第6話 魔法少女と契約完了

 三徹⋯⋯何とか完成させる事ができた。


 「やりましたね。ルーシャ様」


 「ああ。サシャも協力ありがとう」


 僕は遂に、魔法少女にとって1番重要な衣装を完成させる事ができた。

 後はこれをプレゼントし訓練に入れば良い。


 「しかし⋯⋯これを他の女に渡すのは凄く気にりなりますね」


 「何か言ったか?」


 寝不足で集中力が足りず、上手く聞き取れない。


 「いえ何も申しておりません。流石ルーシャ様。マナでノイズキャンセリングを施していましたが、聞こえてましたか」


 「いや? 何かボソボソしているなくらいしか分からなかった」


 小声で言うにしても魔法まで使うか?


 彼女の秘密を探る趣味は無いし、何よりも今は重要な事がある。忘れる事にしよう。

 この拠点には流石に呼び出せない⋯⋯魔法少女組織用の拠点も必要か。


 フェニックスさんと約束したし、彼の貴重な素材を金にはできない。

 魔獣を倒して換金するにしても、子供がやって良い領分じゃない。


 「うん。ま、今は適当な場所でいっか」


 子供と言えば秘密基地。

 街の外にある森に適当に作った秘密基地があるのでそれを使う。

 主に訓練の小休憩で使う場所である。マナを使い周囲から見えないし感知も阻害する様にしてある。


 そこにアナを呼び出した。


 「せ、セーギさん。ここは一体⋯⋯凄い場所ですね」


 「なんだその適当な名前は」


 「え? だ、だって⋯⋯」


 「え? あーそうだな。我が名はセーギ。魔法少女を導く指導者的、指揮官的なアレだ。うん」


 「は、はぁ」


 ちなみに最初は木で作った机と椅子しか無かった。

 自作でかなり気に入っていたのだが⋯⋯それだけでは寂しいとサシャが勝手に改築してツリーハウスを立ち上げた。


 立派なツリーハウス過ぎて最初は場所を間違えたと勘違いした程だ。

 サシャは良かれと思って僕の預かり知らぬ所で色々とやっている。


 「さて本題だ。これを受け取るが良い」


 僕は自作のステッキをプレゼントする。

 先端は彼女の得意な魔法に合わせて放射能マークにしてある。

 得意な魔法はステッキの最終調整前に確認してある。


 「君はこれから様々な人々を照らし導く存在となる。これを受け取るとはその様な覚悟が必要と言う事だ。最終確認だ。僕と契約して魔法少女となるか?」


 「私は⋯⋯」


 ステッキを真っ直ぐと見つめ、覚悟を固めるように拳をギュッと胸の前で握った。

 瞳は真っ直ぐで迷いを感じさせない。彼女の決意と覚悟は本物だ。

 僕も嬉しくて口角が上がる。


 「契約します。私は大切な人や色んな人を守れる魔法士メイジになります!」


 「ちっがーう!」


 「えぇ?」


 何故その様な結論に至るのか理解に苦しむ。


 僕が本気で否定した理由が分からないのか、何か間違った事を言った時のように不安で視点があちこちに行く。


 こちらに意識を向けさせるために肩を掴む。

 痴漢対策でマナを手の平に集めているから許してくれ。


 「良いか? 君がこれから目指すのは魔法少女なんだ。正義のヒロインなんだ。メイジだの○イジだの○イージなのでは無い!」


 「メイジ⋯⋯。それに魔法少女は」


 「何が不満かね!」


 不満があるのか?

 魔法少女になれるのに?

 小学生女子の憧れの魔法少女になれるのに?


 「だって⋯⋯いずれ大人になったら少女じゃないですか」


 彼女は言ってはいけない事を言ってしまった。

 その言葉はまだ早い。気づいて良い年齢じゃない。

 大人になる事について考え、苦悩し葛藤するのはもっともっと先の展開でやるべき事だ。


 今はまだ純粋であるべきだろ。

 ませている。この世界でもませている女の子がいる。


 「大人の事はなぁ。大人になってから考える事なんだよおおおお!」


 「でも先生は将来の為に今のうちに考え行動し学びなさいって言ってるんです。立派な大人程幸せな道を歩めるって!」


 「そんな立派な大人の立派な発言を聞いて生きてたらつまんない人生になっちゃうよ!」


 「今が楽しいですし、先生も楽しそうなので大丈夫です!」


 そんな⋯⋯バカな。

 ここでまさかの裏切りにあう。


 ここはステッキを受け取りながら、「皆を守るために強くなる。私は魔法少女になる!」で良いじゃん。

 なんでグダグダ展開になるの。


 「終わった。僕の、夢が⋯⋯ガックリ」


 地面に手を着いて項垂れる。

 チラッと横目で見ると、アワアワと慌てながら彼女が否定に入る。


 「あ、あくまで将来。将来の話です! 今は魔法少女ですから。全然、もうこれでもかってくらいに魔法少女ですから!」


 「⋯⋯ほんと?」


 僕が彼女の瞳を覗く。彼女からは見えないだろうけど。


 「はい! 本当です」


 「ありがとう、本当に、ありがとう」


 泣きながらお礼を言うと、何とも言えない顔をされた。

 何故だ?


 閑話休題。アナ専用のステッキを渡す。


 サシャと協力して彼女の音声データを手に入れ色々とシステムを作り上げ、彼女専用にした。


 「使わない時とかはキーホルダーモードにして鞄とかに吊るして肌身離さずにしてね。寝る時とか外の光に照らしてね。日光か月光に照らして欲しい」


 「何故ですか?」


 「太陽光発電とその逆⋯⋯マナを集めてストックする機能があるんだ。暇な時とかにマナを自ら入れるのも全然良いからね」


 太陽光発電⋯⋯と言っても自然の光エネルギーを直接ステッキの中に入れてマナエネルギーに変えているだけ。

 そもそも日光などの自然の光はマナに変わる。変わる前にステッキに吸収させ、ステッキの中で変わりマナを蓄える。


 光エネルギーが1番少なくなる地上でやるので太陽光発電だけではかなり溜まるのが遅い。

 それでもある方が便利だと思って用意した。

 細かい仕様はサシャが完成させたので、僕は漠然としか知らない。


 趣味と欲望発散のために描いた漫画で太陽光発電を見たらしく、そこから発想を得たらしい。

 彼女は天才なのか、ちょっとした発見で色々と作るから恐ろしいくもあり頼もしくもある。

 彼女の発見なので、世間に情報を流布するかはサシャに一任している。丸投げでは無い。ホントだよ?


 ステッキ説明に戻ろう。


 「蓄えたマナを使ってシールドシステムが使える。ステッキを横に向けて強く握って」


 「はい。⋯⋯わっ」


 言った事を素直にやれば、全身を守れるサイズのバリアが正面に展開される。

 マナを操れるようにならば全方位から身を守る様にバリアを展開する事も可能だ。


 「次に【変身】と大きな声で言いながらステッキを掲げて」


 「は、はい。【変身】!」


 ステッキを掲げると、先端の部分が神々しい光を放ち全身を包み込む。

 光が収まると、魔法少女の格好となる。


 身体が幼いので、露出度高めは不適切だったかもしれないと今になって反省する。

 小さい間は代案を用意するべきだった。


 「い、一瞬裸になった感覚が⋯⋯って、何ですかこの格好!」


 お腹を隠し、スカートを下に引っ張って顔を真っ赤に染める。

 恥ずかしいんだろうね。


 「今のがチェンジシステム。とある場所に保管してある魔法少女の衣装と今着ている服を瞬時に交換できる。企業秘密なので細かい仕様は教えられない」


 お父様、貴方の子供になれて僕は幸せです。おかげで魔法少女の着替えが可能なのですから。

 教えられないのは転送システムや着替えのシステムなのでそれ以外は伝えておこうと思う。


 「ステッキには小型マイクが内蔵されていて、そこに特定の 言葉スペルを言えば発動する」


 「そ、そうですか⋯⋯ん? マイク? それだけ?」


 「ああ」


 自信満々に答えると、アナはワナワナと震える。怒っているのかもしれない。


 「じゃあ掲げるの意味無いじゃないですか! なんならマイクから口が離れる分大きな声出さないとダメじゃないですか! それじゃ敵に気づかれちゃいますよ」


 「それはまぁ。お約束って奴だ」


 「意味が分かりません!」


 「だよね。⋯⋯やっぱり杖から出る光を上から降るタイプにすれば良かったか」


 「聞こえてますよ」


 「すまん」


 ノイズキャンセリングする癖は必要かもしれないな。サシャを見習おう。

 ステッキの光は着替える部分のスキャンと隠すための物で、掲げる必要は無い。


 でもさ。

 やっぱり掲げてピカーって光って魔法少女になるのが良くない? 1番良くない?


 「⋯⋯あ、あれだ。いずれ仲間ができる。その時、仲間に自分の場所を知らせる為に光る場所を強調する必要がある。だから掲げるんだ」


 「一定の説得力はありますが、今は私一人ですよ。それにそれこそ魔法の出番です」


 「お願いしますこの通り!」


 僕は土下座した。

 カッコイイ魔法少女を見れるなら、僕はなんだってするさ。

 僕のプライドで魔法少女が輝けるか? 答えは否だ。


 かなり引いた目をされたが、承知してくれた。


 「それとそのコスチュームは壊れても簡単に直せるから都度こちらが修繕する。サイズ変更などのアップデートも任せてくれ。そしてコスチュームはオートで自身に身体強化と認識阻害を施すから、身バレの心配は気にしなくて良いぞ」


 そう言うと、心の底から安堵した様子を見せる。


 「この凄く恥ずかしい格好をしている私が世間に広まらないんですね。良かったです」


 「⋯⋯魔法少女衣装ソレ、そんなに嫌?」


 「にひっ」


 ニコニコ笑顔で返された。

 嫌じゃないらしい。良かった。


 「それじゃ訓練しよっか」


 「この格好で?」


 「マナと馴染みやすいから上達速度上がるよ?」


 「分かりました」

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