第10話 たとえ悪人だろうと護るのが魔法少女だよね!

 「最高かよ! 窮地の中覚悟を決めて立ち上がる! 赤くなった演出は想定外だが感情が高ぶった時限定なら寧ろ良し! 良い展開で眼福耳福うひゃひゃひゃ」


 「ムゥ」


 ベッタリと片頬を膨らませたサシャが抱き着いて来る。

 しかしそれが気にならないくらいに僕はジャベリンの戦いに胸を踊ろらせていた。

 ぺろぺろに「ジャベリンにやる気を出させて」と言ったらあんなに良い演技するなんて。

 今度ジャーキーを奢ってあげよう。


 「だが魔法少女の根本の完成にはあと一押し足りない。次に悪人の対処をどうするか確認しなくては」


 「あの小娘ばかりに構うのですね」


 「サシャには期待している。いずれ手を貸してもらうさ」


 「期待⋯⋯うん。分かりました。ご期待に応えられるよう最善を尽くします」


 「うん。張り切りすぎないでね」


 「え?」


 君が張り切り過ぎるととんでもない事になりそうだからさ。


 そして僕達は新たな怪人を作り出した。ロボットだけどね今回も。

 怪人らしい怪人を作る力や知識、技術がない。

 そして今回の怪人は『カズダケ』だ。


 人型のロボットで量産型にしてある。ぶっちゃけ強くないけど数はある。


 「後はぺろぺろにアナを誘導して貰い、頃合を見計らい襲撃だ。悪徳貴族よ、魔法少女のための礎となるが良い!」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「まさかこんな事になるなんて」


 初めて魔法少女とした戦った翌日、ぺろぺろさんの散歩中に怪人の集団に貴族が襲われた。

 都内の屋敷に住んでいる金持ち貴族だ。


 「貴方達は一体何なの!」


 セーギさんが何かを言っていた気がしたが、あの時の記憶は曖昧だ。

 焦りと不安で記憶が錯乱している。怪人って何なのよ本当に。


 「そこを退けジャベリン」


 「どうして私の名前を⋯⋯」


 そもそも何か声がセーギさんの様な⋯⋯。


 「加工忘れてた⋯⋯ごほん。我が同胞を負かした事、素直に褒めてやろう。しかし量産品を倒しただけで思い上がるのは許さぬ」


 やはり先日のロボットと同じか。

 いきなり声も変わったし⋯⋯一体何が目的なの?

 そもそも量産品と言われても昨日は一体、今回は複数だ。どっちが量産されているのやら。


 「貴様を盾にし後ろで子鹿のように震えているのは、国家転覆を狙う極悪人だ。この屋敷の地下には空爆用兵器になる飛空戦闘艦がある」


 「何故それを!」


 後ろの貴族が目の前のロボに向かって吠える。合っているらしい。

 極悪人⋯⋯国家転覆⋯⋯。


 「た、助けてくれ。か、金ならいくらでも出すから!」


 「この国を滅ぼそうとする者だ。退くが良い」


 私はどちらの味方をしたら良いのだろうか?

 昨日街中を壊し暴れたロボットの仲間と国家転覆を企てる貴族。

 どっちも良くない事をしている。私から見ればどちらも悪だ。


 「貴方はこの人をどうするつもりですか?」


 「質問せぬと分かるぬか?」


 そう言いながら武器の銃口を貴族に向ける。

 そこまでされれば嫌でも理解させられる。


 この国を脅かすと言う事は、家族を脅かす事に繋がる。

 そんな貴族がのさばって良いのだろうか?

