第5話 未完成な人間
未完成な人はとても可愛い。
昔からわたしは1人で何でも出来る子だった。
勉強も運動も習ったことは出来たし、なんなら学校へ行かなくたって何でも分かった。
料理も勘で美味しい物が出来るし、適当に話せば友達にだって困らない。
幼稚園に行く時に母親と離れるのが寂しくて泣いてしまうとか、逆に友達と別れたくなくて帰宅時にごねるとか、とにかく子どもらしさのない子だった。
子どもながらに何でも出来るわたしは、さぞや可愛くなかっただろう。
子どもというのは未成熟で未完成なのが良いのだ。手がかからなければ良いというものではない。
何でも難なく出来てしまうわたしには楽しみも無かった。
難易度が高くて面白いというゲームもわたしには簡単過ぎて退屈だった。
勉強だって出来るだけで好きではなかったし、
絵にしろ文を書くにしろ歌うにしろ踊るにしろ頑張らなくたって誰かがチヤホヤしてくれる。
わたしが本当に好きな物って何だろう?
年齢が上がるにつれて、そればかりを考えるようになった。
中学生の頃、わたしには上辺だけの友達がいた。頭が良いから、カリスマ性があるから、とわたしを持ち上げてくれる子達だ。
けれど彼女らの話はどれもどこかで聞いたような話で新鮮さと面白みに欠けていた。
新鮮な話をされたって合わせるだけ苦痛だけれど。
ある日、とても可愛い子に出会った。
同じ中学の同じ学年だけれど関わりは無い。
黒く長い髪に白い肌。
叱られない程度に少しだけ着崩した制服。
彼女の周りには楽しそうに談笑している友人らしき人物が見えるのに彼女だけはムスっと機嫌が悪そうだった。
外見はこんなにも魅力的な完成形なように見えるのに、現状に何か不満があるような憂いを帯びた瞳に心を打たれた。
この子が本当の意味で完成する過程を見てみたいと心から思った。
本当はもう少しレベルの高い高校に入れられる予定だったのだけれど、無理を言って持ち上がりの高校へ進級した。
彼女の名前は知っている。
同学年なのだから誰かに聞けば分かる。
百原莉子、優しくてサバサバした性格の可愛い子だという印象らしい。
クラス分けの結果、同じクラスだった。
好きな人と同じクラスだという事柄を初めて経験して喜びを胸に飛び跳ねた。
莉子とは直ぐに仲良くなった。
出席番号が近かったからだ。
本当は2人でいたかったのだけれど、莉子と中学部の時から仲が良かったらしい千藤未久と友人になり、続けて未久の友人の二柳瑠夏が友人になった。
明るいグループとも暗いグループとも言えぬわたしたちが固まっていると、他のグループに上手く馴染めなかった一条杏奈と三美咲が自然とグループに加わった。
莉子の性格は割と直ぐに掴めた。
彼女の機嫌は顔に出やすい。
自分が褒められている時は目を輝かせていて、自分以外が言及されている時は例外無く不機嫌そうで口数も少ない。
注目を集めたい子なんだと直ぐに分かった。
その我儘さが人間として未完成だということを表していてとても愛しいと思った。
3年間莉子を見守る学園生活を送った。
莉子が欲しいと言っていたコスメを万引きした。プレゼントしたかった。
金に困っていた訳じゃない。
普通に買ってプレゼントしたってつまらないと思った。
バレたら莉子が怒るかもしれないハラハラ感ともしかしたら万引きするほどわたしが莉子を好いていることに気が付いて喜ぶかもしれないというドキドキ。犯罪で手に入れた品を喜ぶなんて未完成だ。可愛い。
グループでの莉子の地位が徐々に上がってきてリーダーのような立ち位置にいる。
莉子の声で話題が変わり、話の中心には莉子がいる。つまらない。
もっとあの可愛い表情を、未完成な部分を見せてほしい。
莉子から話題を逸らせばいい。
わたしが中心になれば、嫉妬や劣等感の汚い感情に押し潰された未完成な莉子が見れる。
「わたし、受験受かった。」
これで翌日学校を休めば、受験が終わって余裕な小雪って印象を持って欲しい。
そしたらもっと嫉妬してくれる?
もしかしたら万引きバレちゃうかも。
そうしたら犯罪とかまで犯してわたしを止めてくれるかな?そうだったら尊死しちゃう。
熱い友情か、歪んだ自己愛か。
莉子の場合は後者だろうな。
どんな選択肢を取っても完成出来ない莉子。
永遠に成長を見せてくれながらも時に後退する莉子。いつか完成するかな。
どんな人間になるんだろうか。
人格形成に少しでも関われていたら嬉しいな。
自分のことが大好きな莉子のことが大好きだ。
ーーーーー
盗聴器仕掛けられてる。
やっぱり莉子は裏切らない。
莉子を混乱させたらどうなるんだろう。
大学なんて入学出来なくたって生きていける。
わたしの家はわたしに興味なんか無くて、欲しいとさえ言えば理由も聞かずにお金をくれる。
学歴が低くたって死んだりしない。
わたしが莉子に1番注目される人間になってあげる。
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