異世界転生したオタク、本気で鬱展開無しの魔法少女を育てる〜悪の組織と魔法少女達を束ねたら、魔王軍の戦力を超えてました〜

第31話 強敵相手は負けイベントと限らない

　ジャベリンの魔法で国外に移動した魔法少女と幹部怪人サイン。

　クラスメイトを攻撃された事の怒りでジャベリンの髪色は赤色になっている。

　「ジャベリン、冷静になるのよ。二人で連携しないと勝てないわ」

　「うん。分かってる、大丈夫だよ」

　「作戦会議は終わったかしら？　それでは、遊びましょうか」

　パチンっとサインが地面に鞭を打ち付けると同時に魔法少女が加速する。

　へカートは氷柱の雨を降らせ、ジャベリンは地面を爆破させて挟み込む。

　「なるほど」

　サインの姿がぐらりと揺らめくと、次の瞬間にはジャベリンの背後にいる。

　「ジャベリン！」

　「え？」

　理解できないまま拘束魔法で体を縛られる。

　だが、今のジャベリンは魔法を扱い拘束魔法を破壊可能だ。

　解放と同時にサインに攻撃を仕掛ける。

　怒りで周りが見えないのか、直線的な拳の攻撃。

　魔法で加速を加えたとしてもサインには当たらない。

　「くっ。魔法が」

　サインはジャベリンの攻撃を回避しながらも、攻撃場所を誘導している。

　それによってへカートの魔法を当てにくい位置を常に取っているのだ。

　癖や回避方向が一定なら偏差撃ちも可能だろうが、そんなマネはしない。

　「はっ！」

　ジャベリンの回し蹴りを回避し、爆撃魔法を利用して二回目の回転を連続で繰り出す。

　しかし、それすらも分かっていたかのようにひらりと回避する。

　「遅いですよ」

　バチン、強くジャベリンが鞭で弾かれる。

　「ぐっ」

　「ジャベリン！」

　「へカート！」

　ジャベリンの叫びで気づく。

　鞭を打たれたジャベリンが自分の腕に鞭を巻いていた事に。

　攻撃を受けたと同時に掴み、自分の腕に巻き付けて逃がさないようにした。

　「逃がさないっ！」

　「その程度で何ができると？」

　ヒールでありながら突き刺すようなキックにジャベリンは耐えられず吹き飛ぶ。

　だが、僅かな時間止めた事によりへカートの魔法が飛来する。

　「やった！」

　「喜ぶには早い」

　サインが目にも止まらぬ早さで氷の魔法を破壊し、1歩で距離を潰す。

　拘束魔法の光が現れると同時、サインを襲う爆撃が空より落下した。

　「頑丈ですね」

　「私は小さい頃から鍛えてるのでね！」

　痛みはあるだろうにジャベリンは加速する。

　へカートもその熱意に励まされ加速する。

　二人の連携攻撃は隙間無く見事なモノだった。

　⋯⋯普通なら。

　それは単純な暴力。

　マナを使った身体強化と武器の火力強化。

　純粋な力技だった。

　「がはっ」

　「うぐっ」

　一振り、たったそれだけで二人は軽々と吹き飛びダメージを受ける。

　肉弾戦がダメなら魔法。

　二人が絶え間無く魔法を繰り出す。

　爆撃により巻き起こる土煙。

　風で煙が流されると、無傷のサインが悠然と立っていた。

　「なんっ」

　「どうして」

　「自分の周りを鎖で覆った。それだけです」

　拘束魔法を自分の防御に利用した。

　それだけだ。

　だが、魔法少女の二人の魔法の力は平均レベルより遥かに高い。

　同年代と考えられるサインはその上を行く。

　一般的な常識では考えられない強さを秘めた幼子達の戦い。

　攻防は続くが終始サインが優勢なのは変わらなかった。

　魔法少女に蓄積されるダメージ、削られるメンタル、積み重なる絶望。

　今までに感じた事の無い敗北感と絶望感。

　二人で協力したらなんだって勝てた、苦戦はしても勝てていた。

　ファウスト戦も負けでは無い。一太刀入れている。

　⋯⋯だが、サイン相手には一矢報いる決意すら湧かない。

　小細工も通じない。

　（どうすれば良いの⋯⋯）

　へカートは攻撃しながらも考える。

　どれだけダメージを蓄積して頭の回転が弱くなっていても、必死に頭を動かす。

　我武者羅に戦うジャベリンの代わりに自分が冷静にならなくてはならない。

　「クソ！　なんで！　なんで！」

　焦り、不安、自信があった分絶望感が底無しにやって来る。

　一撃も与えられない。全てが回避、或いは弾かれる。

　だから分かる。

　ずっと手加減している。ずっと真面目に戦っていない。ずっと本気を出していない。

　サインが本気なら二人はとっくに敗れている。

　なのに生きている。

　本気を出していない理由はなんだ？

　へカートには分かる。少し前の自分も同じだったから。

　強者特有の驕りと油断。

　相手を格下の弱者と決め付けている傲慢な思考。

　入り込む隙はきっとある。

　「ふぅ」

　へカートはもう一度接近し、3回転の遠心力を乗せたキックを放つ。

　踵に氷の刃を伸ばし攻撃のリーチと殺傷能力を上げる。

　同時に、空から落とす魔法と左右から挟み込む魔法で逃げ場を無くす。

　ジャベリンよりも魔法の力が強いへカートだからできる手数のゴリ押し。

　「私をゴリ押しで倒せるとでも？　それとも、私が油断しているとでも？」

　「ッ！」

