第5話 こだわりの強いオタクなのです
魔法少女にとって必要な正義感と自己犠牲の精神を備えた女の子が魔獣に襲われていたので、助けて「魔法少女にならないか?」と誘ったら受け入れてくれた。
少々幼さ過ぎるが、訓練時期と考えれば本格活動の時には適正年齢になっているだろう。
魔法少女探し兼カッコイイ魔法練習中に出逢えた幸運に感謝である。
しかも姿が見られないように純白の外套に身を包んでいたのも、中々に良い雰囲気を出していたと言っても過言では無い。
「僕と契約して魔法少女になって貰うために⋯⋯必要な物を用意しなくては」
魔法少女のコスチューム。これが無くては魔法少女とは言えない。
既に幾つか用意してあるイメージの中で紅の髪や瞳を持つ彼女に似合う物をピックアップ。
少々露出度は高いが、深夜アニメの魔法少女を目指す僕としてはR15指定をくらいそうなレベルで調度良い。
「素材にもこだわりたい。オタクだもの」
なので僕は家族に許可を貰ってかなり離れた場所にやって来た。
ここではとあるモンスターが発見されている。
その強さ故に近寄るのは危険とされている。金目的の人がこぞって集まり返り討ちにあうらしい。
その者は魔獣でありながら空気中のマナも操る程までに熟練した強さを持つ。
永遠に肉体の再生を繰り返す炎に包まれ、赤き羽毛に包まれる鳥。
悠久の時を駆け抜け強さと知識を蓄えた。故に孤独の象徴。
ファンタジー名物であり誰もがその者を知る。
汝の名は不死鳥:フェニックス。
「炎の羽毛は軽く丈夫で如何なる金属をも凌駕する耐久力を持つ。武器にすれば大他を切り裂き、鎧とすれば隕石から身を守る⋯⋯素晴らしい」
「⋯⋯ふん。我の身体が人間達の間でかなり誇張されているようだな」
「⋯⋯えぇ。そうなの? そこは夢を見させてくださいよ。じゃあ帰ろうかな? 折角来たのに想定外だ」
まさかの嘘情報だとは。
「⋯⋯待つが良い小僧よ」
「はい」
「あながち間違いでもない。我が羽は炎を食わせばまたたく間に再生する。かなりの耐久力度を誇るのにも関わらず不滅の武具となる」
「成程。それは楽ですね」
「だろう?」
と言う事は羽が自ら燃える訳では無いらしい。
燃え盛る魔法少女のコスチューム。少しだけ憧れはあった。
しかしまぁ良いだろう。
良い素材なのには間違いないらしい。一色は嫌なので後で着色でもしようか。
「それでは、羽をください」
「我が住処まで足を踏み入れた事は褒めてやろう。だが、我が身を易々と渡す訳無かろう」
「そうですか」
ここは火山の内部である。
外にはいくつもの魔獣が蔓延っていたが、大した強さでは無かった。
フェニックスがやって来る人間に嫌気がさして用意していただけだろうしな。
この歳にもなれば、魔獣を倒す事にも慣れて感覚が麻痺して来ている。
話を戻すがフェニックスは簡単には羽をくれないらしい。
長生きなため見境なく襲う獣では無く、意思疎通の可能な珍しい魔獣。
本当は平和的解決が良かったが、なるはやで魔法少女の本格的訓練に入りたい。
「なら、力ずくで毟るしかありませんね」
「我相手に力押しか。興味深くはあるが、下等な魔獣共を駆逐した程度で思い上がらない方が良い。その幼さでそれ程の強さは中々に見ないが、上には上がいる。我には遠く及ばぬ強さ。命は大切にしなさい」
「お優しいですね」
「老婆心だ。我は不滅故命の尊さを他者よりも理解しなくては成らないからな」
僕はその忠告を無視してフェニックスに襲いかかる。僕にはその羽が必要なんだ。
倒す必要は無い。とにかく羽が欲しい。最高の素材がっ!
「目的が何か知らないが、戦闘の意思があると言うのなら容赦はせぬ」
フェニックスが地中のマナを操り、炎の槍を僕に向かって放った。
地中にも薄いがマナは存在するらしい。
未だに僕は地中のマナを感知する事しかできないが、長年生きるフェニックスにとっては操るのも造作も無い事らしい。
それで実力差を見せたつもりなのだろうが、生憎と僕の目的はこれ程度で怯んだら成し遂げられない。
魔法少女と言う尊き偉大な存在を作るには、こんなところで立ち止まる訳にはいかないのだ。
「はっ!」
「足にだけマナを収束させ急加速か」
全身強化よりも速度が上がるので、足にだけマナを集めた。
速度に耐えるためにも全身強化は最低限しているが。
加速すれば回避は簡単。
ここで同類の皆様なら小学生レベルの科学知識で『二酸化炭素』を使い火を消しているだろう。
少なくとも、昔の僕もそうしていた事だろう。
だが、この世界で生活しているうちにそれは無意味だと気づいた。
『マナ』が万物の頂点に君臨するこの世界では酸素や二酸化炭素の概念すら存在しない。
最初は認知されてないだけかと思ったが、本当に実在しないのだ。
どうして火が燃えるのか。どうして人は呼吸するのか。
その疑問は全て『マナ』で解決される。
結果をイメージするだけでありとあらゆる現象、エネルギーに変わるマナがある限り科学知識はあまり使えない。
まさに転生特典の知識チート殺しのシステムだ。
フェニックスが『燃える炎』をイメージしたならば小細工では消せない。
その炎を消し去る物量か魔法が必要となる。
だから僕はフェニックスの攻撃を『回避』するしかない。
相手の方がマナを操る強さが上だから。
「はっ!」
「我より高く跳ぶか。だが、何ができると言うか」
この世界にも様々な武術があり発展している。
しかし、僕の経験や知識から見ればそのどれもが拙い。
何故か?
