第5話

「最後――ロニア・グラナートは前に!」

「はいっ!」


 神官に名前を呼ばれると、すくっと立ち上がって壇上へと向かう。ロニアが名前を呼ばれる頃には騎士席に残っている騎士はラシェルとフェルディアを含めて数人しか残っていなかった。その中にはすでに守護騎士の契約を結んでいる騎士もいるので、残っているのはラシェルかフェルディアぐらいだろう。ラシェルが誰と契約を交わすかそわそわしながら見守っていた聖女たちだったが、やがていつまでも選ばれないラシェルの様子に「まさか」と顔を青くしていく。

 これまで散々ロニアを小馬鹿にしてきた聖女たちの狼狽える様子に鼻を高くしながら、ロニアは騎士席の前を通り過ぎて壇上へと足を踏み出す。


「聖女・ロニア。とうとう旅立つのだな」

「はい。これからは他の聖女と同じように、国に尽くしていきます」


 長らく神殿に居残っていたロニアの独り立ちが眩しいのだろうか。神官は目を細めると、残った羊皮紙を直接手渡してくる。

 

「よろしい。魔法陣を受け取りなさい。そうして其方の守護騎士に相応しい騎士を女神に問うのだ」


 渡された羊皮紙の紐を解いて描かれた魔法陣を目にしたロニアだったが、描かれた魔法陣を一目見て瞬きを繰り返す。

 

(他の聖女たちは赤い魔法陣だったのに、これだけ白の魔法陣だ……)


 偶然なのかそれとも落ちこぼれのロニアだけ魔法陣が別物なのか。考えたいところではあるが、周囲の注目を浴びている最中に考えている暇は無かった。

 ロニアは羊皮紙を頭上に掲げると、他の聖女たちと同じように詠唱する。


「我らの母たる女神・セラピアに、聖女・ロニアが問う。我に忠義を誓い、信愛に値する守護騎士を教えたまえ!」


 白い魔法陣は羊皮紙ごと浮かび上がると、そのまま大聖堂の天井近くまで昇っていく。


「なっ、なにっ……!?」


 他の聖女たちとは違って、白い魔法陣はステンドグラスの前で弾けると大聖堂内に白い粒子を撒き散らす。女神の加護にも見た清らかな光の欠片に誰もが魅入っていると、ロニアの右手の甲にピリッとした小さな痛みが走る。顔の前まで持ち上げれば、そこに他の聖女たちと同じ白い魔法陣が浮かび上がっていたのだった。


(良かった……他の聖女たちとは違ったけど、契約は成功したのかな……)


 ほっとしたのも束の間、今度は騎士席からガタッと椅子が倒れる音が聞こえてくる。その音に反応してロニアを含めた全員が視線を移した先には、左手の甲を押さえて驚愕の表情で立ち尽くすフェルディアの姿があった。


「ブロスサード、神聖な儀式の最中だ。何があった?」


 壇上から騎士団長が問えば、フェルディアはハッとしたように手の甲を押さえていた手を離す。隠されていたフェルディアの左手の甲には、ロニアの手の甲に刻まれたのと同じ白い魔法陣が光り輝いていたのだった。

 誰もが言葉を失い、そして固まってしまう。やがて水を打ったように静まり返った大聖堂内に響いたのは、ロニアの「へっ……?」という間の抜けた声であった。


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