第2話
輝術の才能がないと判断されてから一年。
あれからというもの父様は私を虐めてくる。やはり輝術の使える優秀な子供が欲しかったのだろう。
だが、申し訳ないとか思わない。だって嫌いだし。
仕方がないじゃないか。
輝術を発動させる前段階、術式に輝力を流すこともできない。何でそんなこともできないんだって殴られるけどこれが本当に難しい。
母様に相談しても、そんな簡単なことが出来ないの~?何て小首を傾げてきやがった。あの時は後ろで握り拳を作ってしまった。悪意が無かったから許したけど。
そして、それ以上に問題なのが術式を作ることだ。
術式を作るに輝術で引き起こす現象がどのように引き起こされるのかの論理を立てなければならないのだが、私はその論理がどうしても苦手なのだっ!
炎を出す。水を操る。え、何それどうすんの……いや、何となくは分かる。木と木を擦り合わせて炎が出ることも知っているし、水は上から下に引っ張られるということも知っている。
だけど、それを数値に表せ、理論で説明しろ、術式にしろと言われても訳が分からない!
ちなみに父様と母様だけじゃなく、森人は頭の中で術式を作って大規模な輝術を起こすことだって出来るらしい。樹木を動かしたり、雷を降らせたり、竜巻を起こしたりする輝術をだ。一度作った術式は何度も使えるとは言え、それを頭の中だけでやってるって……化け物か。
そんな訳で私の輝術師としての将来は閉ざされたのであった。完。
「ってなれば良かったんだけどなぁ」
家の庭でそんなことを呟きつつ、目の前にいる人物に視線を向ける。
そこには渋いおじさんがいた。
「さぁー、連れて来たわぉー。この人はこの里一番の武術の使い手なのー。輝術を使えなくても大丈夫大丈夫ー。戦い方はー輝術だけじゃないんだものー」
隣にはいつも通り間延びした声で喋る母様。
渋すぎるおじさんと太陽の下で日向ぼっこをしていても似合いそうな雰囲気の母様。アンバランスな二人が並んでいるせいで違和感が凄い。どうやって知り合ったんだろうか。
「あの、母様……その人は誰ですか?」
「あれー? さっきの言葉じゃ分からなかったー?」
「いえ、どういう人なのかは分かりましたし、何でいるのかも何となく予想は出来ましたけど……」
予想は出来る。だけどそれをちょっと信じたくないだけだ。
何か背中からゴゴゴゴゴッ‼って雰囲気が出てるし、怖そうだし、やたらゴツイし。こんな人とこの後交流しなきゃいけないの? というか森人って脂肪も筋肉も付きにくい種族じゃなかったっけ?
「うーん、そうねー。まずはこの人だけどー私のお友達なのー。それでー輝術も使えるけど武術を使いたいって一度里を出た変わり者なのよー。森人は輝術の他に弓術を嗜む人はいるけどー剣や槍で戦う人はいないからねー。輝術が使えないのならー万が一の時のために覚えておいた方が良いと思ってねー。連れて来たのー」
「そう、ですか」
予想通りだった。
というか森人には剣とか槍で戦う人いないのか。確かに輝術は万能だけど、それで良いのか。
あ、おじさんが前に出て来た。
「今から貴様がどれほどか見る」
「…………」
え、どういうこと?何でそんなに拳を固く握りしめてるの?
ひやり、と背中に冷たい水でも掛けられたかのような寒気が走った時には遅かった。
輝力で強化された拳が腹に突き刺さる。
骨が砕け、胃の中のものが逆流する。
いきなりのことに反応何て出来なかった。
地面を転がり、家の壁に激突することでようやく止まった。
「この程度で動けなくなるのか」
意識が薄れていく中、そんな言葉が聞こえる。
この瞬間、嫌いな奴第二位に渋いおじさんがランクインした。
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