第18話 後輩の魔法少女は強い

 「ルーちゃんルーちゃん! 一緒に帰ろ!」


 「お断りしますわ」


 「良しレッツゴー! ってぇぇぇぇ! なんで?」


 「必要性が無いからですわ」


 仲良くなろうとアナが話し掛けてもルーは素っ気なく返すだけ。

 彼女にとってアナは同じ魔法少女と言うだけである。それ以上でもそれ以下でもない。


 学園も始まったばかりだが、筆記も実技もルーの方が成績は上だ。

 自分よりも弱い人と親しくする必要は無い、それがルーのポリシーなのである。


 助けられた時に感じた胸の高鳴りは気の迷い、気のせいだと結論付けた。

 しかも、魔法少女としての訓練を受けているルーは実力をメキメキと伸ばしている。


 (セーギ様に全然勝てるビジョンが見えませんが⋯⋯いずれは越えてみせますわ)


 日々の訓練を絶やさないルー。

 既に強さはアナを越えたと確信している。

 実際にセーギに実力を褒められる回数はルーの方が多い。


 「この調子なら、ジャベリンの出番は永久に来ませんわね」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「ぺろぺろ。どうやったらルーちゃんと仲良くなれるかな? クラスメイトの半分近くとは仲良くなれた気がするけどさぁ。まだまだ壁を感じるよね」


