第14話 アナの精神的成長
ステッキの通信で僕はアナに呼び出されていた。
彼女からの誘いは珍しく、サシャが行かせてくれなくて大変だった。
「君からの呼び出しとは何かね?」
「はい。実はお願いがあります」
「お願い? 聞き入れてあげたいが、できない事もあるよ」
特に魔法少女の戦いには絶対に参加しない。そう決めている。
もしもその時に何をしているのかと聞かれても言い訳ができるよう、いくつか用意してある。
さぁ。どんな要件か言いたまえ!
「私を⋯⋯強くしてください!」
勇気を出して叫んだ言葉は拍子抜けする程にあっさりとした内容だった。
強くしてください⋯⋯か。
「僕は君にきちんと修行をつけているつもりだが?」
もちろん、魔法少女としての成長を促すようにはしてある。
敢えて、訓練で手を抜いて本番の戦闘の中で大きく成長させる。
ピンチをチャンスに。そのための訓練だ。
しかも必殺技まで考えたんだ。
これ以上どうしろと言うのだ?
「私、前の戦いで思い知ったんです。凄く弱いって」
「だが勝てたでは無いか。⋯⋯えーと、アルマジロに」
「はい。ですが⋯⋯それはたまたまです」
謙遜だな。サシャと同じで謙遜するタイプだ。
あれは偶然では無くアナが考えて工夫した結果だ。
「あの時に一緒に居た、サイン⋯⋯ヤベーゾの幹部。あの人には絶対に勝てない」
「だろうな」
「え?」
「あ⋯⋯あ、相手は悪の組織だ。強いに決まっている。強者は驕り侮る。弱者を見下し面倒事は避ける⋯⋯つまり、アナを見逃したと言う事は取るに足らない弱者だと思ったからだろう」
咄嗟に出た言い訳だが、真剣な表情でステッキを見つめているのでセーフだろう。
幼い頃から本気で僕流の訓練をした彼女は相当な強さだ。特に対人戦においてはかなり強いと思われる。
僕の前世で培った武術やマナの操る技術を教える練習ついでに叩き込んだからね。
訓練の質と量、そして才能が段違いだ。
今のアナでは逆立ちしてもサシャには勝てない。
「はい。その通りだと、思います。それが悔しくて⋯⋯それに、あの硬さを突破する火力を出せない現状じゃ⋯⋯この先の戦いで家族を護れない。きっとヤベーゾはもっと強い怪人や怪獣を沢山国内に放つ⋯⋯護り切れないんです。今のままじゃ」
ポツポツと床に水滴が零れる。
それが何か、見ずとも理解できるだろう。
己の限界へと当たった戦闘者には、あるあるだ。
自分の実力が周りから大きく離された時の悔しさ。
自分は何もできない。自分では相手には勝てない。そう思ってしまった。
アナはサインと言う絶対的な強者と出逢い、自分の爆撃では倒せない強さを持った魔獣と戦った。
今は心が折れる1歩手前。挫折しそうな段階か。
まだ子供だと言うのに、大きな壁にぶつかってしまったようだ。
このままダラダラと修行して、良い感じの年齢になったら大きく成長させる機会を作ろうかと考えていた。
でも、彼女にはそれが遅いと感じている。それだけではダメだと考えている。
精神的に大きく成長しているのだ。
ならば僕はどうするか?
