第19話 二つ名怪人って良いよね

 数回、二人の距離が良い感じに開いてから怪獣を投入した。

 その全てにへカートが対応している。ジャベリンも遅れて対応するが活躍は無い。


 「うんうん。良い感じに天狗になってる」


 元々彼女は成績は優秀だし才能もある。

 ちゃんとした訓練方法さえ与えてやれば伸び代はアナよりも大きい。

 故の人を見下す性格。過去に人格形成に影響した何かがあるとは思うけど、それは分からない。


 「本当に逸材だな。ああ言う子が絆されてこその魔法少女」


 僕はアークの姿となって拠点に向かう。

 ルーペには既に素性を明かし、魔法少女を輝かせる協力者となった。

 彼女にとって重要なのは種族の神秘の探求。


 自分の作り出した生物の戦闘データが即取れるならと喜んで協力してくれている。

 お陰で色々と助かっている。幹部怪人としての役目も引き受けてくれたし。

 

 魔法少女はただの人間と言う事であまり興味は持ってくれなかった事だけは⋯⋯心残りである。


 では何故アークの姿で拠点に行くのかと言うと⋯⋯純粋な雰囲気だ。

 当たり前だろ?

 オタクたるもの、雰囲気は大切にしないとね。


 ルーペが拠点に住むと決まってからコレは大切にしている。

 拠点にいる時は悪の組織だと。


 なので先に向かっているサシャもサインの姿だ。

 露出狂が二人⋯⋯そろそろまともな幹部怪人が欲しいぜ。


 「やあやあ。こんにち⋯⋯」


 僕がルンルンでドアを開けて中に入ると、乙女二人が喧嘩していた。


 「全ての怪獣が必殺技でワンパンされている。流石に弱過ぎる!」


 必殺技なんだから当然その後は負ける。

 その展開が来ていいのは、マンネリ化や次のステップに進む時だ。

 サインよ、君の考えは間違っている。


 「僕様だって遺伝子操作で新たな生命を作るのは初めてなんだよ許してよ! 巨大生物に変えるだけでも一苦労なんだよ! 遺伝子に付いて調べれば調べる程新しい謎が出るんだよ! 僕様がもう6人は欲しいよ!」


 「知りませんよ! 少なくとも実験体のハンサムはそこそこの強さです!」


 「それはアンタら化け物が鍛えた結果であって怪人としてのスペックじゃないの! 僕様に文句を言うな!」


 遺伝子操作で怪獣や怪人を作る⋯⋯なんて本格的な事をルーペさんはしている。

 

 どうしてそうなってるかって?

 僕が知りたい。


 彼女も僕の趣味で描いた漫画から発見を得て色々とやっているのだ。

 全てはサインが漫画を与えた事がきっかけなので、僕は悪くない。


 そもそも遺伝子操作で新しい生命を作る方法とか良くできるよね。

 だって漫画でもそんな具体的な事描いてないよ?

 そんな知識無いからね。描けないよね。


 でもルーペはそれで成功させているんだよなぁ。

 簡単に巨大化と急成長などを実現させているしさ。


 「⋯⋯でもさ、遺伝子に付いては全然調べられているだろ? 生物学があるんだし」


 「アーク様知識とはまた別だよ。あれはマナの性質の話だからね」


 種族により内なるマナの性質が異なり、さらに個体ごとに細かく違う。

 遺伝子と言ってもマナの話になる。


 「光の反射とかも僕様は知らなかった。マナが景色の色を見せていると研究結果が出ているのだからね。アーク様の知識はどこで仕入れたのかね?」


 興味津々の様子だ。

 転生者⋯⋯と言ったら今なら信じてくれそう。漫画読んでるし。

 ま、ミステリアスなボスって何か良いから秘密にするけど。


 「アーク様は我々では理解できない叡智を持っているのです。おいそれと教える訳ないでしょう。アーク様は特別なのです」


 「そうだね〜。イヒヒ」


 うーん。サインはサインで僕を過大評価している気がする。

 漫画からあれもこれも見聞を広げて答えを導き出しているのは君ら二人だよ?


 「おっと。我儘サディストちゃんのせいで忘れるところだった。今宵2人を呼んだのは僕様の自信作のお披露目ね。おいでファウスト」


 「はーい!」


 ルーペに呼び出されて、ひょっこりと顔を出してからテコテコと近付いて来る。

 僕の前に立って、元気よく右手を上げる。


 「ボクはナンバー怪人ファウスト。ママの自信作1号です! よろしくお願いします主人!」


 「うむ。よろしく頼む」


 自信作の1号がボクっ子で良いの?


