第2話 百原莉子の独白:最低の人間

私、百原莉子は目立たない存在。ずっとそうだった。小学生の頃はクラス内で少し権力を持っていて、当時は学校だけが楽しみだった。

中学受験というのは苦しいもので心を病む。

私は算数が出来ない馬鹿だった。

親戚の助言で偶然入った塾が受験用で、やるなら上のランクからがいいよねという謎の理論からレベルの合わない受験用の塾で学んだ。


勉強が出来なくて塾へ入ったのに、より分からない内容に首を傾げ、しかしお金がかかっているので軽率に辞めたい等とも言えなかった。

公立に行きたかったのに塾の方針から勝手に受験を決められ、親も次第にやる気になった。

意義が分からぬまま勉強のストレスが溜まり、勉強が嫌いになり塾も家も地獄と化した。


学校だけが救いであった。

日頃のストレスを発散するようにクラス内の権力を使っていじられキャラの子をいじって遊んだ。先生にチクられても殺されるわけじゃない。親に報告されて怒られたって、熱しやすく冷めやすい母のこと、翌日には仲直りだ。

私が辛い思いをしてるのだから、私が発散するのは道理なはずだ。


ここまでだと勘違いされやすいかもしれないが、親は決して毒親なわけではない。

他には向けることの無い無限で無償の愛情を注いでくれたし、良いことをしたり、可愛い言動をすれば褒められて悪いことをすれば叱られた。


口答えしても手を上げられたことはなく、今考えれば恵まれていたのだろうと思う。

習いたいと言ったピアノと書道を習わせてくれたし、悩めば相談にものってくれた。

しかし父方の祖父は早くに亡くなり、祖母は1つ1つの行動にうるさかった。

反動のように父は私以外の人間の言動に無頓着になった。

母方の祖父は母と相性が悪く母に辛く当たったことも多かった。祖母は悪い人ではないが、自分が1番可愛い人で話が通じない瞬間が多い。

祖父母の性質を受け継いだのか母も話が通じない部分と頑固な部分を併せ持っている。

そして母は生まれ持った性質として他人にあまり興味がない。彼女の姉妹らにも他人以上というくらいにしか興味がないらしい。


両親は総じて他者へ無関心だったため、私のすることを叱ることはあっても、特に相手方への謝罪の意志は持っていなかったのだろう。

愛想も良く私には優しいが根底の部分で何かが足りない。それが両親だ。

その環境を疑問に思わなかった私も当然そうして育つ。


すると、私が怒られなければ何をしても良いという思考に辿り着く。

更に面倒なのは、両親の他者への無関心さを知っているからこそ自分は誰かの関心を失うことを恐れる。依存し、誰かの才能を妬む。

自己分析は一応出来ているつもりだ。

けれど小さい人間であることは変えられない。


嫌われていてもいい。

誰かに関心を持って欲しいから目立つことをしていたのだと思う。

集団で意地悪をする人はある意味のカリスマ性という意味でも最低な人間という悪い意味でも目立つ。私の行為に一喜一憂する人を見るのは愉快だった。


その本質は今でも変わらない。

関心を持たれぬことを恐れていた昔から少しだけ変化して嫌われたくなくなった。

だから意地悪はしなくなった。

代わりに目立たなくなった。

小さいことに目くじらを立てて人を妬むようになった。


それでも本質は変わらない。

人に私を認めて貰いたいのだ。

例えばグループの中だったなら、自分が1番に何かを成し遂げて凄いねって褒めて欲しい。

誰かが私を越すなんてあって欲しくない。

でも私は才能なんてないから誰もが私を越していく。


今回の小雪のこともそうだ。

小雪は頭も要領も良い。

つるみ始めた頃から嫌いだった。

勉強法を聞いたって、そもそものIQが違うのだと思い知らされた。見下しているのだろう。

流されるがまま、詳細もよく分からず一般受験を決めてしまった哀れな私を下に見てるのだ。

どうしてそんな人が最初に合格するの。

どうしてそんな人の合格を祝うの。

私を褒めてよ。頑張ってるんだから。

小雪なんかよりも頑張ってる。

でも......。


今日は小雪が学校を休んでいる。

出席日数さえ足りていればもう学校で学ぶ必要など無いからだろう。


「小雪っち凄いよね!」


二柳瑠夏にやなぎるかが小雪を褒める。


「そうでございますね。わたくし達の中で初めての合格者、時間が許せば盛大に祝いたいのですが..。」


一条杏奈いちじょうあんなが便乗。


「ねーっ!あたしも早く受験終わりたーい!」


未久も小雪が好きみたい。


「み、ミサキは...ミサキ達の前で言って欲しくなかった。焦っちゃうもん、ただでさえ自信無かったのに..。」


三美咲にのつぎみさきだけが小雪を否定した。

そう!これを待ってた。

けれど友達同士のグループでもマジョリティが勝つものだ。何でそんなこと言うのという無言の圧が美咲と、発言していない私を飲み込む。


そっか。皆がそういう態度を取るなら。

小雪を持ち上げて私を下げるならもういいや。


「ねぇ美咲、一緒に保健室行ってくんない?ちょっとお腹痛くてさ。」


「え、大丈夫?行くよ。」


教室を後にすると腹に当てていた手を放して美咲の方を向いた。


「どうしたの?」


「小雪ってムカつかない?」

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