第32話 文化祭が始まるらしい

 負けイベントは失敗に終わった。

 だが、反対に合体技の完成に漕ぎ着ける事ができた。

 これはむしろ喜ばしい事だろう。


 強敵相手に力を合わせて放つ必殺技!

 まるで映画! 眼福!


 「合体技用の衣装とステッキのアプデが必要だな」


 暫くはそれ優先でヤベーゾは動かないだろう。


 さて、学園生活も進んで暑い時期に突入した。

 この世界では文化祭は一年に2度あり、春の終わりに1回目の文化祭を行う。しかも3日と言う大規模のイベントだ。

 国内の王族貴族平民は当たり前、国外からも来客があるらしい。

 クラスの出し物にも軽く協力しつつ、部活でも何かをするらしい。


 全員で協力して1つの魔法具を発表及び展示、各々開発した魔法具を展示するらしい。

 グループとしてテロリースト先輩とサシャ、僕達三人で色々と考える事となった。


 「やはり軍用兵器なんて良いんじゃないか? ロマンがある」


 「そうですね。考えてみましょう」


 それよりも、先輩が先程から弄っている機械に僕は興味が湧いている。

 その様子に気づいたのだろう。

 軽く振り向きながら説明してくれる。


 「これは転送装置だよ。人を送る用のね」


 物を転送する装置は既にあるので、次は人など生きている者。

 それは国家レベルの研究対象である。


 「可能なんですか?」


 人間の体は複雑だ。

 それを完璧に転送する事はできるのだろうか?

 側だけ転送して内蔵とか残したら⋯⋯考えたくないな。グロい。


 「さあ。でもやり遂げるんだよ。それもまたロマンさ」


 「なるほど。僕に手伝える事があれば言ってください」


 「そうかい? ならお言葉に甘えるよ。マナを注入したいんだけど時間が掛かってね。君ならすぐに終わるだろう?」


 僕はマナを注ぎながら文化祭について考える。

 そこで案を出したのがなんとサシャだ。


 「こんなのはどうでしょうか」


 さらっと書き上げた設計図はかなり緻密だった。

 多分、元々考えていたのだろう。


 ざっくり言えば電気を使って筒状の内部に磁場を発生させ、内部に入れておく鉄球を加速させ放つ兵器。

 同類に分かりやすく言えば『レールガン』だ。

 細かい原理などを見て行くと、化学のように思える。


 ぶっちゃけると高質量のマナで顕現させる魔法の方が強いが、ロマンと実用性を求めるならやはりこんな兵器が一番か。

 厨二やオタクにとっては1番かもしれん。

 興味深そうに設計図を覗き込む先輩。


 紺色の髪を掻き上げ、食い入るように設計図を凝視する。

 上から下まで、左から右まで、全部だ。


 「これ⋯⋯これで完成か?」


 疑問に持つ先輩。

 サシャが作ったんだ。


 「当然⋯⋯」


 「未完成です」


 「⋯⋯だ、そうです」


 危ない。

 サシャの主人としての小さな立場が守られた。


 僕には完成のように見えたが、未完成なのか。

 僕に分かるように説明して欲しい。


 「ふむ。なら一緒に⋯⋯」


 「いえ。敢えて未完成の設計図にしているんです。実用化されたら国家間のバランスが崩れます。それに、悪意のある何者かに悪用されたら困ります。なので、この設計図を元にしたら絶対に完成しないように細工もしてあります」


 「そうか⋯⋯完成系は既にあるのか?」


 「はい」


 「そうか」


 どことなくガッカリする先輩。

 サシャが色々と考えているようで僕は感心している。

 国家間のバランスとか何者かに悪用とか⋯⋯考えてなさそうだったのに。


 ⋯⋯いや、サシャの場合自分達の力を利用されたくないとか、漫画の知識を身内以外に広めたくないとか、そんな感じか?


