第17話 講談1・お力(16)
この矛盾し鬱屈した身と心を(分けても心を)、その解決を、他人に、朝之助に託しても託された側は受け切れませんね。なぜなら身はともかく心はお力のものであり、お力みずからがその因と業を解決しない限り、誰も助け得ないからです。仮に朝之助がお力を身請けして身(境遇)を助けたとしてもお力が魂の因業を自ら解決しない限り、2人の間には何らかの問題が生じたでしょうし、第一その前にお力自身が身請けを断ったのではないかと見て取れます。なぜと云うにさきほど朝之助から肩をポンと叩かれて覚醒した後の、お力に於ける本心と自我の葛藤の末を見れば明らかでしょう。お力は銘酒屋稼業を忌み嫌いながらも菊の井の華としての自分に自負心があり、上辺では嫌と云いながらも身も世もない呈で自分を求める源七に強く惹かれても居、何より、父・祖父からの因業に〝執着〟があるからです。その辺の有り様は恐らく…一葉が知事となった渋谷三郎からの求婚を断ったことに、あるいは似てはいますまいか…。
さて!(張り扇一擲!)この講釈の始まりの頃に…えー、具体的には第9話の冒頭7行目において、わたくしは「一葉はお力の中に偽らざる自らを曝け出し、どうかするともう居直ってさえいるようです。自らの実存の様を読者にバーンとぶつけて、さあどうだ、笑うなら笑え、蔑むなら蔑め…とでも云っているかのようです。自らの苦しみを隠すことなく、また自分に誤魔化すことも最早せず、お力の人生を成り行きの彼方に昇華さえさせているように見えます」と講釈致しております。ではその成り行きの彼方に昇華させたお力の人生の終末は、最後は、果していかがなものだったのでしょうか?ここでまた一葉原作「にごりゑ」から原文を引きましょう。
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