私が幸せになれればいいのに。

白薔薇

第1話 亀裂

○年△月□日、数爽かずさわ高校の3年2組のクラス内には仲良しグループがある。


いわゆる陽キャと呼ばれる華やかなグループ。

逆に陰キャと呼ばれ目立たないグループ。

そして何となくどちらにも属さない者達で構成されたグループ。


私、百原莉子ももはらりこ達は3番目のグループに属している。

この高校にランダムで決まるクラス替えはなく、それぞれの目指したい将来と受験方式、

学力などの総合から大まかにクラスが決まり、

勉強についていけなかったり文系から理系に夢が変わったりなどの理由から必要最低限の入れ替えが成される。

それ故にあまりクラスの面子が変わることなく

校風とクラス替えの制度からなのかある程度クラスメイト全員が仲良くなるため、グループが分かれていてもそこまで互いが無関係というわけでもない。


1年生では不安だった交友関係も今や3年生。

もう不安はないし、馴染めなかったとしてもその環境に慣れてしまっているのだからどうしようもない。

そもそも受験生となったクラス内など窮屈に決まっている。それが3年2組のような特進クラスであれば尚更である。


模試が終わってクラス内の雰囲気は少しだけ穏やかになる。かといって出かける相談をしたり、はしゃぐには程遠い空気だが。

私達は6人組で全員が同じ方向に帰る。

最寄り駅が1つずつ違うが、私立高校の交友関係で電車1本で済むのは貴重だ。

今日も6人揃って一緒に帰っていた。


「そういえばさ。」


メンバーの1人、万小雪よろずこゆきが会話を切り出す。

視線が小雪に集まった。


「わたし、受験受かった。」


グループの中で1人だけ指定校推薦で受験をした小雪。成績はオール5と頭が良く、受けた模試では成績優秀者として表彰までされていた。

一般受験をしたとしても上位大に合格できると言われてたいただけに、どうして指定校推薦であまり名の知れていない大学を受けたのかを、皆が疑問に思っていた。


「クラスで言えるわけないけどさ、あんた達には伝えても良いかと思って。苦しいと思うけど頑張って。」


分かってる。小雪が嫌味で言っているわけではないということは。

けれど模試を皆で受けて和やかな雰囲気になって、これからも乗り切ろうと張り切っていた瞬間の告白に驚きと嫉妬心を隠せなかった。

そりゃあそれだけ頭が良ければ指定校推薦で受かるなんて造作もないことだろうけれど、これからまだ数ヶ月の受験勉強をしなければならない私達にとっては嫌味にしか感じなかった。

受かったなら言わず、応援なんてせずに黙っててくれれば良かった。一緒に頑張ろうねに気まずそうに頷いていてくれれば良かったのに。


「凄いね!!さっすが小雪ちゃんだぁ!」


即座に小雪を褒めたのは千藤未久せんどうみくだ。

小雪とは逆に悪い意味で目立っている。

模試どころか定期テストも下位常連。

真面目に勉強しているようには見えるが要領が良くないのだろう。

けれど人の良いところを手放しに褒められるところは美点である。

大人になっていくにつれて嫉妬心や恥ずかしさが先行して人を褒めるということを簡単に出来なくなる。そういう意味で未久はコミュニケーションというか生きるのが上手い。


「んなことないよ。わたしは一般受験みたく長い間勉強に縛られるの嫌だったからさ。

ちゃちゃっと小論書けば良かったし、面接も意外と簡単なこと聞かれたし、わたしの力じゃないさ。」


自分の力だって認めてよ。

じゃなきゃ私達は力が無いってことになる。

小雪は悪くない、小雪だって努力はしていた。

小論文のテーマに沿った内容を調べていたり、面接練習を担任としていた。

受かったことは喜ばしいこと。

私が受験に受かっていたなら全力で小雪の合格を喜び祝福できるだろう。

けれど生憎、私の受験にはまだ時間があって、それでいて私にとっては時間が少ない。

緊迫した私の心では小雪の合格を喜べない。

落ちれば良かったのにとすら思う。

私は未久じゃない、凄いとは思うけど言葉にしたくない。抜け駆けされて好きでいられない。


「私今日はここで降りるね。」


居心地の悪さを感じて停車していた電車から駆け降りる。

他の子はどう思っていた?

未久と同じく単純に喜んでいるのだろうか。

私と同じように妬ましく思っているだろうか。

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