第9話 魔法少女初戦闘!本気の一撃、必殺技!

 「えい!」


 ザコヘイの肩部分を魔法で爆撃する。

 アナ⋯⋯魔法少女ジャベリンの得意な魔法は爆撃魔法である。


 「皆。早く避難して!」


 「だ、誰?」


 施設の人達から認識されない。ジャベリンとアナは別人として見られる。

 それが魔法少女のルール⋯⋯コスチュームの効果である。

 露出度が高く、変態と思われない事に感謝しつつも他人のように見られる事に悲しくも思う。


 だが、助けが来た事は事実。

 施設の人達は大急ぎで離れて行く。


 「良かった。少しは守れるよね。騎士の人達が来るまで粘らなくっちゃ」


 ジャベリンが決意を新たに魔法を展開する。

 同時にザコヘイは口の部分にマナを収束させ、レーザーを放った。

 たまたま、人の居ない場所が狙われたので命が亡くなる事は無い。


 しかし、遠距離攻撃が備わっている事をジャベリンが自覚して時間が無い事に気づく。

 長引けばそれだけ様々な攻撃をされる。

 逃げても遠距離攻撃の流れ弾が当たるかもしれない。


 そうなったら家族は守れない。


 「これが魔法少女の宿命と言うなら、私は戦ってやる。私が家族を守るんだ!」


 ジャベリンはザコヘイに魔法攻撃をぶつけながら接近する。

 遠距離では爆撃の火力が下がる。ロボットのザコヘイは硬く近づかないと倒せないと判断したのだ。


 「倒れろ!」


 訓練したとは言え稚拙なジャベリンの力ではザコヘイを倒せない。

 巨体から繰り出されるパンチを回避できずに吹き飛んでしまう。


 「がはっ」


 建造物を貫通しながら止まる。

 コスチュームの耐久力と咄嗟に展開したシールドにより致命傷は避けられた。

 しかし、ジャベリンに絶大なダメージをその一撃で与えていた。


 ゆっくりと迫り来るザコヘイ。


 「⋯⋯ッ!」


 全身を駆け巡る痛みが強烈な恐怖を植え付ける。

 恐怖の種は瞬く間に成長を遂げてしまう。

 恐怖の根が絡み付き動きを封じられてしまう。


 大きな一撃による精神的ダメージ。

 受けた一撃の恐ろしさがジャベリンの足を動かせなくしてしまった。


 「シャー!」


 ジャベリンの前に守るように立ち威嚇するぺろぺろ。

 ザコヘイは小物に意識を向ける事無く、ジャベリンに向かって行く。


 「どうして、ぺろぺろさん」


 たった数日しか過ごしていない。

 施設の皆と一緒にお世話をしただけの関係なのに、ぺろぺろはジャベリンのために立ち上がる。


 「私⋯⋯弱いな」


 悔しさ、幼い身体には耐えきれない悔しさが涙として溢れ出す。

 どれだけ覚悟を決めても、自分よりも強い相手、命を狙って来る相手からの威圧には耐えられない。


 「ワン!」


 「ダメ! ぺろぺろさんっ!」


 ぺろぺろはザコヘイに突撃し、呆気なく弾き飛ばされてしまう。

 どれだけ気合いを込めても⋯⋯マナを使わなければ敵は倒せない。


 力無く地面を転がるぺろぺろ。


 「そんな⋯⋯嘘」


 さらに刻まれる恐怖。

 死神の鎌を首に突き立てられる絶望に沈む。


 『立て、ジャベリン』


 「セーギ、さん。私には⋯⋯無理でした。魔法少女、できませんでした」


 『そんな事は無い。まだ立ち上がれるはずだ』


 「無理ですよ。だって、足が動かないんです。マナだって⋯⋯上手く操れない。私じゃ、勝てません。時間稼ぎも⋯⋯できません」


 悔しくて堪らない。

 泣きたくないのに涙が流れ、恐れたくなくても恐れてしまう。

 迫り来る『死』は女の子にとって酷な現実だ。


 「しゃ、シャー!」


 しかし、ここでぺろぺろが立ち上がる。

 どんなに絶望的状況でも諦めず立ち向かおうとする。


 『魔法少女はどんなに絶望的な状況だろうと立ち上がり、正義を持って敵を倒す。弱きを助け強きを挫く。己が護りたいと願うなら、己の力で叶えるのが魔法少女だ。君ならできる、君にしかできない』


 「私は。そんなに強くない」


 『強い。敵を見て、観察し可能性を導き出せ。家族を護るために魔獣の前に出た勇気を奮い起こせ。怯える必要は無い。敵は、倒せる相手だ!』


 「でも、私には⋯⋯」


 『問題無い。君なら護れる。君が倒さなくては更なる被害が出る。君にしか、できないんだ!』


 ジャベリンは押し潰さらそうだった。セーギからの期待に。

 どうしてそこまでの期待をしてくれるのか、分からずに混乱する。


 ジャベリンが沈む闇の中に子供の声が響く。


 「お姉ちゃんがんばれー!」


 「⋯⋯ッ!」


 それは護りたい、家族の声だった。


 「まけるな!」

 「たって!」


 「行けるよ!」

 「ファイトー!」


 「⋯⋯皆ッ!」


 護りたい家族がそこに居る。近くにいる。

 立ち上がる理由、戦う理由がここにある。


 (勇気を、奮い起こせ。皆を⋯⋯家族を護るんだ。護れる力は⋯⋯ここにある)


 地面を踏み、重い身体を起こす。


 「頑張れ!」


 「⋯⋯うん。頑張る」


 ジャベリンはステッキの先端をザコヘイに向ける。


 「私は魔法少女ジャベリン! 皆を護る正義のヒロインだ!」


 セーギに言われた事を思い出しながら口にし、自分を鼓舞する。

 跳ね上がる心臓に呼応するように髪と瞳が真っ赤に染まる。

 感情の高鳴りが全身に現れ、赤きオーラーを放つ。正しく、魔法少女の品格。


 「その通りだ!」


 そこに純白のローブを羽織った男が現れる。


 「セーギさん」


 「良く立ち上がった。ジャベリン。正義の組織スゲーゾの魔法少女として授けた必殺技を使う時だ」


 「で、でも⋯⋯あれは不安定で⋯⋯」


 「大丈夫だ。もしもの時は僕が何とかする!」


 「⋯⋯はいっ!」


 悪の組織ヤベーゾに対抗するために形だけ立ち上げた正義の組織スゲーゾ。

 セーギが必須だからと教えた技をジャベリンが土壇場で使う。


 (皆を護るんだ。それが魔法少女なんだ。それが私だ!)


 業火のように燃え盛る感情。

 その熱き気持ちを乗せ、マナを収束する。

 練習の時には出せなかったレベルの練度でマナを掻き集め、形にする。


 「爆ぜろ! 必殺【チャック・ダン】!」


 ザコヘイを包み込む巨大な爆発が起こる。

 瓦礫を粉々に吹き飛ばす。

 魔法が終わり、辺りに広がる静けさ。


 「すぅ⋯⋯はぁ。⋯⋯私の、勝ちだ!」


 ステッキを掲げて勝鬨を上げる。

 感情が落ち着くにつれ、赤く染まった部分も元の紅色に戻って行く。


 「ワン!」


 ぺろぺろが隣に立ち、爽やかに流れる風にツインテールの髪が靡いた。

 この日、この国に、この世界に、真の魔法少女が誕生した瞬間である。

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