第27話
ラティアがまた人攫いに捕まった。
あの可愛い子が、私をお姉ちゃんと慕ってくれる子が、両親と会いたいと涙を流していた子が——。
それを聞いた時、私は頭に血が昇った。
私と同じ
大人の癖に、守る者の癖に何が戦士。
子供を守れないなんて大人失格。二度とあの子を子と呼ぶな。そんなことを口にしていた。
それぐらい私は怒っていた。
一頻り罵倒した後、ラティアを探すために走り出そうとする。が、デレディオスの手に捕まった。
「待て待て、お主何処に行くつもりだ。人攫いの連中の顔も知らんし、何処にいるかも分からんだろう」
「街中探し回って怪しい奴等を片っ端から斬りまくれば良い」
「おいおい、それではお主が犯罪者になるぞ」
「只人族何て知ったことじゃない」
ラティアが見つかるまで、只人族を斬りまくる。これは冗談なんかじゃない。本気だ。
ワイドは宿で襲撃を受けた。
戦っている際に宿の主人にも周囲にいた者たちにも正体を知られてしまったと言っていた。
その時の彼等は人攫いが英雄にでも見えたのか。ワイドとラティアを攻撃し始めたらしい。
多くの只人の敵意と悪意にラティアは混乱、ワイドの近くを離れてしまい、捕まった。
騒いで逃げるのならまだ良い。それなのに、周囲にいた只人族はあろうことか人攫いの連中の味方をした。
親から子供を引き離そうとする連中に手を貸した。もうこれで私にとっては許せない。
この街の連中全員の体に風穴開けてやる。
「全く……フン!」
そう思っていた時、私の頭に拳骨が落ちた。
初めて出会った時に叩き込まれた拳のように重くはないが、それでも私に痛みを与えるのには十分な威力。
蹲りながらもデレディオスを睨みつける。
「なにっする!!?」
「それはこちらの台詞だ大馬鹿者め。何をしようとしているんだ。簡単に人の命を奪おうとするな。そんなに黒神の元に行きたいのか?」
「黒神の所に行くのはこの街の連中。別に力を貸して何て言わない。私一人で戦えるっ」
「戦える戦えないの話をしておらんわ。このたわけ」
再び拳が頭に落ちる。
同じ個所に的確に落とされ、痛みは更に酷くなった。
戦える戦えないの話しではない。それは一体どういうことなのか。
力持つ者には責任がある心を成長させるとでも言いたいのか。徳を詰めとでも?人道に反するとでも?
悪いのはあっちだ。やり返して、後悔させて、苦しませて何が悪いのか。
「やれやれ、納得しておらんな。別に我は心を成長させるために~等と言うつもりはない。これはお主のために言っておるのだ。人の命は簡単に奪うな。安易に奪い続ければ、それは後に必ずお主の身に災難となって降り注ぐぞ」
「どういう意味? 理解不能だ」
「そうか。だが、いずれ分かるようになる」
デレディオスの言葉に眉を顰める。
ふざけている場合ではないと言うのに、何故そんなことを今口にするのか。思いっきり顔面を殴りつけたくなる。
「付き合ってられない。私は一足先に探しに行くぞ」
「待て、森人よ。行くならば街はずれにある廃墟になっている造船所に行け。ラティアが攫われていた時、そこに連れて行くと話しを聞いたらしい」
「……ふん」
疲労と傷で息も絶え絶えになりながら、ワイドが情報を伝えてくる。
唯一の手掛かりだ。当てもない状態で探すよりはマシにはなった。だが、ラティアを守れなかったことは許せない。
ツンとした態度で背中を向けて走り出す。
後ろからデレディオスの溜息が聞こえた。
屋根の上へと登り、街の外へと出る。
止めるものがないこの場所が一番速度が出せる場所だ。後ろを振り返るとデレディオスもワイドも付いてきていない。
一人でも大丈夫だと思っているのか、他の場所を探しに行ったのかは分からない。もしかしたら後で来るのかもしれない。
ワイドが口にしていた廃墟になっている造船所は港町から少し離れた場所にあった。草木が生え、人が寄り付かなくなり怪物も闊歩している。
一言で言えば不気味な場所だ。こんな場所に好き好んで寄り付く人間はいないだろう。
中に入って行くと薄汚い恰好をした男が数人——躊躇なく斬りかかる。
「ッッ——コプッ!!?」
「な、何だ! こ、子供!!?」
走る速度を緩めず、逆に早めて刺突で首に穴を開けて一人をのた打ち回らせ、隣で騒ぐ相手の頭にも続けて剣を突き刺す。
この半年間、刺突を中心に徹底的に鍛え上げて来た。
