第8話 正義を執行するのは魔法少女だけじゃない
日課の街外で訓練している時の事、狩人が食料となる魔獣を捕らえるためのトラップに妖精が引っ掛かっていた。
妖精だと判断したのは体内を巡るマナの性質が魔獣とは異なるからだ。
と、最もらしい説明ができれば良いのだが、種族の違いは直感で分かる。
これは僕の力ではなく、この世界の生物共通して言える事だ。
偽装している可能性もあるが、そのような気配はしないので間違いないだろう。
さて、僕はどうするべきだろうか。
妖精は魔獣では無いし人を見境なく襲う訳では無い。なんなら人間に恵をもたらす者もいると言う。
「いや、それは精霊だったか?」
「シャー!」
威嚇、されたのだろうか?
妖精の見た目は子犬に近く、犬種で言えばポメラニアンに近いだろうか?
背中にはヘリコプターの羽の様な葉が付属している。クルクル回せば飛ぶか?
何が言いたいのかと言うと、犬の見た目で猫のような威嚇で困惑している。
僕は小動物を愛する元日本人だ。助けるとしよう。
「今解放してやるからな」
それにしてもこんなところにトラップを仕掛けるとは。
ココ最近は僕が魔獣を殲滅しているので滅多に見掛けないと言うのに⋯⋯。
「安全な場所と勘違いして迷い込んだ妖精かな? この辺から居なくなった魔獣はどこへ行ったのやら。訓練のためにも探さないとな」
慣れない手つきでトラップから解放すると、妖精は傷ついた自分の足をぺろぺろと舐めていた。
痛々しい傷だったので、回復する事にした。
「回復魔法はあまり使わないが上手くできたか。痛くないかワンコ」
「⋯⋯わん!」
「お、犬っぽい。よーしよし」
頭を撫でてみる。
中々に良き心地だ。
この世界にも普通に犬はいるが、妖精の犬も感触は差程変わらないな。
違いがあるとすれば、妖精の方がマナが豊富でヒリヒリと接触部分に痛みが走る。
対して痛くは無いが、心が休まらないな。
「くーん?」
顔を傾けて「どうしたの?」と言っているように感じた。
最初の警戒心は無くなり、僕を信頼しているらしい。
妖精の面倒を見る余裕は無いので、ここに放置しよう。
帰るべく踵を返すと、背中に張り付いて来る。
引き剥がし歩き出すと後ろを可愛らしくトコトコと歩いて来る。
寂しそうな顔をして、必死に僕の後を追い掛ける。
「ぐっ」
この「どうして僕をおいてくの?」と言う顔が精神的ダメージを与えて来る。
言おう。敢えて言おう。効果抜群だ。
急所に当たるし4倍弱点、なんなら一撃必殺級だ。
「⋯⋯ま、魔法少女にはマスコット的なポジションが必要だよな。何故か深夜魔法少女のマスコットは黒幕役が多発しているけど、鬱展開皆無を目指す僕からしたらただ可愛い君は実に都合の良い」
良し、この子を飼おう。
このまま放置していたら狩人に魔獣と間違えられて倒されちゃうよ。
マナの違いで直感的に妖精と分かるのも近づいてからだしね。
矢で射抜かれたら可哀想だ。
「今日から君は仲間だ」
「わん!」
嬉しそうに元気良く鳴いた。
僕は色々な事情を説明した後に名前を与える事にした。
「傷をぺろぺろしていたから、君の名前は『ぺろぺろ』だ。魔法少女達にそんなサービスシーンは求めてないから注意だぞ」
「わん!」
「良し! 君は陰ながら魔法少女を支えるんだ。都度指示は僕やサシャが出すかもだから覚えておくように。基本はアナと行動を共にするんだ」
情報伝達は首輪型の通信機兼GPSを使って貰おう。
アナに適当な設定を作って飼って貰う事にした。金はもちろん払う。
魔法少女の力を高めるための手助けをしてくれる仲間だと説明しておいた。
そして数日後、僕は魔法少女の力を試すべくロボットを街中に放つ計画を立てた。
悪の組織的にロボットだと味気ないので、『怪人』あるいは『怪獣』と言う種族にしてみた。
サシャの場合は統括幹部怪人『サイン』って事になる。
僕は漆黒の外套を纏い、フードを深く被る。
声を低くしカラスの仮面を装着して準備万端。
「
「御意。アーク様」