 ルーペも1枚噛んでるかもな。

 後で聞いてみよう。


 「良し、取り敢えず部長に許可を貰いに行くか」


 「それ、通すんですか?」


 「未完成だろうとサシャくんがいれば問題ないだろう? それに簡単には未完成だとも気づかないレベルさ」


 確かに。

 これでも社会人を経験している僕が普通に行けると思っている。

 ま、僕の知識がどれ程役立つかは⋯⋯聞かないでくれ。


 部長に資料を提出すると、開口一番。


 「軍用兵器とかダメに決まってるだろ」


 「「「そっか」」」


 兵器はダメなのか。

 魔王軍とか敵が多いこの世界なら実用的だと思うけどな。


 ま、そもそもレールガンなんて過去にオタクが転生していたら絶対に作っているだろうし、あまり珍しくない可能性もある。


 自信のある自分の提案が通らなかったサシャは明らかに落ち込み、先輩も残念そうだ。

 そう言う僕も普通に残念に思っている。オタクの性だ。コレはさ。


 「高圧光線の剣⋯⋯は武器屋で見た事あるな」


 簡単に言えばライト〇ーバーだ。


 僕は天井を見上げながら、落ち込むサシャの頭を撫でる。


 「天井⋯⋯か」


 「ルーシャ様?」


 「えっと確か」


 僕は前世の星座や星の位置を思い出す。

 正確に言えば、天体観測や星の事を題材にした漫画を思い出す。

 魔法を使い部室を暗くし、天井に星々の輝きを出す。


 遠近の工夫、微細な色の変化。

 そして星と星を繋いで1つの形とする。星座だな。


 「ルーシャ様⋯⋯美しいです」


 「凄いね。こんな天体見た事無いよ」


 それはまぁ日本で見える光景ですからね。


 他の部員達も興味津々の様子。

 息を止めて僕の呼び出した星を眺めている。


 「ゴロゴロしながら星を眺めるのも悪くない。プラネタリウム、ありきたりだけどね」


 魔法を解除すると、部室は喝采の音に包まれた。


 「ルーシャ。これを細かく計画資料として練れないか? 今回の魔研発表はコレにしようと思うんだ。どうだろうか?」


 なんと反対は出なかった。

 実用性も何も無い娯楽だけの魔法なのに⋯⋯嬉しような嬉しくないような、複雑な感情に支配された。


 だが、せっかくの文化祭だ。

 全力で楽しむために惜しみなく協力しよう。


 本番での設営には慈善活動団体部に協力してもらう。まぁボランティア部だな。

 その部活は文化祭中のポイ捨てされたゴミを拾ったり、色んな部活の助っ人をしたりと、忙しく動き回るらしい。


 僕はサシャに協力して貰い、文化祭に向けての準備に取り掛かる。

 ちなみにサシャは他の部活での仕事を全て断っているらしい。良いのかそれで。


 ◆


 「魔王様、準備は予定よりも早く進んでいるとの事です。何やら制御装置のマナ補充がすぐに終わったとの事です」


 「ほほう。予定としては文化祭の最終日に動かせるとの事だったが、計画を早めても問題無いようだな」


 「左様です」


 学園の文化祭は大規模に行われる。

 来賓客として貴族は勿論、王族達もこぞってやって来る。

 魔王軍としては一網打尽にできる好機。


 スパイと結託し、文化祭の襲撃を企てていた。


 「ですが魔王様。前々から計画していたので、その通りに動いても問題無いのでは無いでしょうか? 最終日なら連日の業務で騎士達も疲弊し、他の者も油断すると思いますが」


 「クーハハハハハ!」


 魔王は高らかに笑った。


 「疲れ? 油断? くだらん。魔王軍ならば万全の相手を打ち砕きその力を誇示するべきじゃないか?」


 「ハッ! 正しくその通りかと」


 「ド派手にやろうでは無いか。精々束の間の平穏を楽しむが良い」


 魔王軍の計画着々と進行している。

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