディアの方を見てしまった。
そこには……。
「っ!?」
———バスタオルで身体の前側を隠したエレスディアがいた。
ただ、俺を引き上げる時にお湯が掛かったのだろう。
バスタオルがしっとりと濡れているせいで、エレスディアのモデルも素足で逃げ出すほどの抜群のスタイルがより強調されており……返って裸より蠱惑的だった。
バスタオルから出たしなやかで瑞々しい健康的な脚。
僅かに見える白肌のお尻とバスタオルでギリギリ隠された男を惑わす鼠径部。
キュッとくびれた腰に、バスタオルを幾らか押し上げる控えめな胸。
髪を後ろでお団子ヘアにしているおかげで見える艷やかなうなじ。
そして———羞恥からか僅かに上気した頬と潤んだ瞳。
「……………」
言葉が出ない、というのは正にこのことなのだろう。
喉を震わせようとしても震わない。
呼吸すら止まりかけだ。
美しすぎて……見てはいけないと思っても視線が釘付けにされ、目がどうしても離せなかった。
「あ、あまり見つめられると……は、恥ずかしい……」
「わ、悪い……」
更に顔を真っ赤にして唇をムニムニするエレスディアの言葉に、そう口にするものの……。
「そ、そんなにジッと見んな……! 話訊いてたの……!?」
「聞いてた。でも、眼球が全然俺の言うことを聞いてくれないんだ、気にしないでくれ。ところで……労うって何すんの?」
「き、気にしないで? ま、まぁ来たのは私だし……分かったわ。……それで労うっていうのは……背中を流そうかと……。ほら、外には出られないから物はあげれないし……」
「是非ともお願いします」
俺は腰にタオルを巻くとともに視線を未だエレスディアに固定したまま座る。
対してエレスディアは未だ顔を真っ赤にして背後に———。
「あの……動かないで欲しいのだけど。背中、流せないじゃない。あと……そ、その……」
———回った所で俺も向きを変えるので、結局向き合ってしまう。
そのせいで嫌でも俺の前側が見えるらしく、目を泳がせるエレスディア。
ただ、俺にはこう言うしか無い。
「お構いなく。というか、手を回して洗えばいいじゃないか」
「〜〜〜〜っ!?」
困った表情をするエレスディアに俺が視線を固定させたまま言えば、声にならない叫びを上げ———
「———も、もう無理……!!」
身体を翻してパタパタと出ていってしまった。
その結果、1人取り残された俺は……。
「……あいつのお尻と背中、めっちゃ綺麗だったなぁ……ありがとうございます」
そんな言葉を残し、ムラムラや一気に溜まった疲れを取るべくお風呂に再び浸かった。
—————————————————————————
ふっ……夜だからセーフなんだよ。(根拠のない自信)
あと、次話から依頼のお話に入るよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます