第33話 壊れゆく計画の音
文化祭が始まり、友達のいない僕はいつも通りサシャと共に文化祭を回る。
異世界の文化祭は現代とあまり変わらない。
出店が出たり、色んな人がやって来たり。
違いをあげれば、ギャンブルがあったり人やバイクが空を飛んだり魔法がある事くらいか。
最初にやって来たのはエアバイクレースだ。
金を賭ける事ができるが、上限がかなり低めで決められている。
そもそも学生に賭け事をさせるなって思うが、貴族社会なら常識なのかもしれない。
「試しにやってみるか」
「それでは私も」
サシャも賭けた結果、僕は負けてサシャは6倍くらいに増やしていた。
「サシャって基本なんでもできるよね」
「いえ、私など。ルーシャ様と比べたらまだまだです」
「この結果を見てよく言えるね。次行こうか」
「はい」
隣を歩きたそうに僕の手を見て来る。
奴隷だから、と遠慮するならその首輪を外して良いのに。
ここは無礼講だ。
僕はサシャの手を掴んで自分の隣に引き寄せる。
「ルーシャ様!」
何か言いたげな眼差しを向けるが、僕が前を見ていると黙って寄り添う。
何も言う必要は無い。ただ、今日と言う日を楽しめば良い。
たこ焼きを買ってみた。
「中身のタコ、魔獣じゃないだろうな?」
流石に巨大生物を食べるのは気が引けるのたが⋯⋯。
ま、大丈夫だと信じて食べる事にしよう。
「あの、ルーシャ様」
「ん?」
「え、えと。あ、あーん⋯⋯」
遠慮がちに爪楊枝で刺したたこ焼きを口元に差し出して来る。
照れているのか、視線を逸らしてチラチラと僕の方を見ている。
ニコリと笑みを零してから、僕はありがたくそれを貰った。
「あっつ!」
「す、すみません! さ、冷ましてませんでした!」
「だ、大丈夫」
できたてだもんな。僕が悪かった。
マナでソースや鰹節が飛び散らないように固定し、温めの冷気で冷ましてからいただく。
うん。
「美味しい」
「⋯⋯ッ! き、機会がございましたら私もお作りします」
「それは楽しみだ」
サシャの料理はなんでも美味いしね。
僕もたこ焼きを刺して、サシャの口元に持って行く。
「そ、そんな滅相も無い」
「遠慮するな。これは僕がやりたい事だ。素直に受け取ってくれ」
「は、はい。そう言う事でしたら」
「そそ。はい、あーん」
「あ、あーん」
これまた遠慮がちに口を開いてたこ焼きを頬張った。
もきゅもきゅと食べながら、ゴクリと喉を揺らすと頬を染める。
「人生で1番のたこ焼きかもしれません」
「そうか」
この世界でサシャも僕も多分、たこ焼き食べるの初めてだと思う。
その後は魔研部の魔法芸を見たり。一年は参加できない。
プラネタリウムがデートスポットとして確固たる人気を博したり。
色々と楽しんでいる。
「クライマックスの3日目の夜⋯⋯打ち上がる花火⋯⋯楽しみが尽きそうにないな」
「はい! そうですね」
終始嬉しそうなサシャは握る手に力を込めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「よしルーちゃん! 次は射的行こ!」
「不正の臭いがしますわ。止めましょう!」
「それでもだよ」
部活で手伝ったところは無料券が貰えているので、全て回る予定だ。
それでも限界もあるのでちゃんと3日で分ける予定。
私とルーちゃんは訓練も兼ねていたので、他の部員よりも手伝った場所が多い。
おかげでお金を使わずに文化祭を最大限楽しめる。
大きなイベントは貴族や平民の壁も無く無礼講。何も気にせず楽しむ!