　へカートの魔法は時間差を持たせている。同時だと回避タイミングが読まれやすいからだ。

　油断している内に一つでも入れる。

　しかし、その全てを見破られていた。

　「くだらない」

　拘束魔法の鎖が魔法を破壊し、回し蹴りは上段蹴りで返される。

　「うぐっ」

　脛に走る強烈な痛み。

　痛みに悶えれば大きな隙となり、鞭が飛ぶ。

　ジャベリンが間に入って正面に爆破を起こし無理矢理後ろに飛ぶ。

　鞭よりも魔法の風圧の方が威力は低いと考えての緊急回避。

　「執拗いですね貴女も。どうして諦めないのですか？」

　「⋯⋯諦める？」

　ジャベリンは不思議そうに呟いた後に、フンっと鼻で笑った。

　「魔法少女は敵を前にして諦めたりしたい！　どんなに強敵だろうと私は諦めない！　私には護りたい人達がいるから！」

　「他人のために自分の命を懸けようなど、愚者の行いか偽善者です」

　「それでも良いよ」

　ジャベリンは新聞で魔法少女の活躍報道を見る度に嬉しそうにしている。

　だが同時に、もしも悪く言われても良いと思っている。

　「私は魔法少女だ。素性を知られてはいけない。だから、偽善者と言われても仕方ない。⋯⋯だけど私は護る。護るために戦う。お前達の好きにはさせない！」

　ジャベリンは常に真っ直ぐ前を向いている。

　魔法少女の矜恃を持って常に戦っている。

　その勇気が、その意志が、折れかけるへカートの心を支えてくれる。

　「そう、ですわね」

　「へカート、大丈夫？」

　「何とか⋯⋯」

　へカートは水色⋯⋯真っ青な瞳をサインに向ける。

　肌を多く露出し、マスクありでも分かる容姿の良さ。

　立ち振る舞いや気品のあるオーラ。

　何よりも戦闘においての強者。

　へカートは自分の腕に自信があった。

　だけど何度もその自信を砕かれ、ジャベリンが支えてくれた。

　彼女の隣に立てるようになりたい。

　その想いがへカートを強くする。

　「すぅ」

　周囲の気温が下がって行く。

　ジャベリンやサインも気づく変化。

　（何か掴めそうな気がする。強敵を倒すには⋯⋯想定外の火力を出すしかない）

　だがどうすれば良い？

　自分で具現化可能な魔法には限りがある。

　サインの想定を超える火力は現実的に不可能。

　すると、ステッキの通信機能でセーギから戦闘中にも関わらず連絡が来る。

　サインは何故か動こうとせず、ジッと魔法少女の動きを待っている。

　魔法少女達は困惑しながらも警戒しながら、恐る恐る通話に出る。

　『合体技だ！』

　開口一番セーギが口にする。

　「「合体技？」」

　『そう！　今絆がかなーり深まっている！　今ならできるはずだ！　二人の力を合わせて超必殺技を放つんだ！』

　それだけ言うとセーギは通信を切った。

　「⋯⋯はい。承知しました」

　サインの方も誰かと通信していたらしい。

　各々が再び臨戦態勢に入った直後、魔法少女の二人は手を繋いだ。

　二人で力を合わせる意味はまだいまいち分かっていない。

　だけど、強さへの信頼がある師匠からのアドバイス。きっと意味はある。

　握った手に二人はギュッと力を込める。

　深く、広く、マナを集める。

　「ほう」

　マナの奔流が真っ赤なツインテールと真っ青なロングストレートの髪を踊らせる。

　具現化してないにも関わらず肉眼で視える程に集まったマナ。

　ジャベリン、へカートの念動力や収束力を足してもここまでのレベルは出せない。

　「凄い⋯⋯」

　「今までのワタクシ達とは明らかに⋯⋯違う！」

　今なら行ける。

　そう確信する。

　「行くよ、へカート」

　「ええ！」

　「「合体技！　『グレイシャー・エクスプロージョン』！！」」

　超広範囲氷結爆裂魔法。

　得意の魔法を掛け合わせ放つ。

　巨大な球体が空よりミサイルのように、隕石のようにサインに降り注ぐ。

　「「行っけえええええええ！」」

　たとえサインのスピードだろうとこの魔法からは逃げきれない。

　そして自分の強さに自信がある人は大抵同じ行動を取る。

　「面白いですね」

　マスクの下でくすりと笑う。

　「必殺」

　「「ッ！」」

　「『八岐大蛇（ヤマタノオロチ）』！」

　8つの光の軌跡を描いて、巨大な魔法と衝突する。

　国を揺るがす巨大な魔法に真正面からぶつかった。

　大規模な爆発が起こり、辺りに広がる衝撃、轟音、冷気。

　魔法を放った本人さえ肌がピキピキと冷える温度。

　真下にいたサインはと言うと。

　体の半分を凍らせているが、立っていた。

　白い息を吐く。

　「⋯⋯中々、やりますね」

　弱ったような声。

　だが、戦う意思は鋭い眼光から読み取れる。

　魔法少女は限界が近い。

　魔法を使うにはそれなりの体力を使う。

　大規模魔法は初めて使う。さらにぶっつけ本番の大技。

　このまま戦えば魔法少女は負ける可能性がある。

　しかし、カラスの仮面を被った黒いローブの何者かが現れ、サインを横抱きして去って行く。

　一瞬で現れて一瞬で消えて行く。まるで嵐の風だ。

　「何とか、なったのかな？」

　「そうだと、思いたいですわね」

　スケート場のようになった平地に座り込む魔法少女。

　二人は己の未熟さを再確認した。