これもまた『マナ』が影響している。
敵を倒すにはマナの力が必要となり、マナを前提とした武術が発展するのは必然。
そのため、技の細微までこだわる地球の武術と比べると明らかにキレが無い。美しさや迫力が無いのだ。
前世で培った『技』とこの世界で鍛えた『技』を合わせる。
地味だが1番効果的で1番強い攻撃方法。
物理と魔法を掛け合わせる。
拳に操れる分だけのマナを操り1点に集める。
落下の勢いと回転を乗せて相手の顔面に拳を叩き落とす。
ただの力技。
ズドンっと空気が破裂する音が響いた。
衝撃波は止まらずに地面を砕きマグマが涙のように溢れ出す。
「かひゅっ」
頭を吹き飛ばす勢いの攻撃だったが、流石はフェニックスか。
自身のマナを打撃が直撃する部分に収束する事で強固なバリアを展開させたらしい。
「力イズパワー。結局シンプルなのが1番強い。僕は好きじゃないが」
「⋯⋯凄い一撃だ。一切の隙が無い無駄の無い動き⋯⋯その幼さでこれ程までの実力者は稀有な存在よ」
これは僕、決めゼリフ言えるのでは?
「やれやれ⋯⋯これが転生チートか」
イキリとドヤ顔を決める。
そして相手が疑問に持つ展開までがテンプレ。
オタク社会人、外聞を気にする事無く言い切る。
「転生⋯⋯お主は転生者だったか。強さの理由が知れて胸がスっとした。道理で強い訳よ」
僕の期待していた言葉とは180度も違う答えが返って来た。
「んん??? 転生者をご存知で?」
「悠久の時を生きるからの。何十と見て来ている。お主のような強さはその中でも稀よ。⋯⋯我の知識だけに偏るが、今も尚一人は生きているな」
「まじですか」
この世には僕以外にも転生者がいるらしい。
しかも何十人もいたらしいぞ過去には。
⋯⋯ああ。
道理で異世界感が無い訳だ。
過去にも転生者がいるなら文明を発展させるに決まっている。僕でもそうする。
あの生活水準から落としたくは無いだろう。
しかもフェニックスさんが言うにはその中でも一人まだ生きているらしい。
もしかしたら不老不死とかになっちゃってる人とか?
「もしかして⋯⋯女神様にチートスキルをプレゼントされた羨まけしからん輩がいたり?」
「分からぬ。親交は避ける様にしているからな。全員、先に逝く故」
「そうですか」
「我はお主の類稀なる強さに感銘を受けた。我の涙をくれてやろう。好きに使え。大切な人の死を無くす事も可能よ⋯⋯老衰死以外な」
どことなく悲しげな声のフェニックスさん。過去に試したのかもしれない。
大切な誰かのために。
しかし僕には関係ない。
「あ、そんなの要らないんで。羽ください」
「⋯⋯マジで?」
「マジで」
「国家が動く程の価値があるはずだ」
「書物にはそう書いてありましたね。でもそれって魔法少女に必要無いですよ」
「⋯⋯は? お主の目的を聞いていなかったな。教えてくれ」
「僕の目的は魔法少女をこの世に顕現させ輝かせる事です。そのためならなんだってします!」
誰にも邪魔できない崇高な夢である。
だと言うのに、フェニックスさんは理解を示してくれなかった。
どこか遠くを見つめている。
「金目的では無い、と」
「はい!」
「ならば好きなだけ持って行くが良い」
「良いんですか?」
「金欲しさならば量は制限する。気に食わんからな。しかしお主の目的のために活用してくれると約束するなら、構わん」
「良い人ですね」
「無駄にダラダラと生きる怪鳥よ」
僕は遠慮なく大量の羽を毟り取り、拠点に持ち帰る事にした。
家には持ち帰らない。家族に見つかったら取り上げられそうだったから。
次々に再生する羽をヨダレを垂らしながら採取していたら、途中からフェニックスさんは何も言わなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます