第6話 異常な成長速度(VSロウ教官)②

「———ロウ教官……さては性格悪いですね?」

「当たり前だろう? 寧ろ褒め言葉だな、そうでないと騎士も教官もやってられん」

「!? え、エレスディア、この人無敵なんだけど! 俺の嫌味を完璧に返してきたんですけど!」

「なに自分から仕掛けた口論でも負けてるのよ……」


 俺の中級魔法の衝撃を吹き飛ばすほどの上級魔法を発動したロウ教官に、ジト目で厭味ったらしく苦情を申してみたところ、清々しいほどノータイム且つ隠す気など微塵も感じぬ毅然とした態度で100%の返しをされた。

 これには流石の俺も涙目になる。


 おいおいこの人口も回るのかよ!

 俺の完全上位互換みたいな存在じゃん!


「くそう、絶対一泡吹かせてやる……!」

「どんな情緒してんのよアンタ……。まぁやる気を出してくれるなら私としては嬉しい限りなんだけど」


 そう呆れた様子でため息を吐くエレスディアだけど……全く興奮を抑えられず僅かに頬が上気している時点でお前も同類だよ。

 いや寧ろ俺より酷いか。


 何て一気にやる気が削がれていく俺の耳に、



「———後が詰まっている。そろそろ始めるぞ」

 


 全身を空色のオーラで装飾したロウ教官の威圧感満載な声が届く。

 その声だけで身体の芯から震え上がり、初めてエレスディアと戦った時以上に全細胞が警鐘を鳴らし、自然と生唾を飲み込んでいた。


「……エレスディア、自ら攻撃に当たりに行くなよ?」

「……分かってるわよ、モロに食らったら確定負けるもの」


 そんな最後の軽口を交わしたのち———同時に飛び出した。

 

 ロウ教官との距離はおよそ10メートル後半。

 その程度の距離、今の俺達ならば1秒以内に詰められる。


 軽々と人間を凌駕した速度で一気に距離を潰した俺達は、


「ふっ……!」

「はっ!!」


 一先ず様子見で真正面から木剣を振り下ろす。

 ただ、様子見といっても何方も全力の一撃だ。

 同期はともかく、普通の教官でも剣を抜かせて顔を思いっ切り顰めさせることくらい出来る。

 

 出来るはずなのだが……。



「……ほぅ、中々の一撃だ」


 

 そう言いながらも表情を全く変えないどころか、まさかの剣を抜かず、肘を曲げて腕を掲げるだけで俺とエレスディアの木剣を受け止めていた。


「おいおいマジかよ……ホントに同じ人間か?」

「……っ、こんなに差が……」

 

 これには俺もエレスディアも恐れ慄くと同時に、追撃を選択せずに距離を取らざるを得なかった。


 一瞬で数メートルの距離を取った俺達は、一呼吸置き———再び強襲。

 しかし今度は左右からロウ教官を挟み込むように駆け、同時に剣を薙ぐ。

 ヒュッ、と風を斬って進む木剣の刃がロウ教官に当たると思った瞬間———。


「「ッ!?」」


 眼の前からロウ教官の姿が掻き消えた。

 もちろん俺達の剣は空振り。

 思わず目を見開くと共に、背後から衝撃が与えられる。


 重くて鋭く……とても痛い。

 

「ぐっ……」

「ゼロ!?」


 物凄い勢いで吹き飛ばされたため、エレスディアの驚愕が入り混じった叫びが一瞬で小さくなる。

 確認できないが、身体が逆『く』の字になっている気がしてならない。


 い、痛てえええええええええ!!

 何だよ、同じ木剣だよな!?

 普通に衝撃だけで背骨どころか肋骨も折れたんですけど!?


 しかし俺にはちょっと期待外れなチート能力———【無限再生】がある。

 既に吹き飛ばされている途中で骨はほぼ全て再生済みだ。

 これでまた戦える。


 俺は空中で無理矢理身体を捻り、


「うおおおおおお!!」


 地面に思いっ切り剣を突き刺した。

 強化しているお陰で石の地面にもちゃんと刺さる。


 そして数秒ののち、やっと止まる。

 バッと顔を上げれば、そこそこ遠くでエレスディアが必死にロウ教官の剣撃に食らいついていた。


 おお……あいつやっぱりやるな……ん?


