第14話 講談1・お力(13)
行き交いする人の顏が皆小さく/\見えて、袂に摺れ違うほどの人の顏さえもが遙遠くに見るように思はれ、まったく現実感がないのです。それは恰も自分が踏む土のみ一丈(約3メートル)も上にあがりたるような心地なのでありました…はて、いったいこれはどうしたことだろう、あたしはいま現し世に居るのかそれともあの世に居るのか、すべてが虚ろでさっきまであった哀しみも空しさも、確か絶望も?…何も感じない。何かボーッとしていてすべてから離れ浮き上がって居、隔絶しているような気がする。これは…?ああ、そうだ。これはあたしが常々願っていたあの…〝どうしたら人の聲も聞えない物の音もしない、靜かな、靜かな、自分の心も何もぼうっとして物思いのない處〟…という世界そのものだ。ああ、そうなのか…これはいい!これは素敵だ。もうこのままこの小路を通って、彼方の世界へと行ってしまおう…とお力は思い、その口元には僅かな笑みさへ浮かべて見せます。
ストーカー三昧・浪曲、小話、落語 多谷昇太 @miyabotaru77
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