魔法少女を作り上げる夢を持ち、彼女にそれ相応の素質を見出した僕のやる事。
簡単だ。
「良かろう。次の段階へと訓練のステージを移行する」
強くしてあげよう。
彼女がそれを望むなら、手を貸すのが指導者的指揮官的なセーギの役目だ。
モチベーションが高い今、訓練するのが1番効果的でもあるしな。
「ありがとうございます!」
「何。感謝は必要無いさ。戦うのは君なんだ。今後もヤベーゾの侵略は続くだろう。その都度君が倒さないといけない。そのための力を伸ばすぞ」
「はい!」
「火力不足と言っていたね。火力を手っ取り早く上げるなら収束力を伸ばすのが早い」
マナの三原力の一つ収束力。
マナを集める力を指すのだが、この力を伸ばす事が1番火力を上げられる。
単純な話だ。
火を大きくしたいなら大量の燃料をぶち込めば良い。
「マナを集めるには結局念動力も伸ばさないとダメじゃ無いですか? それに集めたマナを具現化する魔法力も⋯⋯うぅ。だからマナの基礎って呼ばれてるんだ」
「確かに、最大限に威力を上げたいなら全てに力を注ぐべきだろう。だが、今は収束力だけに絞る。⋯⋯そもそも先の戦いで君の念動力は高水準だと判明した。だからこそ集めるんだ。火力を伸ばすには燃料が必要だ」
「は、はい! ⋯⋯と言うか、見ていたんですか?」
ぺろぺろは常に魔法少女の近くに居るマスコット⋯⋯首輪には小型カメラも付けてある。
「僕は常に見守っているのだよ」
盗撮の真似事な気がするので、言い訳しておく。
アナは純粋な子なのでこれで誤魔化せる。
「収束力を上げるのは容易だ。掃除機を思い出せば良い」
「掃除機?」
「そうだ。周りのゴミを吸収するように、周囲のマナを吸収するんだ。一般的に考えられている収束力は周辺のマナを全て操り集める事だが⋯⋯上級者になると近くにあるマナだけを操り広範囲のマナを集めるんだ」
「なるほど。だから掃除機⋯⋯分かりました!」
「それと、集めたマナを一度に具現化するのは簡単だからね。気負う必要は無いよ」
「はい!」
この方法、実際は僕が編み出した方法なんだけどね。
だって本気で魔法を鍛えようと思ったら必要無い技術だもん。誰も考えない。
結局、戦闘用だったり強い魔法を使いたいなら操れるだけマナを操り、集めれるだけ集め、具現化できるだけ具現化する必要がある。
それにこの方法だと結局手元から放つ事しかできないので、空気中から魔法を放つ事ができない大きなデメリットがある。
相手の死角からの攻撃ができなかったり⋯⋯何よりカッコ良くするためのエフェクトが使えない。
『火力を伸ばす』この1点に関してはこの訓練方法で構わない。
いずれは集めたマナを操れるようにして、集めたマナを節約しながら魔法を使う方法も教えて行く。
集めたマナを一度に放出してしまったら、また集め直す必要がある。
戦闘中の隙となるので、節約は必要だ。
「ぐぬぬ。難しい⋯⋯」
魔法戦闘の基礎や他の訓練は折り合いを見て教えて行こう。
アナよ。僕は君を全力で鍛えると決めたよ。
「ん? もしかして笑ってますか? そんなに下手ですか?」
「そんな事思ってないよ。ただ、嬉しいと思っただけさ」
君がそこまで魔法少女としての自覚を持ち立ち振る舞ってくれる事に僕は感動している。
誰かを護るために強くなる事に真剣な君の志が僕は嬉しい。
「一段落したら格闘訓練もするよ」
「ええ! 魔法だけじゃないんですか?」
「当然だ。マナ制御で君よりも何十段も上の相手が敵に現れると、自分の操れるマナが無くなる。そうなれば魔法は使えないんだよ」
「た、確かに⋯⋯」
ま、そんな事フェニックスさんでもできないから気にする事無いけど。
教えるための理由としては上出来だろう。
それに、無いとは限らないからね。
「あ! でもあったとしてもステッキのマナが使える!」
「そうだね。それを身体強化に使えば魔法が使えない場所でも戦いやすい。格闘訓練は必要でしょ?」
「そうですね!」
「うんうん。⋯⋯あ、でも地味だからメインで使っちゃいけないよ?」
「え?」
「⋯⋯近接攻撃は近づかないとダメでしょ? 魔法戦が主流だからメインは魔法なの。それに近づけば勝てる可能性がある! って言う切り札? 懐刀? になるからね」
「なるほどです!」
こうして僕達の訓練は続き、その度にサシャは不機嫌オーラを出す事となった。
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