第12話 魔王と国王が頭を抱える共通の組織

 「ま、魔王様! 魔王様! 急遽お耳に入れたい事があります!」


 「なんだ?」


 魔王が趣味のイラストを描いていたら、ドアを強く開けて中に入って来る。

 その勢いはセールスに群がる主婦のようだった。


 「クルフィス王国に放ったコロガルアルマジロが少女に倒されたそうです!」


 「そうか」


 今侵略を考えている王国に宣戦布告も込めて適当に放った魔獣が倒されたと言う報告だった。

 魔王軍にとっては替えの利く雑魚に過ぎない。倒されても驚く事では無い。


 「少女か。魔獣と戦うとなると実年齢は違いそうだな。森人か山人と言った所か」


 分かりやすく言えば、森人はエルフ、山人はドワーフである。

 長寿であり背丈と中身の年齢が違う事なんてラノベ同様ザラにある。


 「そ、それが⋯⋯報告によると人間だそうです」


 「中には低身長の大人もいるだろう」


 「声の質や肌の質から暫定8歳との事です」


 「⋯⋯ふん。そうか」


 何かの間違いであると魔王は決めつけ、配下の報告を右から左へと聞き流す。

 真剣そうな顔をしながらも話を聞いていない魔王に律儀に報告は続く。


 「その少女は魔法少女と名乗っており⋯⋯スゲーゾと言う組織の構成員との事です」


 「そうかそうか。魔法少女⋯⋯スゲーゾ。⋯⋯は? 聞き間違えか? もう一度頼む」


 聞き流そうとしたが、気になる単語が聞こえて意識を向ける。


 「その者は魔法少女ジャベリンと名乗っているそうです。ソイツが所属していると思われる組織がスゲーゾ、だそうです」


 「ブホッ」


 吹いた。

 情報処理が間に合わずに吹いてしまったらしい。


 「魔法少女だと? 正気か?」


 「そ、そのようです」


 「良くもまぁ恥ずかしげもなくそんな事を言える⋯⋯そもそもなんだ『スゲーゾ』ってスゲー適当な名前だな。ネーミングセンス皆無だろ」


 「ま、魔王様?」


 「気にするな。報告はそれだけか? ただの魔獣1匹だ。気にする事はない」


 「そ、それがまだありまして⋯⋯」


 「なんだと?」


 魔王は今度は真剣に話を聞く姿勢を取る。

 次に飛び込んで来る報告の衝撃は劣るだろうと考えながら。


 「コロガルアルマジロが魔法少女と戦う前に1度戦闘しておりました」


 「ふむ」


 「その戦いで瀕死の重症を負わされていたそうです」


 「は? 戦闘を詳しく教えよ」


 魔王は魔法少女の前にも同い年くらいの女の子と戦った報告を受けた。

 その際に拷問のように同じ内容を呟かれながら、殺さない程度の打撃を自慢の防御力を貫通させ一定の間隔で刻まれたらしい。


 強さが変動しない打撃が淡々と身を削る恐怖は計り知れないだろう。言葉の通じない機械を相手しているのと変わらないからだ。

 倒せるレベルまで痛めつけたのに倒さず、魔法少女と戦わせた。

 魔法少女の力では防御力を貫通できず、内部から倒した。


 「魔法少女よりも強い存在が魔獣と戦った⋯⋯なのに倒さなかったのか?」


 「はい。⋯⋯それと何故か魔獣を放ったのがその少女の仕業にされています」


 「⋯⋯ほう?」


 「報告によれば、王国に襲って来た魔獣は悪の組織ヤベーゾの仕業とされているらしいです」


 「ブホッ」


 再び吹いた。

 流石に心配になった隣に立つ秘書の魔族が顔を覗き込む。

 身体を前に軽く倒すだけで垂れる大きな果実に視線は向かいながらも、手で大丈夫だと伝える。


 「悪の組織て⋯⋯しかもヤベーゾだと?」


 「ま、魔王様⋯⋯」


 この場の全員は魔王から放たれるマナの波動で怒っていると感じる。

 第1婦人であり秘書でもある武闘派魔族ですら震え上がる程の濃密なマナの力。


 (この雑な名前とネーミングセンス。スゲーゾと違いが無さすぎる! 悪の組織ならもっとあっただろ!)


 だが、その波動は怒りでは無く混乱から来るモノだった。


 溜息を出しながら最後の報告を受ける。


 「コロガルアルマジロ討伐に出て来た騎士団をヤベーゾ所属と思われる、暫定になりますが同い年の少年が足止めしていたらしいです」


 「魔獣をボコったり騎士を足止めするだけして魔法少女に手柄を譲る⋯⋯ヤベー奴らだな」


 「如何なさいますか、魔王様アナタ


 「決まっている。どんな相手だろうと我らの邪魔をすると言うのならば敵。狩人を放て。危険の種は早期に摘むのみよ」


 「仰せのままに」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「陛下。如何致しましょうか」


 「今考えている」


 国王は受け取った報告に頭を悩ませていた。

 突如として国に向かって転がって来る魔獣。

 騎士団を投入したが何者かの妨害を受けてしまい魔獣討伐は不可能になった。


 ⋯⋯しかし、国への被害は無い。

 その理由は魔獣を討伐する者が現れたからだ。


 「魔獣を倒してくれたのが探索者や狩人など、戦闘を得意とする職業に就く者なら問題は無いのだがな」


 報告によれば魔獣を倒したのは、最近国内で暴れているロボットを退治している魔法少女だと言う事だ。

 素性の分からない得体も知れない少女が倒してしまっている。

 感謝も何もできない。


 「国としての信頼が失われる状況にならなければ良いが⋯⋯早急に対処しなければ」


 「何者なのでしょうか。魔法少女とは⋯⋯それに怪人と名乗るヤベーゾ」


 「いきなりの状況でまだ情報が精査できん」


 突如として現れた怪人を名乗るロボット、それに対抗する勢力である魔法少女。

 どちらも素性が把握できない面々だ。


 「魔獣を倒してくれた、国内に現れた怪人に対して、何故か被害が拡大する前に倒してくれた魔法少女。彼女を味方と見るべきか⋯⋯」


 「その判断は早計かと。タイミングと言い、全てが仕組まれた事かも知れませんからね」


 「分かっている」


 怪人が現れる度に何故か、素早く対応できる魔法少女。

 それと同時に怪人討伐に出た騎士達を妨害する輩も現れる。

 まるで全てが仕組まれたかのような流れが続いている。


 「国民は見えるモノを強く信じる⋯⋯国内の脅威を排除し続ければ魔法少女の信頼度が王国騎士を超える⋯⋯国の運営に関わる」


 「頭の痛い話ですね」


 「認識阻害が無ければすぐにでも特定しているところだ。秘密主義なのか中々尻尾が掴めない⋯⋯何者かに邪魔もされていると報告を受けている」


 「それでも今はスゲーゾとヤベーゾ、突如として出現した両組織の調査が重要ですね。魔法少女への接触が可能なら、早急に対処できるよう通達しておきます」


 「頼む」


 こうして王国は両組織の対応に追われる事となる。

 しかし、まだまだ始まったばかりである。

 物語で言えばプロローグに過ぎないのだ。

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