 ぶかぶかのパーカー⋯⋯萌え袖だな。

 セミロングの白髪に、にこやかな笑みで見えるのは白く輝くギザギザとした歯。


 「癖の詰め合わせかよ」


 「ん?」


 「何でもない。それで、どうしてこの子を?」


 「主人抱っこー!」


 抱き締めて椅子に座りながら、頭をヨシヨシと撫でる。

 小動物を撫でている気分だ。


 「ファウスト、あまりアーク様を困らせてはいけませんよ」


 「はーいお姉ちゃん!」


 ルーペは水を飲みながら、分厚い資料を僕に渡してくれる。

 何か⋯⋯あれだね。

 科学者の友達がいたら少しは理解できたかもしれない。


 難しい言葉の羅列とよく分からない写真。レントゲンか?

 そっと、机の上に置いておいた。


 「速読だね」


 「ふっ」


 難し過ぎて流し見しただけだ。恥ずかしくて言えない。

 僕はオタクだが、科学者でも無いしそっち系を調べた事すらない。

 頭そこまで良くないし。


 「資料の通り、遺伝子と言うのを深く研究する過程で人造人間に興味を持った」


 「そうか」


 「しかし単に人間を創造してもつまらないし不安定だと気づいてね。そこで複雑な遺伝子かつ今でも興味深い情報の塊であるサインに協力して貰ったのさ」


 「血を抜いただけですけどね」


 なるほど。

 サインの血があれば遺伝子は研究できる訳か。

 DNAとか塩基配列とかも既に導き出してそう。


 「そんでね。サインが特別な存在ってのは漠然とだが納得はした。では彼女のクローンを作ったらどうなるか⋯⋯興味が湧いてね」


 「その結果がこの子か」


 「そそ。せいかーい。百パーセントの再現は無理だった。余裕でむーりー! 完璧に分析できてないからね許してくれたまえよ。肉体構築に必要で補う必要があるものは、魔族怪人から徴収した」


 「サインの遺伝子をベースに他魔族の遺伝子を使って人造人間⋯⋯ナンバー怪人の完成に至った訳だな」


 何と言うか⋯⋯サインって凄いんだな。

 いや、それだけで人造人間を作っちゃうルーペがヤバいのか?


 「性格形成と言う一番の懸念点は人工的に作り出した幼少期の記憶を植え付ける事で解決した。生後2日だけど記憶的には6年生きてるね」


 「そうか」


 「うんうん。調整は終わったから後は戦闘訓練をしながら実力を伸ばすのと性能の把握が必要だね。今後も生み出す予定だよ。コレは僕様の夢に近づくチャンスだからね」


 「そうか。頑張れ」


 「だから他種族の遺伝子も欲しい。協力を頼むね」


 終始楽しそうに話し終えたルーペ。自分の成果を自慢したい子供のようだった。


 難しい要望だ。

 この世界にどれだけの種族がいると思っているんだ。細かく分ければ気が遠くなる話になる。


 特に龍種や精霊と言うカテゴリーの種族は存在自体がレア、天使や悪魔に関しての存在は童話の中だけ。

 難しいよ。ホンマに。


 「戦闘訓練の方は僕がやろう。サインも協力頼む」


 「もちろんです」


 「あー後、ファウストには今後も社会を学んで貰うために表のペットショップで働いて貰う事にしたいんだが⋯⋯良いかね?」


 見た目は人間っぽいし⋯⋯大丈夫だろう。

 僕は顔を前に倒して肯定した。


 「怪人を従業員にすれば人件費の削減にもなりますね」


 「イヒヒ。そうだねぇ。そしたらもっと拠点を大きくして設備の向上を願いたいね。今のままじゃ限界が近いのだよ。大きな研究所が恋しくなるね。後は⋯⋯頭の良い研究員」


 今更気づいたのだが、ルーペの目には大きなクマができていた。

 寝不足なんだろう。


 「ボク頑張るね。主人!」


 「ああ。頑張ってくれファウスト」


 良いよね。

 幹部じゃないけどカテゴリーとかコンセプトのある怪人ってさ。

 何か特別感あると言うか、普段とは違う感じがこう、ゾワゾワって感じる。


 と、ここで気になる事が1つ。


 「ファウストの性別ってどっちなの?」


 「ボクはボクだよ?」


 「そうだな〜ファウストはファウストだな〜」


 子犬のような可愛さを持った人造人間(?)、ナンバー怪人ファウストが仲間となった。

 その戦闘力は我らの組織で上から3番目、サインの次となった。

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