第10話 まん延

 その晩、宮本は斎藤智樹との心温まる会話を胸に、学園の寮へと戻った。静かな夜が訪れると思われたが、その直後に学園内で異変が起きた。翌朝、生徒たちの間で急激な体調不良が広まり始めた。発熱や倦怠感、咳が止まらないなどの症状が次々と報告され、次第に校内全体が混乱に陥っていった。


 宮本が校内を歩いていると、斎藤が校医室の前で忙しく働いているのを見かけた。彼の表情は険しく、医療スタッフと共に全速力で対応に追われていた。斎藤の手元には、次々と運ばれてくる生徒たちのカルテが積まれていた。


「どうしてこんなことに…」と、宮本は思わずつぶやいた。


 斎藤が宮本の声に気づき、立ち止まって彼に向かって言った。「宮本くん、ここで何をしているんだ?君も何か具合が悪いのか?」


「いえ、私は大丈夫です。ただ、こんな状況を見ているのが辛いだけで…」


 斎藤はしばらく黙って考え込んでいたが、すぐに医療マスクを装着し、話を続けた。「どうやら、ウイルスが校内にまん延しているようだ。詳細はまだわからないが、まずは感染拡大を防ぐために全力で対応しなければならない」


 宮本は斎藤の冷静な判断に感心しつつも、その責任感と疲労が隠しきれないことに気づいた。「私も何かお手伝いできることがあれば言ってください。たとえ、何もできなくても」


 斎藤は感謝の意を込めて微笑んだ。「ありがとう。君の協力が心強い。実際、今は校内の清掃や消毒、また感染の広がりを防ぐための注意喚起が必要なんだ」


 宮本はその指示を受け、学園内を巡回して消毒作業を開始した。生徒たちが感染しないように、手洗いやマスク着用の徹底を呼びかけ、清掃業者と協力して校内全体の消毒を行った。


 数日後、ようやくウイルスの感染拡大は収束に向かい、斎藤とそのチームは疲労困憊しながらも安堵の表情を浮かべた。宮本も一緒に頑張り続けた結果、学園は再び平穏を取り戻しつつあった。


 ある晩、斎藤は校医室の外で一息ついていると、宮本が彼の元にやってきた。「斎藤先生、お疲れ様です。あの、最近のことを乗り越えたことで、改めて先生に感謝の気持ちを伝えたくて」


 斎藤はその言葉に微笑みながら、「君の協力がなければ、ここまでの回復は難しかっただろう。ありがとう、宮本くん」


二人は互いに深い感謝の気持ちを共有し、静かな夜の校内で、再び穏やかな時間が流れていった。斎藤の瞳には、学園のために戦い続けた誇りと、宮本との絆が深まったことへの喜びが映し出されていた。

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