猫の体と少女の願い

@rikowata

第1話

小さな町の一角に、静かな住宅街が広がっていた。そこにはエミリーという14歳の少女とその母、アリスが暮らしていた。エミリーの家には、長い毛が美しい黒猫、ミロが一匹住んでいた。ミロはエミリーの大切な友達であり、彼女にとっては特別な存在だった。しかし、アリスは猫が嫌いだった。彼女の家には猫アレルギーがあり、猫がいると体調を崩してしまうため、エミリーがミロを家に迎えることには最初から反対していた。それでも、エミリーのしつこいお願いとミロの可愛らしさに負けて、アリスは最終的にミロを受け入れたものの、心の中では猫に対してまだ偏見を持っていた。ある日の午後、エミリーは学校から帰ると、自分の部屋でミロと遊んでいた。その日は特に暑く、エミリーは冷たい飲み物を飲みながら、ミロと一緒にソファに座っていた。すると、突然ミロの目が不思議な光を放ち始めた。エミリーがその異変に気づくと、部屋の空気が急に冷たくなり、ミロの周りに淡い光の輪が現れた。エミリーは驚きと興奮の入り混じった感情でその光景を見つめていたが、目を閉じた瞬間、彼女の視界がぐるぐると回り始めた。目を開けると、エミリーは自分がミロの体の中に入っていることに気づいた。猫の視点から見る部屋の景色は新鮮で、触覚も全く違う。エミリーは驚きとともに、自分の体がどこに行ったのかを探し始めた。


エミリーはミロとしての生活に徐々に慣れていった。猫の体での動きや感覚は最初は戸惑いが多かったが、次第にその自由な動きに楽しさを感じるようになった。ミロとしてのエミリーは、毛並みの手入れをしたり、ソファで寝転がったりすることで、猫の世界に浸っていった。一方、エミリーの体はミロに変わってしまったので、家の中で見られるのは、アリスがエミリーを見て驚く姿だった。アリスはミロが突然人間の姿に変わったことに気づかず、家の中でおかしな出来事が続くことに疑問を持っていた。「エミリー、今日はどうしたの?」アリスはエミリーに尋ねたが、ミロはもちろん答えられない。アリスはエミリーが何か体調を崩しているのではないかと心配し、エミリーが何か異常な行動をとっていることに気づかなかった。エミリーは猫としての生活を楽しみながらも、どうやって元に戻るかを考え始めた。森の中で不思議な光を見たことを思い出し、その場所に何か手掛かりがあるかもしれないと感じた。


ミロがエミリーの体に入れ替わってから、アリスは家の中で妙なことに気づき始めた。ミロが何かを壊したり、奇妙な行動をすることが増えた。アリスはそれを猫のいたずらだと思い込んでいた。「この猫、いったいどうしたの?」アリスは困惑しながらも、ミロの行動に対処しようとした。しかし、猫が人間の体に入ってしまうことなど、彼女の常識では考えられなかった。

エミリーの体になったミロは、エミリーの生活を理解しようと一生懸命だった。彼はエミリーの学校の宿題をやろうとしたり、エミリーの友達と会話を試みたりしたが、彼の知識ではうまくいかなかった。ミロは人間の生活に完全には馴染めず、次第に困惑していた。


エミリーは猫の体での生活に次第に疲れを感じ始めていた。彼女は自分が元の体に戻るためには、あの不思議な光の源に戻る必要があると確信していた。しかし、母親のアリスが猫を嫌っているため、エミリーは母親に話しかけることができず、一人で森に行く勇気を持っていた。「今は森の中であの光を探すしかない」と、エミリーは決心し、猫の体で森へと向かった。途中、彼女はさまざまな動物たちと出会いながら、精霊の住むと言われる場所へと向かっていった。森の中で、エミリーは再びあの神秘的な光に出会った。光の中心には、精霊のような存在が現れ、彼女を優しく見守っていた。エミリーはその存在に向かって、心から「元に戻りたい」と願った。すると、光が強く輝き、エミリーの体がまたぐるぐると回り始めた。


エミリーが目を開けると、自分の体に戻っていた。彼女は心の中で安堵のため息をつき、再び人間の体を取り戻したことに感謝した。彼女が家に帰ると、アリスがミロを抱えていた。アリスはエミリーが戻ったことに驚きながらも、心配していた様子だった。「お母さん、実は私とミロが入れ替わってしまったの。森で不思議なことが起こって、元に戻りたくて…」エミリーは事情を説明した。アリスはその話を聞き、エミリーの言う通りの出来事があったことを認めざるを得なかった。彼女はミロが人間の姿になったことで、猫に対する偏見が変わったことを感じ始めていた。「ごめんね、ミロ。あなたがどうしてこんなことになったのか、もう少し理解しようと思うわ」と、アリスは心から謝罪し、ミロに対する態度を改めることを決意した。その後、エミリーとアリスはミロと共に楽しい時間を過ごすことができるようになり、猫との生活をより豊かにすることができた。エミリーは、この奇妙な体験を通じて、家族との関係がより深まったことに感謝し、日々の生活を大切にするようになった。

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