 家族が危険になる前に⋯⋯こんな貴族が居なくなれば⋯⋯。


 「ッ!」


 私はこのタイミングでセーギさんの言葉を思い出した。

 魔法少女、スゲーゾの教え。


 「魔法少女の教訓、一つ、たとえ悪だろうと命を粗末に考えてはならない! この貴族がどんなに悪人だろうと、命を狙うなら私が護る。それが魔法少女だ!」


 「我々の命はどうでも良いのか?」


 「それは⋯⋯確かに⋯⋯」


 「命に優劣は付けられない」


 「そうだね。でも、命を狙う人達を野ざらしにはできない。退くなら追わない。戦うなら⋯⋯容赦はできない」


 「やっぱ魔法しょ⋯⋯ごほんごほん。この数相手にどうするつもりだ?」


 相手の数が多い時の必殺技を既に授けれている。

 セーギさんが私に授けてくれた必殺技は2つ。1つ目が一撃で広範囲に大ダメージを与える魔法。

 しかし、今回は近くに人がいるので使えない。


 「必殺!」


 だから2つ目、個々を確実に撃破する魔法を使う。

 複数人相手でも問題無い。


 「え、ちょ。それは流石に早い。普通はピンチになってから逆転のために⋯⋯」


 「【ズドドド・ダン】」


 連射タイプの爆撃魔法。これでカズダケを殲滅する。

 一体一体は大した強さは無く、簡単に倒せた。同時に屋敷も木っ端微塵だ。

 悪い人には良い罰だろう。


 「これ以上の悪行を重ねると言うなら、私の魔法が次は貴方に向かう。忘れないでください」


 「は、はひぃ」


 頭を抱えて地に伏した。

 情けない姿と思いながら、私は変身解除の場所を探す。


 ⋯⋯これで良いんだよねセーギさん。

 人は心があるから反省できる。でもロボットは心が無いから反省できない。

 昨日の被害や将来的の被害を考えて⋯⋯言い訳か。


 魔法少女の矜恃⋯⋯詳しくは分からないけど、私にはまだ持てていない気がする。

 でもきっと私は⋯⋯前に進めているはずだ。


 「私は魔法少女に⋯⋯なれてるでしょうか。セーギさん」


 私の儚い言葉は風と共に掻き消され、どこかへ飛ばされた。

 この言葉は彼に届く事は無いだろう。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「すまないけどなれてなーい! お約束がっ! テンプレがっ! しっかりと教えるべきか? いや。お約束を知らないアナに疑問を抱かせてはダメか? ぐぬぬ」


 でも僕も悪かった。

 魔法少女に命の優劣を考える余地を与えてしまった。

 悪の組織は倒し、それ以外は護る、の精神を身に付けて欲しかっただけなのに。


 分かった事は最低限の強さは必要と言う事だ。

 必殺技はここぞって時に使うから輝くのであって、初っ端から使ってはただのゴリ押しだ。

 確かに、この世界は自分のマナを使う訳では無いから集中力が続く限り何回でも撃てるけどさぁ!


