第16話 新たな魔法少女のスカウト展開
「全く。周りのレベルどころか貴族のレベルも高くは無い⋯⋯違う国の学園に行けば良かったわ。お金無いけど」
溜息と愚痴を吐き出すのはアナのクラスメイトであり性格のせいでボッチとなった水色の髪が特徴の女の子。
切る時間が勿体無いのか髪の毛はかなり長い。
名前は『ルー』である。
「帰ったら魔法の練習をしないと」
最短距離で家に帰るため、路地裏を通る。
人気が無く、いつもなら特に脅威は無い。
しかし、今日ばかりは違った。
「
「⋯⋯ッ! 誰!」
「我が名はハンサム! ヤベーゾの新兵怪人なり!」
「⋯⋯最近巷を騒がせている頭のおかしい連中の事ね」
物影からにゅるりと現れた怪人ハンサム。
その身体は二足歩行で人型のトカゲ。しかし顔は犬のハスキーに近い。
武器にマチェットナイフを所持している。
「見た目は魔族ね。それも雑種。汚らわしい」
「魔族⋯⋯か。近いかもな」
「え?」
「今のは忘れろ。さもなくば手加減はできん」
切っ先を向けられ、自分の命が狙われているのを確信する。
狙われている理由は全く無いが、敵意を向けられたなら戦うのみ。
「ワタクシ相手に手加減は考えない方が良いわよ。杖が無くとも⋯⋯王国騎士レベルのマナ制御が可能ですもの」
「王国騎士にも位がある。お前はその中でも下位だ。吾輩には⋯⋯勝てんッ!」
「良いわよ。吠え面を見せてもらうわね!」
氷系魔法を得意とするのか、氷柱を形成してハンサムに放った。
(ガード、回避。どっちにしろ二撃目を当てる)
今度は氷柱の数を増やして次の攻撃の準備をする。
最初の氷柱はハンサムに命中した。
(刺さっ⋯⋯え?)
氷柱は砕けた。
破壊されたのか。防御されたのか。
答えは単純。無抵抗だ。
「この程度か。弱い。弱過ぎる」
「嘘、でしょ。⋯⋯ワタクシの魔法はコロガルアルマジロの甲羅ですら貫通するのよ!」
「弱小の魔獣を倒せる強さと言うだけで他よりも自分が優れていると思っていたのか?」
ハンサムは一瞬で距離をゼロにした。
(嘘! ちゃんと見てたのに⋯⋯分からなかった)
ハンサムの手加減パンチがルーの腹を襲った。
氷の魔法で盾を作るが間に合わない。
念動力も収束力も足りない。
元となるマナが集まらなければ魔法力があろうと意味は無い。
防御が間に合わず、強い衝撃と痛みが腹部に広がる。
「がはっ」
「おっと」
逆流した唾液を吐き出しながら宙を滑る。
ドンっと地面に強く当たり、数回転がる。
「ゴホゴホ」
視界がグワングワンと揺れて上手くハンサムを捉える事ができない。
「ワタクシは⋯⋯負けませんわ」
マナを集める事が上手くできない。意識がハッキリしないから冷静になれない。
マナの制御には思考力が必要となる。
「終わりのようだな」
ハンサムはルーに向かってマチェットナイフを振りかぶる。
「シャー!」
「む?」
葉っぱが背中に生えた犬が現れた。
威嚇によりハンサムの意識が一瞬そちらに向かう。
「爆発ドーン!」
「おっと」
ハンサムを狙って爆撃魔法が上空より落ちて来て、瞬時に回避した。
ルーを護るように立つ少女の背中を、クリアになって来た視界で収めた。
炎のように紅く、希望のように輝かしい光を纏う少女。
初めて会うのに、少女の背中からは安心感が感じられた。
「たす⋯⋯けて」
だからだろう。
プライドも全て捨てて助けを求めた。
「勿論です。私が護ります。それが私、魔法少女ジャベリンの使命だから!」
「まほう⋯⋯しょーじょ?」
「クハハ。現れたな魔法少女! 今日こそが貴様の命日だ!」
ハンサムが本気で地面を蹴り、ジャベリンに接近する。
「切断!」
「お断りよ!」
数年前にアップデートされたステッキの新機能『伸縮』を利用して長い杖にする。
マナを杖に纏わせて耐久力を上げ、マチェットナイフを防ぐ。
衝突時に発生する風圧で手加減されたパンチだったと自覚する。
(ワタクシ相手に⋯⋯どれほど手加減していたと言うの⋯⋯それに、あの馬鹿力に耐えるなんて)
ジャベリンはマナを2つの魔法にしている。
一つは身体強化。身体能力を常に上げている。
もう一つが耐久強化。ステッキの耐久力を向上させている。
「せい!」
「おっと」
ハンサムを弾き飛ばし、ステッキのサイズを元に戻す。
「ヤベーゾ。女の子を狙うなんて許せない」
「クハハ! だからどうした!」
「私がアナタを倒します」
「やれるモノならやってみろ!」
