第22話 講談1・お力(21)
えー、とにかく、これで一葉は甦りました。魂の中の陰に覆い尽くされそうになっていたのを一気に、夜明け前の闇に曙光が差し広がるように、彼女の魂にある闇を、陰を一気に駆逐したのです。このとき彼女は自分を許し、同時に他の人々、友人や知人、市井の人々すべてを、自らの心の内に受け入れ、これを許したのです。同苦同悲の存在として、彼らのあるがままを暖かい心の内に受け入れ、これを抱擁したのです。この時にやっと、自らが造った「埋もれ木」のお蝶も、「にごりゑ」のお力の存在をも彼女は越え得たのでしょう…。
えー、しかしですね、お客様の中には「いやお前、それは違うだろう。お前の云うその…売春や窃盗が仮に事実だったとしたら、許すのは世間の方であって一葉じゃないだろう」と、そう思われる方もあるいは居られるやも知れません。えー、そうですねえ…そりゃまあそうです。その通りです。常識的に考えれば確かにそうなるかも知れません。事実他ならぬ一葉自身が未完に終わった最後の小説「わかれ道」の中で主人公のお京にこう云わせています。「あら吉っちゃん、私はお前のことを本当の弟のように思うているのだから、そんな愛想尽かしは止したがよかろう」と。そしてお京に傘屋の小僧・吉三を、うしろから抱きかかえさせているのです。因みにこの吉三はお京が金持ちの妾になるのを知ってこれを咎め、愛想尽かしに来ていたのでした。えー、ですから、これはつまりその…妾になるという悪行(?)を一葉は、お京をして世間に詫びている分けですね。お力が一葉の写し絵だったようにこのお京も一葉の最終的な写し絵でしょう。一葉はつまり「埋もれ木」のお蝶も「にごりゑ」のお力も、自分自身と、世の中のすべてをこの「別れ道」のお京の抱擁のうちに許し、これを魂の光へと昇華させているのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます