第11話 悪の幹部は露出癖がある
私は騒ぎを聞きつけてすぐさま外へと向かった。
騎士団の到着が遅れているようで、国が危険に晒されているからだ。
セーギさんは相変わらず騒がしい場所にいるようだった。
「ようやく来たのですね魔法少女ジャベリン」
コロガルアルマジロの上に座している女の子を発見する。
コロガルアルマジロは何故かボコボコの状態だが、その敵意を紛れも無く私に向かっていた。
「誰!」
「誰? そうね。初めましてね。私はサイン。ヤベーゾの統括幹部を任されている身故、また会うでしょう」
そう言いながら私を見下ろすその子の格好に目を見開いた。
誰がどう見ても2度見してしまう見た目をしている。
2度見、では済まないかもしれない。
「は、ハレンチ!」
「え? いや。る⋯⋯アーク様は幹部怪人はエロい格好をするのが
「え、良いの!?」
サインと名乗った女の子⋯⋯認識阻害のせいで上手く姿は捉えられないが声的に女の子。
その格好はとてもえちえちであり、下乳から鼠径部の上部分が見える位置まで生肌が露出している。
しかもミニスカにハイヒール!
脇や肩、腕は普通に出しているのに料理用のようにピチピチの黒手袋をしている。
膝下まで覆う黒のソックスに左太ももには武器である鞭を担ぐためのベルトを装備している。
でも、言わせて欲しい。
「露出狂!」
「違うわ!」
「と言うか⋯⋯体格的に同い年に見えるのに大きいね」
「ふぅ⋯⋯恥ずかしい格好をしているのは貴女も同じでしょう?」
落ち着いてから私に軽蔑の眼差しを向けながら吐き捨てる。
「ッ! 違うもん!」
「ふっ」
私は全力で否定する。鼻で笑われた。
あの人よりかは露出度低めなので違う!
そもそもこれはマナの制御を向上させたりオートで身体能力の強化がされたり丈夫だったりと色々と便利な機能があるから仕方なく着ているのであって、決して自ら望んでこの服を着ている訳では無い。
ほぼ全裸と変わらない格好のサインの髪型はサイドテール。銀色の髪にルビーのようなキラキラとした赤い瞳をしている。
しかし、瞳に関しては少しボヤけるので認識阻害が働いているのだろう。
何より目を引くのは綺麗なボディ⋯⋯では無くて、鬼の口を模したマスクだろう。
口元を隠す目的か、それ以外か。
端正な顔立ちには不釣り合いなマスクだ。
「今日は顔合わせ。後はこの怪獣のプレゼント」
「怪獣? 怪人とは違うの!」
「魔族と魔獣の違いよ。人型か獣型か。先程手懐けたペット、大切に扱いなさい」
「あ、待て!」
サインはコロガルアルマジロから飛び降り、私に背を向けて去って行く。
「待ちなさい! ヤベーゾ、貴女達の目的は何なの!」
「⋯⋯理不尽で淀んだ世界を壊し、新たな秩序を確立する事。精々踊りなさい。
酷く荒んだ、闇に呑まれた真っ黒な瞳で一瞥されて背を向けられる。
それでも私は怯まず言葉を紡ぐ。
「待て!」
追いかけようとしてもコロガルアルマジロが邪魔をする。
魔王軍の魔獣って話だった気がするけど、本当はヤベーゾがそう見立てた怪獣だったなんて。
「良いわそれでも。私は魔法少女としての使命を全うする!」
「タオスタオスタオスタオスタオスタオス」
「強くなりなさい。魔法少女」
言いたい事を言い終えたように、サインはその姿を完全に消した。
謎が深まるヤベーゾと言う組織。セーギさんはどこまで知っているのだろう。
それに、私が所属している事になっている組織スゲーゾの目的や標的は?
分からない事だらけ。
でも今は、悩んでいる暇は無い。
「倒れろおおおお!」
周囲の魔力を集めて1点に収束し、具現化して爆破する。
しかし、コロガルアルマジロの甲羅は頑丈で私の攻撃では傷一つ付かない。
「この絶望感⋯⋯でも諦めないって決めたから。私は戦うんだ」
護るために!
風に流され左右の髪が前に出る。髪先から赤く染まっている。
心が跳ねるように心臓が鼓動する。
思考がクリアになり、強くマナを感じる。
「行くよ!」
「タオスタオスタオスタオスタオスタオスタオス」
コロガルアルマジロの背中は硬くてダメージを与えられない。
ならば曲がるために柔らかいお腹ならどうだ?
「加速っ!」
足裏を爆破させ急加速。相手の懐に潜り込みステッキを突き付ける。
ダッシュの最中にマナをできる限りステッキに集めた。
それを真っ直ぐに解放する。
「吹き飛べえええええ!」
ズドン、と爆発が起こりコロガルアルマジロを打ち上げた。
倒すには至らない。もう一度魔法をぶつける。
「しまっ!」
しかし、その隙を与えないようにコロガルアルマジロが丸まり落下して来る。
あの甲羅は砕けない。しかもマナで自分をコーティングしているから余計にだ。
落下の勢いも相まって吹き飛ばす事もできないだろう。
「回避一択」
即座に判断を下し行動の選択を終える。
再度足裏を爆破させて軌道から外れる。
だが⋯⋯敵は私の想定を軽々と飛び越えて来る。
「なんでっ!」
空中だと言うのに急カーブして私に一直線でやって来る。
一体どうやったらそうなるのか、理解ができない。
だけど、動かないと待っているのは質量によるプレス攻撃だ。
「ぬおおおおお!」
死に物狂いで回避する。
地面にクレーターができる火力があり、衝撃波で軽い私は簡単に地面を転がる。
「ゴホゴホ」
目に土が入った。マナでの防御が間に合わなかったか。
すぐに土を追い出して敵を睨む。
魔法少女衣装のおかげでダメージは薄く、痛みも僅かだ。
「タオスタオスタオスタオス」
このままでは負けてしまう。
皆を護れない。
何か、何か無いのか?