 「わん!」


 段々と私はぺろぺろの言葉の意味を理解できるようになった。

 1回の「わん」は『はい』と言う肯定を意味する。


 つまりはルーちゃんと仲良くなれていないと言う事らしい。

 聞いたのは自分だが、凹む。


 同じ魔法少女としても仲良くなりたいし、クラスメイトとしてもお友達になりたい。

 だけど中々上手くいかない。


 「誰かに相談した方が良いかな? セーギさんは宛にならないだろうし、図書館のあの人は⋯⋯頼るのが躊躇われるなぁ。もー難しい!」


 頭をガリガリとかいて脳内を真っ白にする。

 魔法少女はチームが基本、連携は重要だとセーギさんは口酸っぱく言っていた。

 仲間のいない最初の頃からずっと言っていた。


 合体技とか友情パワーとか何とか⋯⋯でも彼には友達らしき姿がみえないので相談相手には相応しくない。


 「最近はヤベーゾの悪さも無いし、活躍が⋯⋯違うか。無い事は良い事なんだ。だって街中が平和って事だもんね」


 ルーちゃんに良いところを見せたいけど、平和が崩れるのは嫌だ。

 邪な感情を持っていたら魔法少女失格だ。


 「魔法少女の自覚ってのが芽生えたのかな? 結局、あの恥ずかしい格好にも慣れちゃったし」


 「くぅーん?」


 これは『どうだろう?』と言う意味だ。

 私は魔法少女と言うのを未だに全部は分かってないが、スゲーゾの教訓は守れていると思う。


 「散歩しながら帰ろっか」


 「わん!」


 愚痴は零し終わったので、帰ろうとしたら影が周辺を支配した。

 雲が集まったのでは無い。巨大生物が現れたのだ。


 「怪獣!」


 「イーヒッヒッヒ! さぁ行け! デカムシ!」


 「誰の声よ!」


 誰の声かは分からないけど、間違いなくヤベーゾの仕業だと分かる。

 巨大なカブトムシ⋯⋯私なら倒せるはずだ。


 「被害が出る前に倒す。へーんしん!」


 誰も居ないのでこの場で変身する。


 「魔法少女ジャベリン!」


 今からの自分は魔法少女だと言う事を強く意識するため名前を叫ぶ。


 変身後のセリフをセーギさんに用意されているが、意味が無いのでカットしている。

 恥ずかしいしね。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「ようやく怪獣が現れた。【変身】」


 ワタクシは即座に変身して身体強化を駆使して向かう。

 空中のマナを氷の足場にすれば空中闊歩が可能となる。


 「怪獣デカムシ。ワタクシの最初の獲物となりなさい。この、魔法少女『へカート』のね!」


 セーギ様に渡されたステッキはマナの制御をサポートしてくれるシステムがある。

 具体的にはマナを集めてくれる。


 お陰で多くのマナを操るスピードが上がり訓練にも大助かりだ。

 ワタクシの得意とする魔法は氷系。特に造形に精通している。


 ワタクシが思い描いた形を氷で顕現させ、デカムシへと放つ。

 形成したのは鋭利な剣である。


 「ベースはカブトムシ⋯⋯硬い皮膚ですわ」


 軽く刺さったが致命傷には至らなかった。

 身体的特徴はしっかりとあるのか、翼を広げて空に飛ぼうとしている。


 声の正体を探りたい。だから時間を掛けたくない。

 最速で終わらせるべきでしょうか。


 「る⋯⋯へカート。私達で協力して⋯⋯」


 アナが遅れて合流する。


 「必要ありませんわ」


 「え?」


 「貴女は国民の避難誘導でもしていてくださいませんか? ワタクシ一人で、十分ですもの」


 高くジャンプする。


 「待ってへカート!」


 アナが手を伸ばしても既に遅い。ワタクシは1回のジャンプでデカムシの上を取った。

 まずは翼を凍らせる。


 「凍てつけ。氷塊となりて」


 ステッキの力を借りて大幅にマナを収束し、冷気に具現化し直進的にデカムシへ放つ。

 膨大なマナで顕現された冷気はどれだけ素早く翼を動かそうが、マナで護らない限りは身体を凍らせる。

 そして、マナでガードしてもワタクシの方が制御力は上ですので物量で押し切れる。


 「怪人ハンサムに為す術も無く倒れた過去のワタクシとは違う。今は奴にすら勝てる力がある!」


 翼が動かせなくなったデカムシは街中に倒れた。

 体格故に建物への被害が甚大だが、この怪獣を倒せば許されるだろう。

 実際、新聞でも魔法少女を悪く書く記事は滅多に見ない。


 「さぁ。新参の魔法少女に手も足も出ずに敗北しなさい新種の怪獣。そしてヤベーゾ達よ、見ているのならその目に刻みなさい。ワタクシの強さを!」


 再びマナをステッキに集める。


 「必殺」


 セーギ様がワタクシの得意技を見抜いて授けてくださった必殺技。

 この魔法なら彼にも勝ると自負できる。


 「【フローズン・ファング】」


 氷で作り出した巨大な牙を持つ口がデカムシに噛み付く。


 「我が牙は龍の鱗さえも砕く。虫の外骨格程度では耐えられませんわ」


 バキッ、最初にヒビが入り亀裂は広がり⋯⋯バリンっと砕けて肉を貫く。

 血の噴水が街に降り注ぐ。


 「汚らわしいですわ」


 ワタクシは敢えて使わずに残したマナをステッキから指先に移動する。


 パチン、と指を弾いて音を出す。

 同時に冷気が広がり降り注いだ血を全て凍らした。


 「赤き氷塊が夏に向かう国に降り注ぐ。神秘的ですわね」


 これで後処理も問題ない。

 ワタクシは任務を遂行したのを確認して、人気の無い場所に降りる。

 すると、後ろからアナが追って来た。


 「凄い凄い! あんなでっかい魔法をあんな一瞬で! これならヤベーゾの幹部怪人にだって勝てるね!」


 何を考えているのか、ベタ褒めするアナ。

 ワタクシの事を褒めて近寄って来る人にろくな人は居なかった。

 ワタクシの技術にあやかろうとする愚か者ばかり。


 だから、突き放すように言い放つ。


 「当然ですわ」


 「うんうん!」


 邪険にしたにも関わらず、屈託の無い笑みで何度も頷く。

 能天気のアナにワタクシはハッキリと現実を言わなくてはならない。

 それが強き者の役目でもあるだろう。


 『どんな状況だろうと友や仲間は見捨てない』


 と言うスゲーゾの教えがある。ワタクシは見捨てる訳では無い。

 ただ、そうただ、善意で言うのだ。


 「貴女よりもワタクシは強い。今後もワタクシ一人で十分ですの」


 「⋯⋯え?」


 表情が枯れていく。だけどワタクシは気にせずに進める。


 「貴女の力は必要ない。ご覧なさい。単騎で怪獣を倒し、血の雨すらも阻止した。魔法少女としての実力は圧倒的にワタクシの方が上! 貴女は⋯⋯必要ありませんわ。それではさようなら、先輩」


 ワタクシは変身を解除しながら帰路に着いた。

 唖然とし呆然と立ち尽くすアナを放置して。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「中々に曲者ですね。天狗になっているようです」


 サシャがルーとアナのやり取りを確認して呟いた。


 「私が性根を叩き直しましょうか?」


 「いいや。その必要は無い。コレで良い。コレじゃないとダメなんだ」


 後から入って来た実力ある人はこうじゃなきゃ。

 自分の方が優秀、だから何でも一人でできると思っている。


 「逸材。正しく逸材だよ彼女は。楽しみだ。ルーが魔法少女としての自覚が芽生えた時が。そしてそれを促すのが僕の役目⋯⋯そしてジャベリンの役目だ」


 「ルーシャ様がそう仰るなら、私は口を出しません。我が主の意向に身を委ねるのみです」


 「そうか」

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