 「キラメキが無い! ドキドキが無い! ハラハラしない!」


 「ルーシャ様。お困りでしたらこのサシャが万事解決に⋯⋯」


 「それはダメ」


 「しょぼん」


 サシャが動いたら覚醒イベントか負けイベントになる。

 魔法少女の負けイベントは序盤でやる事じゃない。覚醒イベントも早すぎる。


 ⋯⋯さて、落ち着いたところで次の展開でも考えるか。


 「そろそろ巨大な怪人をぶつけたいな」


 「ザコヘイを改良して突撃させますか?」


 「いや。量産型とは言え指揮役が居ないのに再利用するのは味気ない。別の何かが欲しい」


 そう考えていると、緊急ニュースとして情報端末が強制的に切り替わる。

 この王国に向けて『コロガルアルマジロ』が転がって来ているらしい。

 魔獣であり、見た目はアルマジロを大きくした感じだ。


 「分かりやすく直進⋯⋯これは魔王軍の手の者ですね。忌々しい。私がぶち殺しに参ります」


 「コラコラ口が悪いよ。⋯⋯だけど都合の良いタイミングだ」


 僕は舌なめずりしながらニュースを見下ろす。


 「コイツ、怪獣って事にしよう」


 「と、言いますと?」


 「簡単だよ。僕は巨大怪獣が欲しい。そこに王国に敵意を持つ巨大生物が現れた。だから手に入れる」


 「しかし魔王軍の⋯⋯」


 嫌そうなサシャ。

 僕は必死に頭を回転させ説得する。


 「ヤベーゾは我が道を行く。我が組織の教えを忘れたか?」


 「いいえ」


 「教えの一つ、全てを我らの色に染めよ。魔王軍だろうが関係無い。欲しいと思ったら染め上げ使うだけだ。サシャよ、良く考えよ。忌むべき相手の力をこちらが再利用し使う⋯⋯愉快だとは思わないかい?」


 頼む頼む頼む頼む頼みます神様仏様サシャ様!


 「確かに⋯⋯それは愉快ですね」


 いっしゃあああああああ!


 おもむろに微笑むサシャの顔は正に悪の組織に相応しい双眸と笑みだった。

 彼女に任せれば大丈夫だろう。優秀だし。


 「それでは参ろうか、サイン。愉快な愉快なリサイクル作業の始まりだ」


 「御意。アーク様」


 僕達は二手に別れ、僕は魔獣退治にやって来た王国騎士団を妨害する。

 魔王軍の手下だと理解している王国はかなりの戦力を寄越して来ている。


 「⋯⋯また貴様かアークっ!」


 「ふはははは! 此度の余興も楽しむとしよう。この先のバトルの邪魔はさせん」


 悪役っぽい笑い方とセリフ⋯⋯最後はちょっと本音が出た。

 しかし、ザ、悪役って感じでカッコイイ。

 もしもこの姿が日本人に見られたら、死ねる自信があるけど。


 「邪魔をしてるのは貴様だろう!」


 「いーなっ! それは断じて否だ! 僕は魔法少女が輝ける舞台を邪魔されたくないだけだ。雑談はこの辺りにしようか。国を護る戦いに出たくば僕を倒してから行け!」


 「子供だからって手加減すると思うなよ! 今度こそは押し通る! 出撃!」


 「子供だと認識阻害の中で決めつけるとは⋯⋯それでも騎士か?」


 ま、実際に子供なんだけど。


 「痺れろ」


 僕は青い電撃で騎士達をビリビリさせる。

 この魔法が得意と言う訳では無く、電撃ってカッコイイよねって言う理由だ。

 青い電気⋯⋯実に良い。


 「さぁ。魔法少女の活躍をその目に焼き付けるが良い!」


 この役は誰かに渡したい。僕は生で魔法少女の活躍が見たいのに!

 騎士達がもっと弱ければ生で見られるのにっ!


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「止まりなさい薄汚い魔獣よ」


 「⋯⋯なんだ貴様は」


 コロガルアルマジロはとてつもなく濃密で膨大なマナをサシャのから感じて止まる。


 「貴様⋯⋯人間か?」


 「当然です。貴様らのようなゴミとは違う。喜べ。貴様を我らヤベーゾの下っ端に加える事が決まった」


 「何を申すかと思えばくだらぬ戯言よ」


 「従うよう調教するのが我が仕事⋯⋯せいぜい足掻きなさい」


 鬼の口のようなマスクの下からじゅるりと舌なめずりする音が聞こえた。

 刹那、硬い甲羅を砕く魔法の鎖がコロガルアルマジロを拘束した。


 「貴様⋯⋯これ程のマナを⋯⋯」


 「囀るな虫唾が走る」


 猿轡を魔法で装着させる。

 拘束と猿轡の二つの魔法を同時に扱い、武器である鞭を取り出してマナを集める。


 (三つに分割してマナを操るだと?! 実力者でありながらまだ子供だと! この国は一体⋯⋯どれだけ化け物がいると言うのだ)


 「私⋯⋯調教しつけは得意分野ですよ」


 うっとりとした瞳を垂らしながら、隠してる口で大きな笑みを浮かべた。

 コロガルアルマジロは地獄を経験する。ヤベーゾの色に染まるまで。

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