第15話 新たな舞台、学園生活の始まりだ!

 あれからも魔法少女の活躍は世間に広がり、僕達は15歳となった。

 今日は学園の入学式。


 貴族は家庭教師などを学園前に用意されて、学園では社会性、処世術などを学び、基礎能力の向上と人脈の形成なども行う。

 貴族で無い国民も同じような内容を受けるが、彼らは貴族よりも学ぶ科目が少なくなる。

 貴族に必要でも国民には必要のない科目があると言う事だ。


 僕は自主的に様々な学習をしていたおかげもあり、家庭教師は与えられなかった。

 そのしわ寄せに優秀かつ人数の多い家庭教師が妹達や弟に行っていた気がしたが⋯⋯あまり関わってない。


 「ルーシャ様。お着替えです。お手伝いします」


 「頼む」


 僕一人でも当然着替えられるが、サシャは僕の世話を焼くと機嫌が良くなるので基本的に任している。

 彼女は優秀だ。優秀すぎる。ご機嫌取りはしておくべきだ。


 大人の色気を中学卒業くらいの年齢で手に入れたサシャは中身が大人の僕でもついつい見惚れてしまう。

 ⋯⋯なんて事は無かった。


 成長段階を隣で見て来たせいか、妹や娘のような感覚になってしまっている。


 「そろそろ奴隷の証を外しても良いんじゃないか? サシャの活躍はお父様達も認めている。養子縁組も考えてくださるはずだ。わざわざ奴隷の身分で居る必要は無い」


 実際、彼女はいくつかの店を経営している。

 その全容を細かく把握している訳では無いか、なんか色々としている。

 ヤベーゾの資金調達と情報収集のために。


 子供にして類稀なる才能と実力を示し続けた彼女の信頼は家族皆から寄せられている。

 下の子達からも兄である僕よりもサシャの方が慕われていそうだし、それくらい優秀なのだ。


 「ありがたいご提案だとは思いますが。やはり私はこの方が落ち着きます。ルーシャ様の所有物である事を私自らが望んでいるのです。コレは私を縛る鎖では無く、誇れる私でいるための防具なのです」


 「そ、そうか?」


 首輪を恍惚とした表情と共に愛おしそうに優しく撫でる。

 毎日手入れを欠かして無いのだろう。

 成長に合わせてサイズは変えているが、今まで一度もホコリを見た事が無い。何なら反射して僕の引き攣った顔が良く見える。


 「腕輪型にしないか? それだと私は奴隷ですって公言しているようなモノだ。学園生活の時くらいは奴隷の身分を忘れ⋯⋯」


 「嫌です。私はこれが1番好きなのです。たとえルーシャ様のご命令であったとしても、真の奴隷契約者であるお父様のご命令でない限りはお断りします」


 我が父ならサシャの意思を尊重するだろう。

 目立ちそうな見た目だが、諦めて僕達は学園行きの送迎バスに乗り込んだ。


 制服姿の彼女は奴隷でありながらも周囲の男達の視線を一身に集めた。

 だと言うのに、不快な思いを表には出さず、我が家の奴隷としての振る舞いを完璧に終えた。


 「愚鈍なオス共が」


 指定された椅子に座ったサシャがボソリと悪態を吐いたが、聞かなかった事にした。


 僕はこの学園でやるべき事を既に決めていた。

 当然貴族の子としての振る舞いを忘れるつもりは無いが、重要なのは別にある。

 それは⋯⋯新たな魔法少女をスカウトする事だ。


 今日からアナも入学。新たな舞台、魔法少女として立派な学園の舞台。

 魔法少女としての実力、実績を伸ばした彼女にはそろそろ仲間が必要だ。


 「アナは熱血系だし。やはりクール系だろうか? 良い子が居るとありがたいな」


 「ルーシャ様。他の女の事を考えていますか?」


 「そうだね。まだ見ぬ姿形が決まっていない少女に思いを馳せているよ」


 「ムゥ」


 相変わらずだな。

 だが僕は不機嫌になる事を想定して既に手札は用意してある。


 「言い忘れていた。制服姿、似合ってるよ。凄く可愛い」


 「本当ですか?」


 「本当本当」


 「⋯⋯ふふ。そうですか」


 嬉しそうに頬を赤らめ、はにかんで俯いた。

 心配になるくらいにチョロい。


 入学式はトントン拍子に進み、終わりを迎えた。

 数日間は学園生活に慣れる授業が大半であり、如何に学園が由緒正しい歴史のある場所かを延々と聞かされた。


 数日の間にやった事と言えば、ぺろぺろの侵入及び潜伏場所の確保。

 アナの行動パターンの確認だ。


 僕が家庭教師もしていた事が功を奏してか、学園の敷地内にある図書館に通う姿が確認された。

 ならばやる事は一つだ。


 「サシャ。君にしか頼めない事がある」


 「何でしょうか?」


 僕の腕の中で猫のように丸まっているサシャに声を掛ける。

 定期的に甘えて来るのは小さい頃から今に至るまで変わっていない。

 なんか悪役のボスって可愛い女の子を膝の上に座らせているイメージがあるので、僕はあまり気にしていない。


 「一定のペースで図書館に通ってアナに接触して欲しい」


 「何故です?」


 吐息の掛かる至近距離でジーッと睨まれる。

 嫌そうな顔をしているが、実際に嫌なのだろう。

 何よりも、こうして密着している時間に他の人の話は不機嫌になる傾向がある。


 しかし、今すぐにでも言う必要がある。

 アナが図書館に向かっているからだ。


 「助言を授けられる立場の人間が必要だと判断したからだ。変装は必要無いだろうが、気になるならメガネでも何でもしてくれて構わない」


 「なるほど。味方を装って成長のサポートですか。承知しました」


 伝えた旨をしっかりと理解してくれて、良い感じに解釈してくれた。

 サシャは名残惜しそうに僕の傍から離れ、図書館に最短距離で向かって行った。


 「わあ! 3階から人が飛び降りたぞ!」

 「嘘でしょ!」

 「あれ? でもそんな人居ないぞ?」


 「でもいきなり窓開いたよな?」

 「どう言う事だ?」

 「学園七不思議は本当にあったんだ」


 サシャには自重と目立たない行動を心掛けるように言い聞かせる必要がありそうだな。

 しかし、これで僕は妄想していたある展開が可能になった。

 それは何か?


 「図書館で本を読んでいる不思議ちゃん。相談すれば何でも答えてくれてアドバイスをくれる頼れる人。少しの信頼感を置いている相手が実は敵の幹部だった! 的な展開が可能になった」


 コレは熱い衝撃展開だろう!

 テンプレだが、それ故に燃える!


 贅沢を言えば校舎に図書室があって欲しかった。

 そしてこう言う不思議ちゃんは同級生よりも先輩の方が役者的にはピッタリだった。


 「全員同い年なのが玉に瑕か」


 学園の入学が同時期にできるし、卒業タイミングも一緒なので魔法少女として輝かせやすい。

 だが、こう言う先輩や後輩にピッタリな展開がある時は残念ながらできない。


 「さて、僕は魔法少女に足る存在でも探しに行こうかな」

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