地雷天使レナの献身①
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【
必要オーブ30,000
人を殺める快感に目覚め始めた巡礼者の心象を読み取り、血に魅入られた魂の様子を如実に具現化した、真っ赤に染まった剣。
刃に脈打つ血管は人間を斬りつけるたびにその血を吸い上げ、内部に貯留する。
溜まった血が多ければ多いほど、血管の脈動は強く早くなる。
《抜剣することで全てのステータスに+6。》
●常時効果
【酩酊】
血を貯留していくごとに【酔い】の蓄積値が増え、一定値を超えると常に発動し、以下の効果が付与される。
視覚情報の制限
姿勢制御の困難
思考速度の低下
攻撃性の上昇
【殺人狂】
思考に一定確率でノイズが走り、判断力が低下する。
戦闘に入った時に以下の行動を制限する
回復アイテムの使用
攻撃対象の任意変更
戦闘からの逃走
【指名手配】
この剣を所持すると言うことは、他の
よって以下の行動が制限される。
他
クランへの登録
聖碑からのクエストの受注
フィールドに存在する聖碑、および聖碑の加護範囲への侵入
アビリティ
●血の
斬りつけた相手の血を舐めとることで相手の力量を微かに測れる。
相手のレベルが自分のレベルよりも上の場合、取得できる情報量はかなり少なくなる。
●血の追跡
接種した血の匂いを覚え、その血の在処を嗅ぎ取れる。
最大で三人まで記憶でき、方角や距離が微かに知覚できる。
自分が今いるフィールドによって感知範囲は変化し、感知範囲外に出た血は記憶から消える。
●血の芳香
吸い取った血を消費し剣の内部で揮発性のある液体へと変化させ、
この液体は甘い匂いを放ち、吸い込んだ人間に【酔い】の効果を蓄積させる。
●血の誘因
吸い取った血を消費し剣の内部で揮発性のある液体へと変化させ、任意に放つことができる。
この液体は無味無臭であるが、吸い込んだ人間に強い【睡眠】の効果を与える。
ただし相手のレベルが自分より上の場合、相手の耐性値を参考にして効果が減衰する。
スキル
●ブラッドミスト
貯留した血を全て消費し、相手に強力な【酔い】と【睡眠】の効果を持つ
アビリティよりも効果時間が長く、またレベル差も影響しないが、一度使用すると一定量の血を再び貯留しなければならない。
クールタイム:2minute】
大河はスマホ画面に映る『
時刻はそろそろ二十一時を回る。
悠理が仲の良い避難民と一緒にシャワーを浴びているので、そのシャワーがある建物の前で不審者や侵入者がいないか見張っているのだ。
(これは……デメリットの方が強くないか?)
スマホの画面に表示される《ぼうけんのしょ》には、『剣』の成長が告知されていた。
それは複数の選択肢から選べるようになっているが、『
大河が殺めた男、
隠しフラグという奴なのだろう。
昼に百貨店で殺した半グレクランの数が九人。
源二と合わせてちょうど十人だ。
百貨店を出る際にはすでに【新しい『剣』の成長条件を達成しました】というメッセージがスマホに表示されていたが、あまり気乗りしない成長先なのでこんな夜になるまでチェックすることを怠っていた。
無限回廊を出たことによる解放感からか、緩みがあったのだろう。
(
そう冷静に分析し、大河はスマホの画面を落としてカーゴパンツの右ポケットに捩じ込む。
(『
この新宿を生き抜くには力がいる。
レベルを上げてステータスアップの恩恵を受けるか、『剣』を成長させて新たなアビリティやスキルを得るか。
力を得る手段は主にこの二つだが、『
(今日奪ったオーブがあれば俺か悠理、どっちかの『剣』を成長させられるけど、悠理のレベルも俺とおなじくらい上げておきたいし……戻ってきたら相談してみるか)
大河が今居るのは、雑居ビルの前に設置されてる歩道だ。
そこにあるガードレールに腰掛けてスマホを見ながらも、用心深く周囲への警戒を怠っていなかった。
雑居ビルには規模の小さなエレベーターホールがあり、一階にある路面店の裏口からと、正面玄関の2種類の入り口がある。
建物裏には非常階段へと入れる鉄のドアがあるが、太い金属製のチェーンと南京錠で施錠されており、また人目につきやすい場所となっている。
なので大河を含む数名の男性が正面に見張りに立てば、第三者の侵入は難しい。
現在この雑居ビルの路面店は、悠理が仲良くなった避難民たちの集団『東新宿共同生活会』が暫定的に集会所として使用している。
ちなみにこの団体名、決まったのは今日の昼である。
パーティとクランシステムへの理解がようやく追いついたらしく、主要メンバーらが会議した上で決まったと、今正面玄関の見張りに立っている二人の男性から聞いたばかりだ。
(……なんていうか、体育会系っていうか)
その二人の男性と目線を合わせないよう気をつかいながら様子を伺う。
一人は七三分けに四角い黒縁メガネという、どう見てもガリ勉風の顔をしているが、その身体はパッツパツのラガーシャツにこれまたパッツパツのジーンズと、鍛え上げた筋肉で盛り上がった服装をしている。
