第29話 新たな計画の兆し

 今日はルーペに呼ばれたので拠点にやって来た。

 何の用かと楽しみにしていると、次のナンバー怪人セカンドのネタを悩んでいるらしい。


 「変身する美人系、ゴリゴリのマッチョ男、眼鏡の頭脳系で悩んでいるんだよ。まぁ、傾向的に1つ目の案にしようかと思っているよ」


 変身する美人系だと?


 「それはダメだ」


 「え?」


 ルーペは心底不思議そうに眼鏡の奥から僕を見る。


 何故ダメなのか、決まっている。

 ファウストは可愛い系の部類に含まれる。

 可愛いの後に美しい?


 「違うだろ。可愛い系の後はおっさんって相場が決まってるんだよ!」


 このアンバランスで親子感。だから良い。

 ファウストが子供のように構ってあげたい可愛い系なら、次は守ってくれそうなおじさんだろ?


 「故に次はゴリゴリマッチョのおっさんだ! スキンヘッドならなお良し!」


 「そう言われるとは思わなかったよ。良いのかい? 人間に近い見た目でおっさんなんて用意して?」


 「むしろなんでダメ?」


 ルーペは資料として見ている漫画に視線を向けた。


 「いやね。アーク様は女好きと思っていてね。実際漫画の敵キャラはエロい女が多い」


 「おいおい心外だな」


 ルーペの中で俺ってそんな印象なんだ。

 少し凹みながらどうしてかと問い質す。


 「サインを見てみたまえ。露出が多く体型も相まって超エロい。こんな格好をさせておいて勘違いするなは無理があると思わないかね?」


 「待ってくれ。サインの格好はサインが自ら考えてやっているのであって僕の意見では無い」


 「やっぱりサインは露出狂じゃないか」


 「違います」


 紅茶を入れたサインが間髪入れずに否定した。

 こうして次のナンバー怪人が決まった。


 「ギャップを入れると考えたら魔法系にするかい?」


 「いやいや。マッチョは脳筋であるべきだ。肉弾戦特化のパワー型が良いと思うよ」


 「なるほど⋯⋯なら魔族の巨人のDNAを使って人外のパワーを用意しよう。サイン、また協力してくれよ?」


 「アーク様が望むなら私は如何なる事も致します」


 「やっぱりその格好はアーク様が望んだからやっているのでは?」


 「違う」


 サインのこの格好は幼い頃から自分で考えてやった事だ。

 多少僕の嗜好が含まれている事は否定しないが、決定したのは彼女だ。

 露出狂のえっちぃ格好を強制している訳では無いので勘違いしないでくれ。本当だからな?


 「さて、ナンバー怪人の件は終わり。次は新たな怪獣の紹介だよ。ハイエナをモチーフにした」


 狼サイズのハイエナが6匹奥からぞろぞろとやって来る。

 その目は常に獲物を求めており、敵意をギンギンに剥き出している。

 サインがその敵意に反応し、殺意を持って制した。


 「制御可能なのか? 少々荒っぽそうだが?」


 「群れ意識が強くて上下関係を好まない性格になってしまってね。でもまぁ圧倒的な強者を前に無謀な事はしないさ。大丈夫大丈夫」


 お。

 なんかフラグっぽいのが立った気がする。


 仲良くなったし連携バトルも必要だが⋯⋯いきなり6体は危険か?

 暴走の危険性も考えて対処できるようにしておきたい。

 かと言ってあからさまな事はできないし⋯⋯。


 「⋯⋯感情の急降下」


 考えていたらいつの間にかオタク脳になり、こんな言葉が浮かんで来た。

 脈絡の無い言葉を不思議に感じる二人。


 「今は互いを認め合い仲良くなって来ている。視聴者の感情的にもかなり上にある」


 「視聴者は僕様達くらいしかいないけどね」


 「それは良いんだよ。ただ、このタイミングで負けイベントがあれば感情は一気に下がり物語に引き込まれる。⋯⋯まぁ何が言いたいかと言うと負けイベントをやろうって事さ」


 「負けイベント?」


 「そそ」


 ハイエナ怪獣が万が一暴走しても傍にサインが居れば制御が可能になるだろう。

 そしてそのまま幹部戦。

 あの時、ジャベリンが本気で強くなろうと決意した日の再会。


 「くくく。実に楽しみだな。場所は⋯⋯そろそろ人が多いところでやるか」


 観客は多い方が盛り上がる。

 僕は自分の頭の中でプランを練って行く。


 「負けイベントは構わないが、サイン一人で大丈夫かい?」


 「ルーペ、私があの小娘二人に遅れを取ると?」


 殺気を向けた事にルーペは慌てて否定する。


 「そうじゃないさ⋯⋯てか、君ら同い年だよね?」


 「サインの実力は問題無い。あの二人が魔法少女として本気を出せたとしても、サインに勝てない。サインが全力を出さずともな」


 サインは幼い頃から僕流のやり方で本気で鍛えている。

 さらに、彼女には才能もあり実力はかなりのものだ。

 魔法少女二人では勝てない。


 「直々に訓練し見ているアーク様の目なら確かだろうね。⋯⋯だけど戦力差がアンバランスじゃないかね?」


 「そこは仕方ない。負けイベントの後には覚醒イベントがあるもの、一気に強くなるさ」


 「そうかい」


 僕はサインの方を向く。


 「サイン、頼めるか?」


 「もちろんです。ようやく、私も遊べますね。アーク様の時間を奪う小娘共と」


 まずいな。

 少しだけ不安になって来ている自分がいる。

 ルーペに頼もうかな?


 やる気に満ちた笑みを浮かべるサインを見ると逆に不安になる。


 「負けイベントって事はサインが二人を倒しちゃうんだでしょ? 終わりはどうするのさ?」


 「セーギとして僕が助けに入るよ。イメージダウンにならないように声は魔法で変えるけどね」


 魔法少女と言う百合空間に男は要らん。断じて要らん。

 だから僕は女性ボイスを魔法で出しながら戦う予定だ。

 一瞬、姿形も変えて魔法少女になろうかと考えたが、流石に止めた。

 今時男が魔法少女になるのは普通にあるし、技術的にも可能だ。


 ⋯⋯でも、セーギを知っているあの二人の前で魔法少女になるのは僕の心が許さなかった。


 「そうだ。ハイエナ怪獣の名前は?」


 「いつも通りアーク様が付けてくれたまえ。僕様は作れればそれで構わないタイプの獣人なのでね」


 「じゃあ⋯⋯ハーオイナ」


 ハイエナ怪獣ハーオイナ。

 彼らの出動日が決まった。

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