第3話 まさかの真実

 ———当たり前だが、騎士団にも階級がある。


 まず俺達新人に該当する兵士から始まり……騎士見習い、下級騎士、中級騎士、上級騎士、精鋭騎士、副騎士団長、騎士団長もの8つの階級に分かれているらしい。

 ただ、基本的に上級以上は才能ある貴族の次男以降の者がなるのだとか。


 そして少数でも隊を率いることが出来るのは、最低でも下級騎士かららしい。

 ただ殆どの場合は中級や上級の騎士からの仕事となっており、下級騎士も実質兵士や騎士見習いと大して変わりはしないのである。

 

 余談だが、教官であり俺の面接を担当した隻眼のロウと呼ばれる教官は、平民出身初の精鋭騎士にまで成り上がった傑物らしい。

 そのため平民から絶大な人気を博しており、騎士団内にも彼に鍛えられた者が数多くいるとか何とか。


 ……うん、そんな人から逃げ出すなんて不可能だよ、フェイ。

 俺が止めていてよかったな、いやマジで。


 何て現実逃避は程々に、俺はチラッと目線を上にした。

 そんな目線の先には……。



 ———赤髪赤眼の美少女が佇んでいる。



 僅かに釣り上がった目から気の強い美人といった印象を受け、髪を後ろで結い、スレンダーな体型と姿勢良く毅然とした様子で佇む姿がよりその印象を補強していた。

 ただ、今は夜中だからかフリルの付いたネグリジェに身を包んでおり……昼とは違って少し可愛らしく隙のある印象を受ける。


 彼女の名は———エレスディア・フォン・ドンナート。

 俺と同い年のアズベルト王国伯爵家の令嬢であり、同年代最強と名高く……その証拠に新人兵士唯一の初っ端『騎士見習い』の地位を授けられた才女。


 そんな神童で貴族たる少女が、平民たる俺の目の前にいた。


「……えっと、俺はどうしたら良いんでしょうか……?」

「う、五月蝿いわよ……ちょっと黙ってなさい。……はぁ、こんな真夜中にあんな大声出す馬鹿が一体どこにいるっていうのよ……っ!」


 眉を吊り上げて忌々し気に睨んでくるエレスディアに、俺は土下座の状態から顔だけ上げて、


「いるじゃないですか、貴方の目の前に」

「皮肉で言ったのよ! 屁理屈で返すな!」


 キョトンとした表情で告げると、怒り心頭と言った様子のエレスディアに耳を引っ張られながら罵声を耳元で浴びせられる。

 さっきのこともあり、大声を出さないように配慮した結果が耳元で言う、という行動になったのだろうが……。


「……ちょっといかがわしいお店のオプションみたいですね、何セイン払えばいいですか?」

「次巫山戯たことを抜かしたら、一生口を聞けなくしてやるわ」


 おっと、随分と物騒でちゃんと困る脅迫ではないですか。


「因みにどんな方ほ———」

「物凄く酷い方法で、よ……っ!!」

「い、痛いです……」


 更に耳を引っ張られた俺は、涙目でギブアップとばかりに両手を上げる。

 すると、エレスディアは深々とため息を吐いたのち、依然として俺を睨みつけながらも、そっと俺の耳から手を離した。

 何とか耳が千切れる前に開放された俺は、即座に耳を手で包み込むように保護して口を開く。


「……それで、エレスディアさんはどうしたいんですか? あ、もしかしてサンドバッグが必要なんですか? ならウチにフェイっていう良いサンドバッグが……」

「違うから! そんな人を殴って楽しむような頭のおかしい奴じゃないから!」


 どうやら違ったらしい。

 案外俺が再生能力が高いから目を付けられたと思ったんだけど……なら何でこんな場所に?


「どうしてこんな場所に? ここ、何もないですけど……」

「……た、たまたまよ。少し外の空気を吸おうと窓を開けたら、アンタが防壁の扉の中に入る姿を見ただけ」


 なんてこった、流石に遠目から見られるのは予想外だった。

 次からは双眼鏡も使って念入りに確認しよう。


 俺が密かに決意する中、エレスディアが此方をチラチラ見ながら、


「……と、ところで、何でこんな真夜中に魔法なんか使っていたのかしら?」


 少し興味ありげに問い掛けてきた。

 その瞬間、俺の中のとあるセンサーが反応する。

 そのセンサーが示す反応に従い、俺はそっと言葉を紡いだ。


 

「……俺に気があるんですか?」

「は? 違うわよ、何言ってるの? ただ私は、アンタの強化魔法を発動する時の詠唱が今まで聞いたこと無いモノだったから気になったのよ」

「そ、そんなハッキリ否定しなくても…………ん?」



 俺はパチパチと目をしばだたかせる。

 理由はただ1つ。


「え、魔法に興味があるんですか……!?」

 

 本来騎士は、魔法使いになれなかった者がなるモノだ。

 正直それなりの使い手の魔法使いが1人いれば、そこらの有象無象の騎士はフルボッコに出来るし、世界で有名な魔法使いもなると一国すらも相手取れる。


 だから騎士は常に魔法使いより格下と蔑まれるため、騎士達は極端に魔法を嫌う。

 基本的に属性魔法系統は使わないし、使う魔法だって強化魔法の中でも肉体を強化するものくらいなのが良い例だ。

 

 まぁ余所者の俺からしたら『なに意地張ってんだ、ばっかじゃねーの?』としか思えない所業なのだが……まぁそれが当たり前なのだ。


 だからこそ———剣の神童とも呼ばれるエレスディアが魔法に興味があることが不思議でならなかった。


「な、何よ……。そ、そんなにおかしいかしら……?」

「め、珍しいなぁ……とは思いましたけど」


 俺的にはそういった差別意識がないのは高ポイントです。


「まぁでも魔法って良いですよね」


 何て何気なく……ご機嫌取り7割、本音3割で言ったのだが、



「———そうなの!! 魔法って本当に凄いのよ!!」



 目をキラッキラッ輝かせながら声のトーンを何個も上げて、想像以上のハイテンションで返された。

 更に、天地がひっくり返るくらい衝撃的な言葉も添えて。




「そもそも私———実際にこの身で魔法を食らいたくて騎士団に入ったわけだし」


 

 

 …………女王様ドSかと思ったら、生粋の魔法狂ドMじゃないですかやだー。


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