第7話 呼び出し

「———おいゼロ、これは……これは一体どういうことだよッッ!!」

「そうだぞ! 俺達の知らないところでエレスディア様と何していたんだ!」

「いやなにキレてんのよ。てか俺は疲れてんだけど」

「おだまり!」

「おいザーグ、こいつぶっ殺していいかな?」


 ロウ教官との手合わせが終わった俺は、早速新人内1、2を争うチンピラ———フェイと、熱血巨漢ことザーグに絡まれていた。

 もはや最近はエレスディアを抜けば、この2人と行動していることが多い。

 だからこうして絡まれているわけなのだが。

 

 ん、勝敗がどうなったかって?

 もちろん負けましたけど何か?


 上級強化魔法を発動させたエレスディアの一撃は、教官の木剣にヒビを入れることが出来たが、エレスディアの木剣は木っ端微塵になり……武器を失った彼女は速攻で鎮圧された。

 俺はそもそももう立ち上がれなかったのでそのままロウ教官の勝利で終わった。

 まぁでも、そもそも最初にも言ったように、俺達の目的は勝つのではなくて一泡吹かせることだったわけで……俺的には十分達成出来たつもりだ。

 

「はぁ……そんで、お前らは何が聞きてーんだよ?」


 俺が苛立つ心を抑えてため息を吐きつつ、そう問い掛ければ……。



「そんなの———エレスディア様と息ぴったりなことだよ! 同期の男は全員気になってんだよ!!」


 

 フェイが眉毛を吊り上げて俺を睨みながら宣う。

 そこで、先程の手合わせの最後でエレスディアとアイコンタクトのみで連携を取っていたことを思い出した。


 あぁ……確かにアレは、そこそこ相手の実力とか癖を覚えてないと無理だよなぁ。

 正直夜の鍛錬(意味深ではない、あるわけない)でエレスディアの癖とか殆ど覚えたんだよな。


 何て乾いた笑みを浮かべる俺の胸ぐらを掴んだフェイが、


「おいゼロ、お前まさか忘れてるわけじゃないよな……? 俺達3人、彼女を作る時は申請すると……!!」

「ばっか野郎! そんな大事なことを忘れるわけねーだろ!」

「お、おう……そうか……」


 そんな忘れるわけがない、超絶大事な約束について言及してきたのでノータイムで返答する。

 ただ、ちょっと気圧されているフェイは本当に意味が分からない。


「……ん? そんな約束したか?」

「「お前この野郎! アレを忘れるなど、万死に値する!!」」


 頭をポリポリかきながら首を傾げるザーグに、俺とフェイが同時に掴みかかる。

 突然襲い掛かった俺達にザーグが悲痛の声を上げる。


「お、おい止めるんだ! ここで五月蝿くしたら後で教官に……!」

「黙れザーグ、テメェだけは許せねぇ!!」

「そうだそうだ!!」


 何てワチャワチャしていた俺達の下に、



「———アンタ達……一体何してるの?」



 ついさっきまでの話題の中心であり、こんな事態を引き起こす原因となった少女———エレスディアが、軽蔑の視線で俺達を見下ろしながらやって来た。

 その瞬間に、俺達3人は即座に取っ組み合いを終わらせて正座をする。

 自分でも惚れ惚れするほど手際も所作も素晴らしい正座だった。

 

「……や、やぁエレスディア、どうしたよ?」

「今更調子を元に戻しても意味ないわよ。アンタ達って毎回こんな下らないことをしているの?」


 呆れた様子を微塵も隠さず口を開いたエレスディア。

 しかし、俺達はその言葉に異議を唱えないわけにはいかなかった。


「「く、下らないとは何だ! 男の約束はそれなりに重要なんだぞ!」」

「いやエレスディア様の言う通りだ!」

「「おいコラザーグテメェ!!」」


 再び取っ組み合いを始め———る前に、エレスディアからの下級強化魔法が施された拳骨を3人同時にお見舞いされる。

 あまりの痛さに悶える俺達……正確には俺に、エレスディアが告げた。



「———ロウ教官にアンタも呼ばれてるわ。早くしないと追加鍛錬……」

「今直ぐ行きましょう! さぁ、出発だ!」



 追加鍛錬、ダメ、ゼッタイ。







「「———失礼します」」

「む……来たか、先程の試験は素晴らしかったぞ。まぁ適当に座れ」


 ロウ教官に促され、俺とエレスディアは意外と質素で殺風景な部屋に入る。

 ただ、一応教官長みたいな役柄のため……置かれたソファーは物凄く高級そうだし、机も俺達兵士の部屋にあるものとは一線を画す物となっていた。


 余談だが、此処は教官のみが住む兵士の宿泊棟とは別の特別棟と呼ばれる場所だ。

 普通なら新人は入ることすら許されず……こうして呼ばれる以外にこの棟に入ることは出来ない。

 

 ま、別に行きたいとも思わないんだけどさ。

 だって息が詰まりそうじゃん。


「教官、私達はどのような要件で呼ばれたのでしょうか?」


 どうにもこの場所は好かん……とそこらの害悪おじさんみたいな思考をしていた俺を他所に、俺には1度もしたことのない敬語でロウ教官に尋ねるエレスディア。

 そんな彼女の問いに、ロウ教官は高そうな背もたれ&肘掛け付きの椅子に腰を下ろした状態で口を開いた。


「……2人は、もう少しで試験があることを知っているか?」


 試験……?

 何よソレ、全然知りませんけど。


 イマイチというか全然ピンときていない俺の横で、


「もちろんです」

「もちろんです!? え、知らないの俺だけ?」


 エレスディアがさも当然の如く頷くので、思わず声を漏らしてしまった。

 すると、2人が呆れの孕んだ視線を俺に向けてきた。


「アンタね……最初の入団式で聞いたでしょう?」

「あ、その時ね。そん時は俺、腹痛で席を外してたんだよ」

「アンタほんとに何してるのかしら!?」


 だってあまりにもお腹痛すぎて死ぬかと思ったんだもん。

 あと漏らしたら羞恥で立ち直れないし。


 道理で知らないわけだ……と、半目で見つめられつつ1人勝手に納得する俺。

 そんな中、弛緩した空気を元に戻すようにロウ教官が咳払いをする。


「ンンッ! ……試験は、今後の階級に響く重要なモノだ。例年騎士団に寄せられた依頼の中で、簡単な物を君達新人にやらせているのだが……」


 それで、と一旦言葉を区切ったロウ教官が真剣な眼差しを俺達に向け……おっと、なぜか物凄く嫌な予感がするぞ?

 今すぐ逃げ出したいな。



「……君等2人は、現時点で私を含めた教官からの評価が最も高い。よって———本来『騎士見習い』から『下級騎士』に割り振られる依頼を、2人に受けてもらおうと思っている」



 何て、面倒極まりないことを宣い出した。

 なので俺は渾身の笑顔を浮かべ———。





「すみません、タイムお願いします」





 腕でこれまた渾身の『T』を作った。

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