そのおかげもあって今の私の刺突の連射速度は上がっている。一度放てば距離を話したり、蹴りを放ったりして繋ぎが必要だったが、今はそれは必要ない。
二人、三人程度の雑兵が来ても対応できるようになった。
一人、また一人と屠っていく。
容赦はしない。全員人攫いの人でなしだ。子供を親から引き離す何て、死んで当然。生かして置く価値なし。
「待て、待ってくれっ故郷に子供がッペァ!?」
「嫌だぁ!! 黒神の所に何て行きたくねぇよぉ!!」
「金だ。金をやる! 俺は持ってねぇが俺たちの仲間が隠している場所を知っているんだ。だから——ゴェッ」
命乞いをする者。背中を向けて逃げ出す者も殺す。
怪物を殺している時と感覚は大差がない。
そう言えば、怪物を殺す時はデレディオスは止めなかったのに、人を殺す時に限っては口を出して来たな。
一体何が違うと言うのか。
デレディオスは殺した命を奪い続ければ、災難が降りかかると言った。
それは本当だろうか。
こんな奴等の命は災難になるほど重いものなのだろうか。では、こいつらに奪われた命や売り払われた者たちの人生はどうなのか。
誰かを食い物にしている奴に罰を下す者が、後になって酷い目に遭うのは間違っているだろう。
可笑しなことを口にするデレディウスに苛立ち、剣を振るう。
怒りで剣先が鈍ったせいで最後の一人を仕留め損なった。
「ピ、ピィィイィィッッ」
「何その鳴き声……」
剣先が鈍ったことを反省し、先程まで考えていたことを頭の隅へと追いやる。
年寄りの世迷言を気にしている暇はない。今は一刻も早くラティアを救わなければならない。
この場所にはラティアの姿はない。空の檻が数個ある程度だ。
そう考えれば、剣先が鈍ったことは幸運だっただろう。あのままでは確実に最後の一人を殺していたのだから。
「お前たちの仲間の居場所を教えてくれる?」
「そ、そしたら殺さないでくれるのかよっ」
「それは貴方次第」
軽く振って男の頬に傷を付ける。
殺さないなんて口にしていないのに、男は勝手に全て喋り出す。
男が知っている仲間の居場所は二つ程度だが、無いよりはましだ。居場所を聞き出して始末した後、早速走り出す。
目指したのは最も近くにあった小川の近くにある洞窟だ。
狭く、得意の速度を活かせない地形ではあったが、関係なしに飛び込む。しかし、そこには誰一人として人攫いはいなかった。
「誰だ?」
人攫いはいない。いるのは人攫いだったものだ。
そして、三人の全身を外套で身を隠した者たち。状況的にこの者たちが、人攫いを殺ったのだと判断できる。
敵か味方か、僅かに思考して、私は剣を抜いた。
甲高い音が洞窟内に響き渡る。
「問いかけに対して武器を抜くか」
「敵か味方かも分からない奴には、取り合えず静かにして貰った方が良いだろう」
「敵を作りやすそうな性格だな」
声からして相手は男だ。
死体には全員刺し傷がある。恐らくは目の前の男が持っている槍が原因だろう。
多分強いのだろう。剣を受け止められたのはデレディオス以来だ。
頭、胴体、腕、足。それぞれを刺突で狙うが、全て弾かれるか逸らされる。私以上に戦い辛いはずなのに、その槍の動きには淀みが一切ない。
「加勢する!!」
目の前の男に手古摺っていると後ろに回り込んだ仲間が戦いに参戦してくる。
その男を見てニヤリと私はほくそ笑んだ。
動きが硬い。速さは申し分ないが、何処となく躊躇をしている足運びだ。
それで戦いに介入してくる何て死にたいのだろうか。
「よせ!!」
目の前の男もそう考えたのだろう。制止する声を上げる。だが、もう遅い。
跳び上がり、後転をして頭を蹴りつける。当然の如く、男は大きく体制を崩した。
これで刺し殺して一人終了。
しかし、剣を突きつけようとして、止まる。
「——海人族?」
フードが外れて露わになった顔は只人族のものではなかった。
ワイドによく似た顔をした海人族がそこにいた。
「もしかし——っ!?」
ラティアを助けに来たのか。そう問いかけようとしたその瞬間、私の後頭部に強い衝撃が奔る。
クソ、やっぱり森人は耐久力がない。
自分の撃たれ弱さに嘆きながら、薄れる意識の中で対峙していた海人族を見る。
薄れる意識では会話を聞き取ることもできない。けれど、絶対に碌でもないことになるというのは何故か確信できた。
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