第4話 悪には悪で

万引きというのは最初のハードルを乗り越えてしまうと何度も繰り返すらしい。

小雪は金に困っていた?

そんな話は聞かない。

グループの中で最も裕福なのは大きな会社の社長の娘である一条杏奈いちじょうあんなだが、その次辺りに恵まれているはずだ。

お小遣いもそこらの高校生と異なり、月に5万は貰っていた。2年生の時に一緒にゲームセンターへ行った時は私が欲しかったぬいぐるみを約3万円もかけて取ってくれたものだ。

いいの?と聞くとクレーンゲーム好きだけど苦手なんだよと苦笑していた。


欲しかったぬいぐるみも自分の手でゲットしなくては虚しいだけで愛着も湧かず、すぐどこかへ行ってしまったけれど。

あの頃は楽しかった。

グループの中心は私で、行きたいところを決めるのも集合時間を決めるのも私。

互いの良いところを褒め合う理想のグループ。

だったけれど、思えば私が褒められたのは、外見と優しくてサバサバしてるという部分だけだった。


その性格も作り上げたものだったから努力を褒められている気持ちになっていたけれど、実のところは褒める部分が無いから大半の人に当てはまりそうな褒め言葉を並べただけなのかもしれない。どうりで満たされなかったわけだ。


「小雪ちゃんはどうして万引きなんてしたんだろうね。」


どうだって良い。その事実が大事なのだから。


「興味本位とかじゃないの。私達よりも金持ちだしさ。」


「小雪ちゃんって贅沢な子だよね。

ミサキ達は興味本位で何か出来る余裕なんてないのに、小雪ちゃんは何もかもに恵まれているのにリスクを覚悟でいけないことをする余裕がある。」


「本当に気に障る奴だよ。」


「ちょっと追ってみよっか。愉快犯ならまたやるはずだから。」


「で、でも勉強もしなきゃだし。」


「なら...!」


スマホを開きネット通販サイトを覗く。


「これはどう?」


小型盗聴器と記載された商品が程々の値段で売られている。


「こ、これはダメなんじゃ....」


「は?なんで?」


「プライバシーとか、とにかくダメだよ..!」


「あっそ。何言われたってやるし。」


優柔不断な美咲の態度に苛つきつつ、小型盗聴器の欄をタップして即座に購入した。


「明日でも明後日でも学校に来たら仕掛けてやるんだから!」


「や、やめようよ..。」


「あんたさぁ、良い子ちゃんぶらないでくんない?自分の手は綺麗なんですアピール?

言っとくけど、犯罪行為を罰するためなんだから悪いことじゃないし。」


「ごめん。」


「謝るくらいなら協力してよ。使えないなぁ。」


唇を噛み締める美咲。

言いたいことがあるなら言えばいいのに。

私だったらそうする。

やりたいことがあったら行動に移すし、私より下の奴はこれだからダメなんだ。




翌日、小雪は学校へやって来た。


「おはよー。」


「小雪!何で昨日は休んだん!?サボりか〜?合格者の余裕か〜?あたしにも勉強教えてよぉ!」


未久は何の恥ずかしげもなく小雪に勉強を教えてと強請る。情けない。


「小雪どうしたの?昨日は心配したんだよ。」


かと言って勘付かれてもいけない。

とりあえず心配したフリだけはしなくては、と小雪に声をかけた。


「心配ありがと莉子。特に何もないよ、若干体調を崩したくらいで。あと未久、わたしいつも教えてあげてんじゃんか。無かったことにすんなって。」


クールに受け流された。

とりあえず小雪がトイレにでも行くタイミングでどうにか。


「こ、小雪ちゃん!一緒にトイレ行かない?」


「何でわたし?いいけど。待ってて莉子!」


「待ってる。」


雑談が盛り上がったタイミングで美咲が小雪を連れ出す。なぜ小雪が私に待ってるように釘を刺したのか分からないけどチャンスを逃すわけにはいかない。


他の3人の目を盗み鞄に小さな盗聴器を仕込んだ。これで小雪が万引きを企てた時に駆けつけることが出来るかもしれない。

証拠を掴んで声かけて店員に言って。

警察に連絡させる。涙を誘うほどの理由などあるまい。恨まれたって私は悪いことはしていない。調子に乗って犯罪してる方が悪いんだ。


家に帰ると私は早速小雪に仕掛けた盗聴器が仕入れる情報に耳を澄ませた。

が、欲しい情報では無く耳を疑う情報が入ってきた。


『あぁ..!今日も莉子が可愛いかったなぁ。』


「...は?」

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