第30話 学園襲撃
小娘達のクラスはグラウンドを使用している筈。
タイミング的には今だろうか。
「先生」
「なんですかサシャさん」
「お腹が痛いので保健室に行ってもよろしいでしょうか」
「そうですか。それでは保険委員を⋯⋯」
「いえ、一人で行きます」
「お腹痛いんですよね?」
「そうですよ?」
おかしな事は言ってないだろう。
お腹痛いので保健室で休みたい。それだけだ。
私は弱った足取りで外に出て、気配を完璧に消してマナを使い加速、最速でトイレに向かった。
持って来ていた怪人サイン用の衣装に着替える。
鬼のマスクも忘れない。髪型も変える。
「良し、行くとしよう」
ルーシャ様が隠していたハイエナ怪獣ハーオイナを呼び出してグラウンドに殴り込みに向かう。
まずは派手に爆発させ、生徒達を驚かせる。
「きゃああああ!」
「何!?」
「なんで爆発!」
「私はサイン⋯⋯お前達を拉致しに来た」
空から優雅に降りると、男共が胸部を眺めてズボンを膨らませる。
嫌悪感を覚えながらも、露出部が下にあるのも悪いと思い、気にしたいようにする。
どうせすぐに収まるし、何なら小さくなるだろう。
「さぁて、誰からにしましょうか。ゴミは食べていいわよ、ハーオイナ」
「ガルル」
遠くで貴族クラスも授業をしていたらしく、そこからも人が来ている。
「俺はルベリオン! お前達を倒す!」
魔法少女と混ざると面倒だな。
「ファウスト」
「はーい!」
教師と無駄に正義感を振り回す雑魚相手に過剰戦力と言えなくもないが、安心して任せられのがファウストしかいない。
さて、そろそろぺろぺろがステッキを持ってくる頃合。
私も気を引き締めて⋯⋯遊びますか。
存分に。
「ふふ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いきなりのヤベーゾ幹部怪人の襲撃に慌ただしくなるクラスメイト達。
最悪な事にステッキは鞄の中で変身できない。
「なんてハレンチな格好なの」
サインの格好は初めて会った時も凄かったが、成長したのか服装のえっちさが強調されている。
どうしてあんなにも肌を晒せるのだろうか⋯⋯。
怪獣が6体、それに幹部怪人。
サインの格好に色々と思うところはあるが気にしている余裕は無い。
「わん!」
小さな鳴き声が足元から響く。
なんと、ぺろぺろが私達のステッキを持って来てくれたのだ。
ありがたく受け取り、人の目がサインに向いている間に変身する。
クラスメイトに襲い掛かりそうなハーオイナに向かって爆撃魔法を放つ。
「お久しぶりですねジャベリン」
「ええそうね。あの日以来⋯⋯私をただの小物としてしか見ていなかった」
「何か勘違いなさってますね? 私から見て、今でもアナタは小物ですよ」
嘲笑うように口元に手を置いて、肩を揺らす。
分かりやすい挑発だ。
「ジャベリン⋯⋯」
「大丈夫だよへカート。まずは怪獣を倒す」
私達がハーオイナと戦うとクラスメイトは熱気を上げる。
「魔法少女が来てくれた!」
「これで助かるんだ!」
「頑張れ二人とも!」
「皆さん逃げてください!」
「これは見世物じゃないのにっ!」
どうしてクラスメイトは逃げないんだ?
このままじゃ私もへカートも全力が出せないじゃないか。
相手は被害を考えない敵だ。手加減はしてくれない。
不利すぎる。
教師達は何をしているの?
どうして助けが来ない?