今の私の火力ではコロガルアルマジロを倒せない。
必殺技を放つ?
ダメだ。あれは広範囲や数相手に使う技だからコロガルアルマジロの防御力は突破できない。
セーギさんに1点火力の破壊力の高い技を教わる必要があるな。
今は自分でできる事の中から倒す方法を考えろ。
「どこか柔らかい部分があれば⋯⋯」
「タオス」
「そこだ!」
私は口に人差し指を向けた。
体内なら⋯⋯1番柔らかい。
相手に食われたマナは取り込まれ自分の制御から外れる。
だから、取り込まれる前の一瞬。1秒にも満たないタイミングで爆発させる。
「全力で溜める」
要領は広範囲爆撃の必殺技【チャック・ダン】だ。
広範囲からマナを集め、ステッキに集中させる。
爆発元となる球体を顕現させ、タイミングを見て口の中に放り込む。
「タオス!」
転がる突進攻撃。
チャンスがやって来た。
「はぁ!」
私は再度死に物狂いで逃げ回り攻撃が終わるのを待つ。
急カーブがあったりとギリギリだったが、何とか回避に成功した。
攻撃が終わればコロガルアルマジロは確実に元の形に戻る。
そして⋯⋯。
「タオスタオスタオスタオス」
「今だ!」
呪文のように唱えている「タオス」の時。
口を何回も広く今がチャンス。
「行っけぇぇえええ!」
口の中に爆弾を放ち入れ、マナの制御が消える前に巨大な爆発を起こす。
ありえないくらいに、プクリと膨らんだコロガルアルマジロは刹那のタイミングで大爆発を起こした。
「うっ」
かなりの風圧が起こる。腕で顔を守る。
収まった時には、コロガルアルマジロの姿は無かった。
「何とか、勝った。やっぱり私は弱いな。工夫しないと、勝てないや」
悔しい。
勝っても、晴れ晴れとした気持ちにはならない。
「⋯⋯あそこに向かえ!」
「騎士の声? 不味い。この格好とか色々と見つかるのはダメだ。セーギさんも言ってたし⋯⋯ごめんなさい。逃げます」
私は国内に逃げながら【変身】を解いて施設に帰った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「良いね良いね! 工夫して強敵を倒す。正義の主人公には必要な力だ。おっと、ヒロインだったな」
僕は魔法少女ジャベリンの活躍にニンマリとしていた。
当然だろう。
望むような展開になったのだ。
魔法少女としての自覚が着々と芽生え始めている子の活躍は手に汗握ると言うものだ。
「やっぱり、純粋火力で突破できないなら工夫あるのみだよね! 良いよ最高!」
「ご満悦のようで何よりですルーシャ様」
ストレートロングの銀髪に碧眼。
メイド服に身を包み露出度高めの服を着ていたとは思えない凛々しさと防御力のあるサシャがお茶を入れながら声をかけて来る。
「サシャにも感謝している。良い感じにリサイクルしてくれた」
「恐悦至極です。ルーシャ様に命じらればこの程度、造作もございません」
「そう? 中々に困難なミッションだと思うけど」
「いえいえ。ルーシャ様の騎士団の足止めと比べれば、小さな事です」
「そうかな? 彼らは対人戦に弱いからね。サシャでも余裕だったと思うよ」
サシャは謙遜する癖があるよね。
絶対に凄い事をしているのに。このままでは僕の常識が無くなりそうだ。
常識と言えば。
「サシャって露出癖があったんだね」
ガタッと珍しくサシャがお茶を零す。
「な、なななぜ?」
全身で震え、青ざめた表情で理由を求める。
「だって⋯⋯こんな羞恥の塊の服を堂々と着てるから。⋯⋯コスプレならともかく」
「⋯⋯ち、違いますよ? あれは性癖では無くてですね。断じて違いますからね!」
おいおい。
親にエロ本が見つかった少年のような語彙力で必死に否定する。
健気だ。
僕は親心を持って優しく言葉を出す。
「安心しろサシャ。僕はどんな性癖を持っていようと君を否定しないから」
「違います! 漫画で幹部は何故か露出度が高めの服が多いので! ⋯⋯ルーシャ様の好みなのかと」
「大好物の1つだが?」
重要な事なので語気を強めて言う。
悪の幹部の布面積の少ない格好は大半のオタクは好きだ。
僕は思い出す。キャラ設定の最中に雑に『強い奴は肌を見せたがる! エロ即ち魅力だ!』とか言っていた気がする。
⋯⋯やっちまったな、僕。
「⋯⋯ごめん。こう言う服はもう少し大きくなってからな」
サシャは自身の胸を触る。
「おっ⋯⋯」
「身長もね」
「はい」
気まずい空気が流れた。
「サシャ。何かご褒美をあげよう。何が良い?」
「⋯⋯では、遠慮無く」
カップを置いて、手を拭いてから僕を横に倒し、もたれ掛かるようにサシャが寝転ぶ。
かなりの密着具合だ。匂いが分かるくらいに近い。
「これでご褒美になるの?」
「はい。ルーシャ様の心臓音は安心感を与えてくれます」
「この程度で喜んでくれるならいつでもやってあげるよ」
「⋯⋯はい。ありがとうございます」
サシャの頭を撫でながら、僕は寝息を立てた。
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