第20話 被害者はすぐ側に

 「ルーシャ様。部活見学の時期です。ご一緒に行きませんか?」


 「すまんサシャ。今日は別件を頼もうと思っていた」


 彼女は数秒の沈黙の後、僕の要件を聞き入れて別行動をした。

 楽しみにしていたのか、ガッカリ具合が小さな背中から感じられた。

 いつか埋め合わせしよう。いつかね。


 さーて、僕は普通の学生らしく部活見学でもしようかな。

 父の家柄的に僕は割と注目を集めたが、平凡過ぎる成績ですぐに注目は集めなくなった。

 家族には失望されていない。


 実技では平均より少し上くらいを出し、座学の点数ではゾロ目遊びをしているのがバレている。

 なので呆れられて放置されている感じだ。

 大人が本気で座学に挑んでしまったらチートだろう。だからゾロ目遊びだ。


 そんな普通な生徒である僕が向かった先は興味本位の『騎士部』である。

 夢のおかげで騎士と面会する機会が多く、興味が湧いている。

 騎士部は王国騎士について歴史から武芸まで学ぶ部活となっている。


 「⋯⋯良し、見学者同士で模擬戦しよう。この木刀を使ってくれ」


 「まじかー」


 騎士部見学そうそうに部長らしき人が模擬戦を提案した。


 ハッキリ言おう。

 僕は不器用なので剣が苦手だ。


 そして最初の試合に選ばれ、対戦相手は主人公のようなイケメンくんだった。

 真剣に木刀を構えて僕を見据えている。


 手加減は失礼に当たるか。


 「剣での勝負だからな。魔法は禁止。マナの使用はありとする。しかし大怪我させるのは禁止。正々堂々の真剣勝負⋯⋯始め!」


 「行きます! はああああ!」


 「おいおいまじかよ」


 魔法禁止って僕勝てる要素無くない?

 マナを使って身体強化をし、相手の背後に回る。


 このまま1本取るか?


 「甘い!」


 「うそー」


 僕の手から木刀が弾かれた。

 宙をクルクルと回転する木刀はコロンコロンと地面を転がる。

 

 回避はできたが、剣筋が良かったので防御せずに受けた。

 彼、絶対に剣の素人じゃない。


 マナを使わずに戦った場合、確実に僕は負けるので勝つのは諦めた。

 下手に悪目立ちしたくないからね。夢のために。


 「お強いですね」


 「家柄で小さい頃から剣を握ってるだけさ。マナの制御なら負けてるね。背後に回られた時、見えなかった」


 見えなかったのに、驚きもせずに冷静に後ろの僕に攻撃したのか。

 しかも手をしっかりと狙って。

 強いな。少女だったら剣士系魔法少女にしていたところだ。


 「流石は王国騎士の騎士団長家の跡取りだな」


 「いえいえ」


 「次は魔法で戦ってみよう。殺傷能力の高い魔法は禁止だからな?」


 僕のためにか、魔法勝負が始まった。

 剣では圧倒的な差で負けたから、魔法で挽回させるつもりなのだろう。

 先輩の優しさに触れながら、炎の魔法を使う。


 軽く操作して炎の球体を放つ。

 対して対戦相手も炎の魔法を使う。僕よりも大きな球体だ。


 剣だけかと思ったが、やはり魔法もちゃんと強い。

 幼い頃から努力しているのだろう。

 家柄による英才教育もあるだろうが、ここまでの実力は彼自身の努力だ。


 「わ〜つよーい」


 なので僕は負ける事にした。

 騎士団長家とか言っていたし、戦闘を得意とする家の跡取りかつ主人公っぽい人に勝っては変に目立つ。

 だから負ける事を選択する。


 その時に僕は美学を追求する。

 それは何か?

 あっさり負けながらも成績通りの強さを見せる事である。


 「この辺かな」


 「うおおおおおお!」


 数秒拮抗した後に負けた。

 尻餅を着いて完敗アピールをしておく。

 すると、イケメンくんは僕に近づきて、起こすために手を伸ばす。

 

 眩しい笑顔だぜ。

 打算的な黒い心に槍が突き刺さる。


 「俺はルベリオン。同じ1年だ。よろしく頼む」


 「は、はぁ。僕はルーシャ。よろしくお願いします」


 「ルーシャ⋯⋯確か。運送系の貴族家の跡取りだったよね?」


 「はい」


 僕の事を少し知っているらしい。

 成り行きで昼食を共にする事となり、学食へとやって来た。


 「君は騎士の家系じゃないけど⋯⋯騎士に興味があるのか?」


 「はい。ありましたけど僕には向いてませんね」


 部活の予定表を見たら自由時間が奪われそうだったので入部する事は無い。

 僕の夢は魔法少女を降臨させる事だからね。

 自由時間は沢山必要だ。


 「そうか。それは残念だ」


 本心から悲しげな表情を浮かべ、スープを飲み込んだ。

 止めて。そんな哀愁漂う顔されると心が靡いちゃうよ?


