第8話 意外な人物

結城は、最新の位置情報ゲーム「バイオハザードリアル」を手に入れ、興奮を抑えきれなかった。スマホの画面に表示されたゾンビたちが、まるで学園の廊下や教室に実在しているかのように見える。結城は、その現実感に胸を躍らせながら、ゲームの開始ボタンをタップした。


「よし、まずは図書館から攻略だ!」


結城は画面に映るマップを確認しながら、学園内を歩き始めた。普段は静かな図書館も、今やゲームの舞台となり、物陰から現れるゾンビたちが彼を待ち受けていた。結城はスマホを片手に、画面上の銃を撃ち、迫りくる敵を次々と撃退していく。


「こんなの、楽勝だ!」


彼は自信満々で先へ進んだ。だが、体育館に近づくと、ゲームの雰囲気が一変する。巨大なボスゾンビが現れ、結城は一瞬、立ち尽くしてしまった。しかし、彼はすぐに我に返り、戦闘準備を整えた。


「ここで引き下がるわけにはいかない!」


結城はスマホを握りしめ、全力で戦いに挑んだ。必死に画面をタップし、巧みに身をかわしながら、ボスゾンビとの激闘を繰り広げた。その様子は、まるで自分が映画の主人公になったかのように感じられた。


そして、ついにボスを撃破した瞬間、結城のスマホが勝利を告げる音を鳴らした。


「やった、クリアだ!」


結城は息を切らしながらも、満足げに微笑んだ。学園内のあちこちに仕掛けられたゾンビやミッションをクリアしながら、彼は自分の限界に挑戦し、友達との絆を深めることができたのだ。


「また次のイベントが楽しみだな」と結城は呟き、次なる冒険を心待ちにしながら、学園の夕暮れを見上げた。彼の心には、新たな挑戦と興奮が溢れていた。


 結城が「バイオハザードリアル」で学園内を巡っていると、体育館から戻る途中、ふと校医室の前で足を止めた。普段はあまり訪れることのない場所だが、今日はなぜか引き寄せられるように扉を開けた。


中に入ると、そこには新しく赴任してきたばかりの校医、斎藤智樹がいた。彼は白衣を着こなし、優しげな表情で結城を迎えたが、その瞳の奥には鋭い何かが潜んでいるように感じられた。


「やあ、君が噂の結城くんか。最近この学園で何か面白いことでもあったかい?」


斎藤は静かに問いかけた。彼の声には不思議な魅力があり、結城は自然と話しやすく感じた。


「いや、ただゲームを楽しんでいただけです。でも、先生がここに来たのは初めてなんですよね?なんだか、先生には特別な雰囲気があるような気がします」


 斎藤は微笑んだが、その笑みにはどこか意味深なものが含まれていた。


「そうかもね。私には少し特殊な経験があってね、こういった場所での仕事が得意なんだ。困ったことがあれば、何でも相談してくれ。特に、身体だけでなく、心のケアも必要なときはね」


 結城は斎藤の言葉に少し驚きつつも、彼の落ち着いた態度に安心感を覚えた。新しい校医がどんな人物なのか、そして彼の言う「特殊な経験」とは何なのか、結城の興味はますます膨らんでいく。


 斎藤は結城の表情を見つめながら、静かに続けた。


「君がやっているそのゲーム、現実とデジタルが混ざり合う瞬間があるだろう。時には、どちらが本物なのかを見失うこともあるかもしれない。だからこそ、しっかりと自分を保つことが大事なんだ」


結城はその言葉に深く頷いた。斎藤の言葉には、ただのゲーム以上の意味が込められているように思えた。


「先生、ありがとうございます。何かあったら、必ず相談に来ます」


斎藤は満足げに微笑み、結城に軽く手を振った。「いつでも待っているよ」と優しい声が返ってきた。


結城は校医室を後にし、再び学園の廊下を歩き出した。しかし、斎藤智樹という謎めいた校医の存在が、彼の心に深い印象を残していた。これからの学園生活が、少しだけ違うものに感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る