地雷天使レナの献身②
「地雷……天使?」
「そう、天使ちゃんなのウチ」
レナは朗らかな笑みを浮かべ、ガードレールから飛び降りる。
それは自由落下とは思えないほど軽やかで、ゆったりとした着地。
背中に生えた大きな翼の根本は背中と繋がっておらず、拳大の球体から生えていた。
「えへへ、『ゲーム』が開始されてからずっといろんなところを見て回って、生き残った
ニコニコと喜びを隠さず、レナは呆気に取られている大河の頬を右手の指で突つく。
「な、なにを言って」
レナの様子にたじろいで引き気味の大河は、上手く言葉が出てこない。
「おっと、嬉しくて翼出しちゃった。んしょ」
自分の背中から翼が生えていることに気づいたレナは、まるで背負っているズレた荷物を背負い直すような仕草で翼をしまう。
「あんまり注目されちゃうと、ウチの
あざとさが全面に出過ぎている仕草で、レナは大袈裟に傾げて大河を上目使いで見る。
「大河はもう気づいているんでしょお? この東京が
顎に右手の人差し指を当て、レナは身体を持ち上げてまたくるくると回る。
「
そんなレナの様子に、大河は警戒しながら問いかける。
「んー、そのお名前を呼ぶのも、否定も肯定も、どっちをするのもウチの権限を逸脱しちゃってるから──言えない。言えないけど、もう大河には分っちゃってるから意味ないよねぇ? 面倒な設定だけど許してね?」
ケラケラと、レナは笑い続ける。
「ウチは本来、
大河の右ポケットに入っているスマホを指差し、レナは続ける。
「ほらウチの声、聞き覚えない?」
「いや、はじめて聞いたと思うけど」
グイッと身体を寄せてくるレナに、大河は一歩後退して返事をする。
「そう? じゃあこれでどうかな──」
自分の喉に右手を当てて、レナは目を閉じる。
「【地雷天使レナについて説明します】──どう?」
「あっ」
それは『ぼうけんのしょ』アプリを開いた時に度々耳にする、女性の声。
新しいシステムの解放時や、重要な事柄があった際に解説してくれた、あの優しそうな女性の声だった。
「これがウチの
「え、えっと。なに? それじゃあアンタ──」
「レナちゃん」
「──レナが」
「レナちゃん」
「……レナちゃんは、俺や悠理のスマホとずっと繋がっているってことか?」
名前を言う度に顔が近づくレナに
その気恥ずかしさから、大河の顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく。
「ううん? 全ての
そう言ってレナは、何も持っていなかったはずの右手に突然スマホを出現させて、大河に見せる。
「独立してるって言っても、やりとりとかはウチが望めばすぐにリンクできるし、
右手のスマホを左手の人差し指で差し、そしてまた突然スマホを消す。
「アプリ『ぼうけんのしょ』は、ウチとかラナちゃんみたいな
リアクションを取るたびにいちいち顔を近づけてくるレナに、大河はその都度ドギマギしてしまう。
「ら、ラナちゃん……って?」
「もう一人の地雷天使ちゃん。ウチの妹なの。とっても可愛い
にっこりと笑みを浮かべ、またレナはくるくると回り踊り出す。
「だから大河も、そして悠理ちゃんも。二人ともわからないこととかあったらすぐにウチらに聞いてほしいなぁ。あのね、他にもちゃんとした人格をもったNPCやモンスターさん、オブジェクトさんとかいっぱい居るけれど、完全に
そしてピタリと止まって、大河の鼻に付くか付かないかの際々の距離に右手の人差し指を差し止める。
「ウチらは、
そしてその指は、大河の胸にツゥーっと滑り落ちる。
「できるだけみんなには頑張って生き残ってほしいって、ウチらは思ってる。特に大河は……
ぐりぐりと、大河の胸の上でレナの人差し指が回る。
「三つ……」
「そう、三つだけ。今じゃなくてもいいよ? 思いついた時に『ぼうけんのしょ』アプリでウチを呼んでくれれば、すぐに飛んで来るから」
レナの人差し指が、今度は胸から首、首から顎、そして大河の唇へと当てられた。
「システム内の質問は、いつでもアプリで答えたげる。でもシステム外の質問は、直接ウチの口からちゃんと説明したいの。何回も言うけれど、大河は
大河はその言葉に、じっくりと考え込む。
システム外──つまり今の東京の様子や『剣』の成長、レベルアップやパーティ・クランシステムといったシステマティックな話ではなく、例えばなぜこの東京がこうなってしまったのかや、綾はなぜ死んでしまったのか──そういった質問のことを言うのだろう。
たった三つ。
三つしかレナは答えてくれないと言う。
ならば下手な質問で三つの枠を使い潰すのはもったいない。
そしてじっくりと考えた末に、大河がゆっくりと口を開く。
「アイツは──お前らの
かなり近いレナの顔を真っ直ぐに見て、大河ははっきりとした発音でレナに問いかけた。
問われたレナはその大きな瞳をさらに見開き、ぱちくりと瞬きを数回繰り返す。
そしてその顔は、穏やかで優しい笑みに変わり、口を開く。
「その答えの半分は、ウチの
目を閉じて、大河の頬に右手を添えて、レナは小さな──でもはっきりと、答える。
「
ゆっくりと、レナの顔が大河に近づいていく。
「だから、人の死を強く望み──人の死を愉しんでいる別の意志が、力が、権能が──『東京ケイオス』を歪ませているの」
そのか細い声は、大河の耳元で囁かれた。
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