もう一人も黒のタンクトップにハーフパンツ姿で、同じ様に盛り上がった筋肉が街灯の光に照らされて黒光りしていた。
(……あんまり、得意なタイプの人たちじゃないんだよなぁ)
人見知りする大河にとって得意なタイプの人間はかなり少ないが、その中でも不良のような見た目とド派手な見た目、そして体育会系の人種はとことん相性が悪い。
(……はやく、戻ってこねぇかなぁ)
電気もガスも水道も、生活に必要なインフラ関係は全て『異変』以前と変わらず使用できるのに、ネットだけがどうやっても接続できない。
なので今みたいなただひたすらに待つだけの作業の際、暇を潰せる手段が見つからない。
人付き合いを得意としない人間なので、たとえば一緒に見張りをしているはずのあの筋肉モリモリの二人に話かけるなり、他の避難者と仲良くなってお喋りに興じたりといった手段も取れない。
ずっと気を張って見張るのも気疲れするだけで、時々『ぼうけんのしょ』を覗いたりとなんとか時間を潰そうと頑張ってみてもすぐに飽きてしまう。
(動画とか漫画とか、ネットって便利だったんだなー)
空に浮かぶ月を見上げて、大河は小さなため息を吐いた。
今の東京でも、都心の明かりのせいで夜空の星は見えずらい。
「気になる星でも、見つけたのかにゃあ?」
突然、背後から話しかけられた。
「ん?」
さっき振り向いた時は後ろに例の筋肉男性二人しか居なかったはずなのに、若い女性の声が聞こえてきた。
大河が
「ねぇ、どんな星が好き?」
「え、別に……星を見ていたわけじゃ」
その女性は、大河や悠理と変わらない年齢に見える。
すこし化粧が派手だが、その顔にはまだ幼さが残っていた。
黒いフード付きのパーカーにジャラジャラとシルバーアクセサリーをいくつも取り付け、赤と黒のチェック柄のミニフレアスカートに、右脚が青で左脚が赤のニーハイソックス。
あざとさが際立つ長いツインテールの髪は、ところどころに赤や緑や青のウィッグが混ざっている。
「じゃあ何を見ていたのか、ウチに教えて?」
「いや、ぼんやり空を見ていた……だけ、だけど」
「なにそれ、ふふっ」
赤色の濃いリップを纏った唇が、楽しそうに笑う。
「空を良く見る人は、感受性が強い人なんだって」
カラーコンタクトだろうか、ターコイズブルーの瞳がキラキラと輝いて大河をじっと見ている。
「そ、そう。初めて聞いたなそれ」
「まぁ、今ウチが考えたことだし?」
その若い女性はそう言いながら、大河の腰掛けるガードレールに足をかけた。
「よいしょっ、と」
そしてやけにソールの分厚いブーツで、ガードレールの上に立ちあがる。
夜風に揺れたミニのフレアスカートが舞い上がり、紫色の豹柄というとんでもない柄の下着が大河の目に飛び込んできた。
「おっと、いけねぇいけねぇ」
フレアスカートを両手で押さえて、また笑う。
「いいもん見れたねぇ。今日の夜とか使ってもいいよ?」
「なっ、使うとかっ! 別にっ!」
そんな彼女の言葉に、大河は慌てて目を逸らす。
「ああそっか、一人じゃないもんねぇ。ごめんね悶々とさせるモノを見せちゃって」
「いや、まぁ、えっと」
「見えたでしょ?」
「あの、だから」
「見えてない?」
不安定なガードレールの上だというのに、彼女は見事に腰を折り曲げて大河の顔を覗き込む。
「……見えたけど」
顔を真っ赤に染めて、必死に彼女と目線を合わせないように俯く。
こういったシチュエーションで、嘘を吐くことができないのが大河と言う男だ。
「まぁ減るもんじゃないから別にいいんだけどねぇ。もう少し見る? ほれ」
また見事に腰を上げガードレールの上に綺麗に直立した彼女は、大河に向けてスカートの裾を大胆に捲り上げた。
「やっ、やめろよ!」
視界の外のそんな彼女の動作を敏感に感じ取った大河は、ビタンと音が鳴る速度で自らの顔を両手で塞いだ。
「あははー。ウブなんだねぇ──」
まだ名前も知らない彼女は、まるで顔馴染みを茶化しているかのように楽しそうに笑っている。
「──大河は」
そして、大河の名を告げた。
「……なんで、俺の名前を?」
脈絡もなく聞こえてきた自分の名前に驚き、大河は彼女の姿を見るために顔を上げて振り向いた。
その表情はどこか自信に満ちていて、余裕に溢れ……そして優しげだった。
「知っているよ。ウチは大河のことなんでも知っている。初恋の相手が幼稚園のイツカちゃんだってことも、小学生の頃に突然吠えたゴールデンレトリバーに驚いて自転車でコケて右手を骨折したことも。近所の大学生のお姉さんが引っ越すって聞いて、二日間部屋から出れなかったことも、ウチはなーんでも知っているの」
ガードレールの上で、彼女は軽やかにターンをくり返す。
それはまるで踊っているかのように優美で、なめらかな動き。
「──アンタ、なんだ?」
大河は思わずガードレールから立ち上がり、回り続ける彼女に問いかけた。
「ウチ? ウチはレナちゃん」
片足だけでピタリと止まり、レナと名乗った彼女は大河を見下ろしながらまた、笑う。
「
そして彼女の背中から、大きな真っ白い翼が生えた。
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