 よし、話を変えよう。


 「騎士がお好きなのですか?」


 「ああ! 俺が1番尊敬するのは父だな。剣の師匠でもあるんだ!」


 熱烈に語る。


 「そうなんですね」


 眩しい。この子眩しい!

 自分の父親を尊敬しているって大々的に言える15歳がどれくらい居る事か。

 ええ子や。


 「でも珍しいな。今の時期に騎士に興味がある、騎士家以外の人は」


 「⋯⋯え?」


 「知ってるだろ。スゲーゾ⋯⋯魔法少女って言った方が分かりやすいか」


 「ええもちろん。魔法少女がお好きで?」


 コレは⋯⋯友達になれるチャンス?

 でも、彼は主人公っぽいしなぁ。


 あーだからこそ関わるべきか。

 主人公ポジになりやすいモブでも無い、主人公の友人と言う一番のサブキャラポジ。

 うん。彼とは友達になろう。


 「いいや。むしろ嫌いだ」


 「⋯⋯ッ!」


 この子とは絶対に友達になれない。決まった。絶交だ絶交。

 もはやこいつは敵!


 「魔法少女がヤベーゾの奴らを追い払うから国民の人気や尊敬、信頼が騎士から魔法少女に向かっているんだ。騎士を下に見る人も増えて来ている。得体の知れない少女の方が由緒正しき王国騎士よりも信頼されるなんて⋯⋯俺は我慢ならない」


 机をドンっと怒りのままにグーで叩く。


 「⋯⋯ソウデスネ」


 僕は彼の顔を見れないでいた。


 「俺は騎士が好きだし憧れている。だから魔法少女の存在が許せない。いきなり出現して⋯⋯何故か爆速でヤベーゾと戦っている」


 主人公居る所に事件あり、魔法少女が居る所に敵出現はテンプレだ。

 仕方ない。


 「しかも対処に向かった騎士達は何者かに妨害されていると聞く!」


 そんな酷い奴が居るとはけしからんな!

 だが僕はソイツがどんな奴が大方検討がつく。オタクですから。


 「きっとそいつはヤベーゾの連中だ」


 多分だが、カラスの仮面を被って漆黒のローブを纏っている。


 「ああ。分かってる。だが、この流れが毎回続いている。まるで全てが仕組まれた事のように⋯⋯」


 グギギっと強く拳を握る音が鼓膜を揺らした。

 怒りだ。激おこだ。


 あ、あれ?

 おかしいな。

 僕の体調は良いはずなのに冷たい汗が止まらないぜ。

 同時にプルプルと震えも起こる。


 「国民から失望される度に父は酒に逃げて⋯⋯今ではだいぶ荒れてるんだ」


 「それは、悲しいですね」


 「ああ。本当に。俺の憧れは魔法少女によって貶されている。外の魔獣討伐や犯罪者の対処⋯⋯騎士達は今でも努力しているのに⋯⋯誰もがスポットライトの当たる魔法少女の活躍にしか目を向けない!」


 僕は何も言わずに黙々とご飯を食べた。


 「って。申し訳ないな。愚痴を言ってしまい。何か、ルーシャは話易くてな」


 黙った僕に対して申し訳なさそうにする。


 「僕が弱い奴だからでしょうね」


 「そうじゃないさ⋯⋯何かさ、俺の事を理解している気がするんだ。って、変だな俺。ごめん」


 頬を赤らめながら、照れ隠しに謝る。

 なので僕も軽く流す。


 「いえいえ」


 「ルーシャ、騎士部に無理矢理入って欲しいとは思わない。だけど、こうしてまた話がしたいんだが、また誘って良いか?」


 「はい。その時は相談に乗ります」


 「ありがとう」


 照れくさそうに、二ッと笑う彼に僕はぎこち無い笑顔を向けた。

 王国騎士⋯⋯国民からの信頼が徐々に低下しているらしい。

 影の努力は評価されない、前世でも異世界でも変わらない世の摂理だ。


 「俺はいずれ実力で王国騎士になって、ヤベーゾの奴らを残さず捕縛する。この国で二度と悪さできないようにしてやる!」


 「⋯⋯それがルベリオンの夢なんだね?」


 「おう!」


 「応援してる」


 「ありがとうよ」

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