 今の今までの感心はどこへやら、どんどん表情が無になっていることを感じながらジッとエレスディアの顔にピントを合わせれば……あらびっくり。


 ……物凄く喜んでいらっしゃるじゃないですか。


「……もう俺だけ降参しようかな」


 何て思った直後、ギュンッという効果音が付きそうなほど勢い良く、エレスディアの顔が此方に向き、


「———早く来なさいよ! ぶっ殺すわよ!?」

「い、イエスマム!!」


 先程の喜びの感情はどこ行ったらのかと、1度問ただしたいほどの憤怒に満ちた顔で怒鳴られた。

 反射的に敬礼しちゃったよ。


 ただ、まぁ……。




「———いっちょやってみるか」




 ———ドゴンッ!!


 勢いよく地面を踏み込む。

 石の地面がヒビ割れ、俺の身体が弾丸の如き速度で加速。

 一瞬で景色が変わり———俺はエレスディアとロウ教官の間に割って入った。


「教官、今度は俺と相手してくださいよ」

「……治癒力が本当に高いな、ゼロ」

「それだけが取り柄なんで———ねッ!!」


 ———スパァァンッ!!


 脚に掛けた魔法に更に魔力を流し、自身最高威力の蹴りをお見舞いする。

 マッハを僅かに越えた蹴りはソニックブームを引き起こし、木剣で受け止めていたロウ教官と近くにいたエレスディアを吹き飛ばす。


「ちょっ———何で私まで吹き飛ばしてんのよ!?」

「じゃないと不意を付けねーだろうが……よっと!」

「ふぅ……!!」


 俺は野次を飛ばすエレスディアに言葉を返しつつ、僅かに目を見開いたロウ教官へと、間髪入れず怒涛の連撃を繰り出した。

 振り下ろし、切り返し、横薙ぎ、袈裟斬り、突き、蹴りにタックルまで何でも。


 反撃はもう避けることは諦め、吹き飛ばされないように意地で耐えて【無限再生】で即座に再生する。

 これが今の俺に出来る最適解であり全力だ。


「うぉぉぉおおおおおおおッッ!!」

「ぐっ……。な、何だ、この再生能力は……」


 もはや捨て身としか言えない攻撃と一瞬で骨折や切り傷が治ることに、流石のロウ教官も困惑している様子。

 俺はそんな彼にニヤリと笑みを浮かべると、ドヤ顔で言い放つ。


「だから、これだけが取り柄なんですって」


 ほんと、この能力無かったらこんな場所来てないし。

 まぁあってもこんな鬼畜世界じゃなかったら鍛えてないけど……全く、つくづく残念な世界だぜ。


 俺は内心大きなため息を吐く———



「———ただ、まだまだだな」



 唐突に、視界がブレた。

 そのほんの少し前に、ロウ教官の拳が俺の視界によぎった気がするが……定かじゃない。


「!? な、何だ、コレ……?」

「揺らされたのは初めてか? 偶にあることだから、気を付けることだ」


 脚に力が入らず立っていられなくて、身体と視界が揺れる。

 どうやら平衡感覚に狂いが生じているらしかった。

 これだと流石の【無限再生】も機能しない。

 

 でも———まだ出来ることが1つある。


「!?」

「へ、へへっ……逃がしませんよ、教官」


 俺はこの3ヶ月の絶え間ない破壊と再生の繰り返しで磨き上げた、誰にも負けない自信がある握力でロウ教官の足をガッチリと握り———





「———後は頼んだぞ、エレスディア」

「———【攻撃強化アタックアップ】。ええ、任せときなさい、ゼロ」





 俺の後ろから突如として現れた、猛る炎の如き真紅のオーラに身を包んだエレスディアが———上級魔法を発動させて剣を振り下ろした。

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