第15話 講談1・お力(14)
お力は膝の力が抜け思わず結城の肩に手を掛けてすがります「結城さん…」その途端に無機質で幻影のようだった廻りの景色が、夜店が立ち並ぶ人々の雑踏が現実としてお力の耳に蘇りました。
「ハハハ。どうした、お力。今夜の俺はやけにお前にもてるな。どうだ、え?このまま菊の井の2階の部屋までいくか?ハハハ」
お力はそれでもまだ肩で息をしながら手を離さずに結城の顔を真剣に見詰めますが「おいおい、羨ましいな、色男は。あれは菊の井のお力だぜ」「あ、ホントだ。ひえ~ちきしょう。驕れ、驕れ。お大尽野郎め」なる通りすがりの男たちの会話に自分を取り戻します。何とも云いようのない、幽体離脱の、魂が〝あくがれ出づる〟ような体験をした直後のこととて、未だ取り乱し気味の観はありましたが…。
「へん、どういたしまして。遣り手や廻し方も通さずに…いくら結城さんたって、お力はそんなに安くござんせん」と、なんとか取り繕ってみせましたがその実内心では『まったく!なんでこうなのよ?!あなたは。あたしを抱きしめてただ〝お力〟と云ってくださればいいじゃないか。あたしがその気になって縋っているのに…』とばかりに本心を爆発させているのでした…。
さあて!(張り扇一擲)お力の有り様の実況中継を醒ますようで甚だ恐縮ですが、万事…いや、お力と一葉とこの〝わたくし野郎〟の三者に於ては、万事すべからく、斯くのごとくである分けですよ……いいですか?お分かりになりますか?お客様。魂に妥協はございません。お力が現実をどんなに嫌い酌婦の身からきっぱり足を洗って結城朝之助と結ばれることを願おうとも、それは叶いません。なぜならばお力はお力だからです。
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