僕達が最初に作った怪人はロボット『ザコヘイ』だ。
基本攻撃はパンチで3メートルくらいの巨体を誇る。
デカさはパワーだ。
王城が近いが気にする事無く、僕は公園近くにザコヘイを解き放った。
「さあ
適当に街中を破壊すれば箔が付くだろう。
後は魔法少女であるアナに倒して貰えば⋯⋯。
そう、思っていた時期もありました。
「団長。街中に出現したメカはコレ一体なそうです」
「小さなメカが潜伏しているかもしれん。調査の範囲を広げろ。反逆者をこの国にはおけん」
「はっ!」
王城の付近にあるタワマンは騎士が沢山いる。公務員割引があるからだ。
よって、簡単に騎士団が駆け付けられる。
そして騎士団にザコヘイが瞬殺された。魔法少女の出番どころか変身すらしてないだろう。
「しっかりと仕事をされたら困るな」
こう言う騎士って無能なイメージがあったが、これは僕が素人と言わざるを得ないだろう。
ラノベなどの異世界では大した活躍を見せない騎士達、君達は立派に仕事をしてくれたよ。
これは先入観と偏った知識で行動した僕の浅知恵が悪い。反省しよう。
「次はこうはいかないからな騎士団」
「騎士団相手となると⋯⋯厳しいですね。手数が足りません。確実に穴を突かれ妨害されます」
「だよね。仕方ない。魔法少女の住んでいる施設に直接ぶつけるか。修繕費は国が出すだろうし、人的被害が出ないように気をつけて、ザコヘイ第二号出撃だ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私が家族と談笑をしていると、弟ポジションの一人が慌てて室内に入って来た。
「皆大変だ! 外で大きなロボットがこっちに来てる!」
「そんなバカな。ロボットの研究開発は公的な場所で行われるはずだし⋯⋯暴走しても騎士団の人達が倒すはずだよ」
「でも来てるんだよ! 真っ直ぐこっちに! 早く逃げないとぺしゃんこだ!」
嘘を言っているようには思えないので、私は確認する事にした。
すると、本当に大きなロボットがやって来ていた。
あちこち建物を破壊しているが、明らかに真っ直ぐこっちに来ている。
どうして?
ここに何かあるの?
「わふ!」
「ぺろぺろさんっ!」
魔法少女ステッキを咥えてセーギさんに渡された妖精がやって来た。
真っ直ぐと情熱の炎が滾る瞳を向けて来る。
私に、戦えと言うの?
⋯⋯あのロボットと私が⋯⋯。
戦う?
⋯⋯あんなに恥ずかしい格好をして?
その格好を家族に見られながら戦うの?
「わふ!」
「で、でも⋯⋯」
建物を破壊しながらやって来るロボット。
騎士団がやって来るまでどこまで時間が掛かるか分からない。
⋯⋯家族が危ない。
「私はッ!」
⋯⋯私はなんのために魔法を教わった。
なんのために強くなろうとした。
何故、魔法少女の道を選んだ!
「家族を守ると決めたからだ!」
私はぺろぺろさんからステッキを受け取る。
恥ずかしいけど、家族を守れるなら私の羞恥心はゴミ箱行きだ!
『聞こえるかアナよ』
「⋯⋯ッ! チャットシステムでしたっけ。セーギさん。聞こえます」
『貴様らなんの目的で我ら王国騎士の邪魔を⋯⋯アナよ、良く聞け』
「今騎士って⋯⋯」
『気のせいだ。⋯⋯ぐああああ! な、なんだあのガキは。強い⋯⋯こっちも来るぞ』
凄く大変そうな気がする。
一体セーギさんは何をやっているのだろうか?
『アナよ、君の目の前に現れたのは怪人ザコヘイ』
「かい、じん?」
『そうだ。悪の組織ヤベーゾの怪人だ』
「悪の組織! 魔王軍っ!」
『魔王軍とは関係無い。悪い組織なんて山程ある。その一つだ』
そんなに沢山悪い人達が!
『えーっと。奴らは世界を何とかかんとかだから。とにかく魔法少女である君が倒すんだ』
「はい。その覚悟は、できました!」
『ならば良し。行け、魔法少女『ジャベリン』』
「私が皆を守るんだ。【変身】」
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