考えても仕方ない。
「さぁやりなさい!」
サインの言葉に2メートルくらいの大きなハイエナが私達を囲み、一斉に襲い掛かる。
しかし、そんなモノに私達は屈しない。
私とへカートが同時に地面を踏み、爆発で加速した氷柱が全てのハーオイナに命中する。
「ジャベリン」
「うん!」
私の爆発でへカートも共に加速し、手前のハーオイナに肉薄する。
私はゼリ距離爆発、へカートはゼロ距離氷の剣で計2体を瞬時に倒す。
背を預けるようにもう一度集まる。
「ふむ。連携は多少できるようになったようですね」
ハーオイナも連携しながら私達を取り囲むが、へカートと絆を深め訓練した今なら問題無く対処できる。
へカートが氷の盾を作り、私が爆撃する。
「サイン、私はあの頃と違うんだよ。友達もいる、仲間がいる。昔の私より何倍も強い」
「そう。だから?」
「今日、貴女を倒す」
「寝言は寝て言いなさい」
常に上から語るサイン。
冷静にハーオイナを倒し、戦闘不能に追い込む。
「5匹は絶命、1匹はもう立てる余裕すらない⋯⋯か」
「ハイエナは他者の獲物を横取りする。真正面から戦って勝てると思っていますの?」
「ハイエナの歯は強靭よ。まぁ、結果はこれですけどね。さて、私も少し動きましょうか」
サインが私達の前に出る。
初めての幹部戦。緊張はするが、今までの訓練を思い出す。
大丈夫だ。
「行くよ、へカート!」
「ええ、ジャベリン!」
私とへカートが加速してサインに迫る。
マスクをしてるので口元は見えないが、邪悪な笑みを浮かべている気がした。
刹那、私達の動きが完全に停止する。
「う、動けない」
「なん、なの?」
「シンプルな鎖の拘束魔法です。この程度も破れないなんて⋯⋯弱者ですねぇ」
魔法の鎖に捕まれ、動けない。
そんな私に近づき、細長い指で顎を上げられる。
「どうでしたか? 自分よりも弱い相手に勝って世間からチヤホヤされた気分は。さぞ気持ち良かったでしょう」
深い、深い闇のような瞳が私をギロリと覗き込む。
「私はそん⋯⋯」
否定しようとすると、猿轡を魔法で具現化させ口を塞がれる。
「耳元で叫ばないでください」
「ジャベリンっ!」
「叫ぶなと言ったでしょう?」
「うーうー!」
へカートも同様に口を塞がれる。
魔法で鎖を破壊するっ!
⋯⋯マナが!
周囲のマナが極端に薄い。
何故?
「ジャベリン!」
「魔法少女の二人が!」
「そんな⋯⋯終わりだ」
「あらあら。学園の生徒ともあろう方々が。これじゃ怪人改造に向いている方はゼロ⋯⋯全員ゴミ。処分対象ですわね」
「うー!」
させない!
そんな事絶対にさせない!
「あら? こんな情けない姿を晒しておいて、勇ましい瞳ですね。少し、虐めたくなりました」
「うー!」
何をする気なの?
私のお尻をサインの方に向けるように移動させられる。
同時にサインは長い鞭を取り出し、クルクルと遠心力を付ける。
「さぁ、お鳴きなさい!」
バチン、強く私のお尻を打つ。
「うううううっ!」
痛いっ!
単なる鞭の打撃による痛みじゃない!
「良い声ですわよ」
耳元で囁くサインの言葉。
闇の中にもサファイアの輝きが見えた。
歪んでいるのにキラキラと真っ直ぐで、嫌悪感が拭えない瞳を視界全域に広げる。
「それではもう1発行きますわよ」
「うっ! うーうー!」
殺意の籠った眼差しをへカートがサインに向ける。
「折角高揚していたと言うのに愚かしい」
ヒールの尖った踵をへカートの肩に食い込ませる。
「うっ!」
大粒の涙を浮かべながら、叫ばずに耐え鋭い眼光を向ける。
「あらあら。私、反抗的な子は好きですよ。自分の好む性格に変えるのが最高に楽しいんですもの!」
一片の曇りも無く足に力を入れ、グギギっと食い込ませる。
「うぅっ」
へカート!
助けない、と。
仲間を助けないと!
その時だった。
動けないと思っていた残りのハーオイナが動いて、女子生徒に向かって特攻したのだ。
飢えた猛獣のようにヨダレを垂らし本気で迫って行く。
「止まれ!」
サインの叫びも届かずハーオイナが動く。
トラブル?
なんて考える暇、私には無かった。
ハーオイナの強靭な牙が女子生徒を襲う。
ベースはハイエナ。ハイエナは骨を砕く顎を持つ。
肉を簡単に貫き、骨を噛み砕く。
もしもこのままいけば⋯⋯生徒はどうなる?
恐怖で動けなくなり地面に手を着いて倒れ、ジリジリと後ろにさがるが遅い。
助けを懇願する、希望に縋る眼差しを私に向ける。
「ううううううう!」
弱きを助け、強きを挫く。
護りたい人は護る、それが魔法少女だ。
こんなところで、止まってる場合じゃない!
猿轡を噛み砕き、自分を巻き添えにして薄いマナを限界まで集め爆破させ鎖を破壊する。
「させるかあぁぁぁぁ!」
加速し、生徒が襲われる前に腕を通す。
マナで防御するが止めきれず、歯が肉に食い込み血がしとどに飛び出る。
「痛いじゃないか」
魔法を使えばクラスメイトも巻き添えだ。
拳を固め、身体強化を乗せて腹を殴り上部に飛ばす。
お陰様で牙に肉が斬られたが深くは無い。
落下に合わせて上段蹴りを放ち骨を砕き命を断つ。
サインに向き直り、ギリギリまで近づき地面に手を突っ込む。
「仕切り直しだ」
私は地中のマナを使って大きな爆発を起こし、外にサインを飛ばす。
へカートを解放して共に追い掛ける。
「血を止めますわよ」
「ありがとうへカート。行こう」
「ええ!」
「サイン⋯⋯私は怒ったぞ」
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