ヤベーゾも最近は大人しいし。
ステッキもアップデートされた。
まだ、サインに勝てるビジョンは見えないが、必ず勝つ。
「おーいアナー!」
「ん? あ!」
施設の家族が手を振って私を呼んでいたので、ルーちゃんに断りを入れて向かう。
「あの子がいつも言ってるお友達ね。挨拶しなきゃ」
「えへへ。照れるな」
「これからも2人で回るの?」
「うん。そのつもりだよ。皆も楽しんでね! あ、私達のクラスは古代生物の演劇やってるから見に来てね。私達の出番は明日!」
「ええ、もちろん」
挨拶を終わらせ、目的の場所へ向かう途中。
ルーちゃんが怪しい行動をする生徒を発見した。
「気になりますわ。追いかけますわ」
「分かった。私も行く」
「わん!」
ぺろぺろも今日ばかりは隠れる必要が無い。
紺色のポニーテールをした女子生徒を追いかける。
気配を殺して向かう場所を探ると、どんどんと人気の無い体育館裏倉庫にやって来た。
「強いマナを感じますわね」
「うん。⋯⋯それになんか異質。自然のマナじゃない」
倉庫から漂うマナに触れて分かった。
学園全体に異質なマナが散らばっている。
「何かをする前に食い止めますわよ」
「もちろん」
念の為変身して行く。これなら身バレの問題は無い。
「ここで何をしているんですか!」
「おやおや。まさかまさか。こんなところに噂の魔法少女がやって来るとは誤算だな」
顔は見せず、背を向けたまま喋り出す。
私達がステッキを向けて攻撃の意志を見せると、肩を上下に揺らして「ヒヒヒ」と笑う。
「武器を下ろしてくれ。これはただの展示物だよ。最終日に出す予定の特別製だ。別段怪しくない。魔法少女達の出番は無い⋯⋯けど、学祭は楽しむと良いよ」
展示物⋯⋯なるほど。
「違いますわね」
「え、違うの?」
呆れた目をルーちゃんに向けられる。
「ええ。大まかな外観情報しか知りませんが。それは現在進行形で国家研究が行われている人用の転送装置⋯⋯違いませんわよね?」
「ヒヒヒ。ご明察。ただ、完璧な品は用意できなくてね。受け取り専用なのさ」
受け取り専用?
「さらに正確に言えばこれは⋯⋯ルータに近い代物さ」
ルータ?
なんか情報魔法学でやったようなやってないような⋯⋯。
「ルータ⋯⋯ってまさか! 他にも感じる異質なマナの正体は!」
ルーちゃんは分かったらしい。
「中々に頭が良い。でも止められないよ。既に計画は進行している」
「一体、貴女の目的はなんですの!」
「そ、そうだよ!」
ダメだ。私だけ話についていけてない。
「ヒヒヒ。目的? 目的ねぇ」
「ええ。貴女は見たところ人間に見えますわ」
「そうだね。人間だよ。幼い頃に無理矢理実の父に犯され、その父から護るために滅多刺しにした狂気の母に捨てられ、拾われた施設ではジジイの相手をさせられ挙句の果てに体を売った惨めな人間さ」
自虐のように語り出す。
「そして知ったのさ。力が無いと何もできないって。そして人間が如何に醜く薄汚い汚物かと。だから彼らに協力する事にしたんだ」
「彼ら?」
「そう。人間の支配を目指す彼ら⋯⋯目的はそれさ。さて、一つだけ魔法少女に訂正させて欲しい事がある」
「「?」」
「これはルータと言ったが、実はちゃんと受け取り用の機能もある」
刹那、機械が光る。
目を覆う程の光が倉庫内に広がる。
「おっとすまない。訂正は二つだ。進行中と言ったがあれは嘘だ。まだ壊されたら計画がダメになるところだった。でも、これで本当に問題無い」
「チィ!」
ルーちゃんが舌打ちと共に機械に向かって魔法を放った。
ガラスの砕ける音が響く。
「それじゃあね。魔法少女。もう、会うことは無いだろうね」
「「待て!」」
追いかけようとしたが、強い殺気を感じてバックステップを踏む。
「吾輩、
両腕が剣の漆黒の魔族が、私達の前に現れた。
なんなら足、胴体、顔すらも剣である。
そんな魔族から感じるマナのオーラは⋯⋯今までの感じた事の無い威圧感があった。
もしかしたら⋯⋯サインと同等かもしれない。
「気を引き締めて行くわよ」
「もちろんだよ、へカート!」
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