互いに接近して、振り下ろされるマチェットナイフを後ろ蹴りで弾く。
「何っ!」
テコンドーの後ろ蹴り。
集めれるだけマナを足に収束させる事で全身の身体強化よりもキックの威力を上げられる。
最大限強化した一撃で相手の体勢を崩した。
「素晴らしい技術だ」
「セーギさんはもっと強いけどね」
ステッキの先端をハンサムに押し付ける。
「必殺【チャック・ダン】小規模バージョン」
「ぐああああああ!」
爆炎に包まれたハンサムは身を焦がし、姿を消した。
くるりと回転して、倒れているルーに手を伸ばす。
太陽のように眩しい笑顔と共に。
「大丈夫?」
「す、凄い」
「え?」
「わ、ワタクシの魔法でも傷一つ付かなかったのに」
「ありがとう。ちっさい頃から訓練してるからね」
「そ、それならワタクシもそうですよ」
素直に伸ばされた手を取って、立ち上がる。
ルーは勇気を振り絞り、ジャベリンに質問する。
「貴女みたいに、ワタクシも強くなれるでしょうか?」
「なれるよ。絶対に」
「⋯⋯ッ! はい! ありがとうございます!」
「じゃあね。私はコレで!」
ジャベリンは足裏を爆破させて大ジャンプを駆使して姿を消した。
手に残る温もりと高鳴り落ち着きのない心臓を感じながら、帰路に着いた。
(魔法少女)
その言葉が頭から離れない。
自分を護ってくれた強く頼もしい背中が忘れられない。
家に着く。
ドアを開けた瞬間に感じるのは男女が交わった時に発生する鼻を摘みたくなる悪臭。
部屋は体液と道具、惣菜のゴミなので常に散らかっている。
その、はずだった。
「え?」
ドアを開けた瞬間に感じたのは芳醇なバラの香り、部屋は新品のように綺麗だった。
毎日母親が男を連れて汚すため掃除を諦めた部屋がピカピカだったのだ。
驚きのあまり立ち尽くす。
「勝手ながら掃除させて貰った」
「誰ッ!」
部屋の正面には見た事のない高級そうな木製の机と椅子が置かれ、紅茶を嗜む純白のオーバーコートに身を包んだ男がいた。
「我が名はセーギ。魔法少女を集め悪の組織ヤベーゾと死闘を繰り広げている、スゲーゾの創設者であり魔法少女の指導者だ」
「魔法少女!」
その言葉は胸を高鳴らせる。
「ルーよ」
「ワタクシの名前⋯⋯」
「魔法少女になる気は無いか? 弱きを護り強きを挫く正義のヒロイン。他者を護る志が己を更なる高みへと押し上げる。コレは任意だ。受け取るも、受け取らぬも君次第」
「教えてください。スゲーゾ、ヤベーゾ。アナタ達は何なのですか?」
「世界の真実を知る時、帰還の扉は閉ざされる」
真実を知れば戻る選択肢は無い。
つまり、今この場で魔法少女としての道を決めれば知れると言う事だ。
数年前から頭角を現した両組織。
片方には命を狙われ、片方には護られた。
セーギが差し出した先端が氷マークのステッキ。
受け取り魔法少女となり真実を知るか、受け取らずに何も知らずに生きるか。
「何も知らずに学園生活を送り、平和と言う幻に囚われ生き続けるか。真実を知り理不尽の現実に抗う道を選ぶか。選択権は君にある」
「ワタクシは⋯⋯」
ルーの母親は毎日顔の違う男を連れて来る。
父親は他の女の家で寝泊まりしている。
現状維持を続けるか。
魔法少女として世界の真実を知り、新たな茨の道を進むか。
誰かを護る強い意志はルーには無い。
しかし、強くなりたい意志は強かった。
「なります。ワタクシは、魔法少女に!」
「その覚悟しかと受け入れた。先輩との顔合わせだ。明日、この場所に指定した時間に来るが良い。その時、魔法少女としての使命を授ける」
「うっ」
窓が閉まっていると言うのに突風が室内に起こり、顔を腕で隠した。
収まった時にはセーギの姿は在らず、残ったのは1枚の紙だった。
住所と指定した時間。
「魔法少女。ワタクシが⋯⋯あの人のように⋯⋯」
どんなにカッコイイ人なのだろうかと、想像しながら今日を終える。
翌日、助けてくれた人と思われる少女と顔を見合わせた。
そして絶句する。
「あ。昨日の子だ。昨日は大丈夫だった?」
「同じ制服⋯⋯それどころか⋯⋯クラスメイトッ!」
「そうだよ! 覚えてくれたの! 嬉しい! 私はアナ。よろしくねルーちゃん」
「そんな⋯⋯嘘」
自分とは正反対で苦手のタイプであるアナが、憧れを抱いていた魔法少女の正体だった。
憧れとは⋯⋯まやかしである
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます