第3話 やっぱり魔法少女には正しい敵が必要だよね★
8歳となった僕に課せられた難問、それは資金調達をどうするか、である。
前世の記憶を再現して漫画を描いてはみたが、盗作なのでこれを売る事はできない。
修行の参考になるかも分からない。
自己満なので時間の無駄と言う訳でもないと信じたいが。
「金が欲しいな」
魔法少女を育てると決めてから4年間、ひたすらに僕は励んだ。
この世界には契約した倉庫などに物を瞬時に転送できるサービスがある。取り出しも可能だ。
分かりやすくすると、アイテムボックスだ。
これを利用して魔法少女の衣装を瞬時に切り替える演出が可能になる。
企業秘密である設計図だが、父の仕事柄目にする事ができた。強引な方法を使ったけど。
後は前世のオタク知識を頼り自己流に改造したのである。
ステッキはできる。魔法少女のコスチュームも作れなくは無い。練習したし。
だが、肝心の魔法少女が未だに見つからない!
そしてステッキの実用化のための金が足りない!
衣装作成の料金とかも必要だし。
サシャは魔法少女に向いて無い。長年生活してそれだけは分かった。
むしろサシャは得意な魔法的に敵役の方が適切な気がする。
悩んでも変わりないし、今日も魔法少女候補となり得る人物を探しに出向く。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あの日、4年前の誕生日旅行の際にお目にかかれた高精密の魔法を思い出す。
周囲のマナを集め『弓』と『矢』の二つを魔法として使った。
集める量は当然必要だし、それを分離してそれぞれ操るなど至難の業だ。
調べてみたが、倒された怪鳥もかなりの強さを誇る魔獣。
一撃で屠るにはそれだけマナが必要。
マナの基礎が均等に高水準のルーシャ様は異次元と言えるだろう。
あの時、私は確信したのだ。
この方は強い。誰よりも強くなると。
しかも、その強さの鱗片を私に授けてくれた。
文字は分からないが絵だけなら何となく理解できる、漫画も授けてくれた。
きっと強さの秘密がここには描かれているのだろう。解読が難しいのも秘密主義だからでしょう。
私は魔法を教えてくださった時から、自分の心の時計が動いたのを感じた。
ドクン、ドクンと心の時計の音に慣れた頃には私はルーシャ様に忠誠を誓っていた。
彼ならきっと。
きっと⋯⋯私を強くしてくれる。そして彼は誰よりも強い。
私は幼い頃から奴隷に堕ちた。
理由は単純、住んでいた村が滅んだからだ。
たったの一夜だ。それだけで全てを失った。
魔族によって攻められ村は破壊された。
愛する家族は死に、大切な友人達も無惨に散り、親切にしてくれた近所の人も踏み躙られ、安眠を届けてくれた家は崩れた。
私だけが生き残った。
全てが奪われた後に、助けが来た。
児童養護施設が満員なのと親戚が誰もいない事から⋯⋯私は奴隷となった。
子供だったからか、最低限の温情は与えられたけど。
奪われた時、私は痛感した。させられた。
弱さは罪だと。
村を守る兵が攻めて来る魔族よりも強ければ、奪われずに済んだ。
弱さは悪だ。弱くては何も無し得ない。弱くては全てを奪われる。
強くならねばいけない。強くないと、何も残らない。
ルーシャ様の奴隷になれて私は幸せ者だ。
奪われた分、私は必ず奪い返す。
強い方、強さを授けてくれる方⋯⋯強さを望む私が忠誠を誓うには十分過ぎる。
「金が欲しいな」
ルーシャ様の呟き。
私は己の忠義を示したいと常々思っていた。
彼に対して恩返しできる事は少ないだろうけど、返せる時にしっかりやろうと考えている。
「かしこまりました」
私がお金を集めよう。
ルーシャ様のために。彼の望みを全力でサポートしよう。
奴隷として、弟子として、愛する人のために。
ルーシャ様のお父様は身分の高いお方だ。
それ故に悪い情報も沢山舞い込んでくる。
私はその中で悪そうな貴族を選び、住処にひっそりと襲撃を仕掛けた。
ルーシャ様のためなら私はなんだってできる。
「これがあれば解決しますね」
ルーシャ様のお父様の仕事は物品の総管理。
倉庫の貸出サービスから国際規模での運送配達サービスもしている。
今回襲撃した貴族は裏ルートを使って違法薬物を輸入していた。
こんなのは人を壊すだけの毒である。
その証拠を出せば簡単に捕まるだろうが、それではあまりお金にはならない。
私はこの証拠を情報屋に売り飛ばした。
正確な証拠品ともなれば高値で売れるからだ。
でもこれではまだ、私の忠義がしっかりと示せない気がした。
なので、ルーシャ様の漫画を参考にして建物を建てた。
子供故に多少の甘やかしをしてくださるお父様達の協力の元、ペットショップを立ち上げた。
人脈の方もお父様の協力を得られている段階で問題ない。
そして重要なのは⋯⋯形だけだが完成したと言える。
「これで少しは⋯⋯恩返しができるでしょうか」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
サシャに付いて来て欲しいと言われたので付いて来ました。
彼女は本当に敵役ポジションに相応しいのかもしれない。
「私が直接、
「そうか」
「躾の度合いで料金の設定を考える予定です。特に賢いペットになりそうなのは薬物の臭いなどの専用の技術も叩き込み、高額でそれ相応の場所へ売り込むつもりです」
「そうか」
「そしてこちらが⋯⋯」
スタッフルームにある観葉植物を手前に軽く倒すと、壁がスライドして階段が現れる。
「ルーシャ様の漫画を参考にして創り出した地下施設でございます。ご拝見ください」
「うん」
中に入ると、如何にも悪の組織が使いそうな研究施設が形だけはできていた。
僕の知らないところで僕の奴隷が凄い事をしていた。
一体どこで資金を集めたのか分からない。
それと躾の技術も⋯⋯得意な魔法を考えれば似合ってはいるが。
「継続的な資金の確保も可能です。お父様へプレゼンを行い許可を頂き助力を得ているので、利益の数割は流さなくてはなりませんが。その辺も調整して誤魔化しこちら側に多く流れるように致します」
「うーん。それは不義理だから止めておこうか」
「ではそのように」
「表のペットショップで働いていた店員達は?」
「とある悪さを働いた貴族の所で働いていた兵士や使用人達です。暴挙が明るみになり粛清され、職を失い信用も失って再就職先が見つからず路頭に迷っているところを拾いました」
その後にこう続ける。
「なので低賃金で働いて貰っております」
うーん。なんだろうな。
なんて言えば良いんだろう。
数週間前に「お金欲しいな〜」的な事は呟いたが、それでここまでの成果が出るとは思ってなかった。
公園に一本咲く桜に「家でも見れたらな〜」と呟いたら、数週間後に家の周りに何本も綺麗な桜が咲いている様な感覚だ。
何を言っているか理解できなくても構わない。まず、僕がこの状況が理解できないから。
「漫画の絵だけで良くここまで再現したな。素晴らしい。誇って良いと思うぞ」
「いえ。この程度、ルーシャ様に頂いた恩義と比べたら微々たるものです」
僕そんなに大層な事をしたのかな?
朗らかに微笑むサシャに僕は少し、いやかなり引いていた。
やってる事がえげつなく急展開なので仕方ないだろう。
「これでルーシャ様のお望みに近づけましたか?」
「望み⋯⋯」
むしろかけ離れている様な⋯⋯いや待てよ?
魔法少女がいても輝かせる舞台装置が無くてはならない。
つまりは敵キャラだ。
敵キャラの幹部に相応しい実力と性格を誇るサシャがここにいる。
「なるほど!」
魔法少女を輝かせるための敵役を育てる拠点にしよう。
表は普通のお店なのに地下に悪の組織が⋯⋯なんての憧れるよね。
うん。テンプレって感じがして良い感じじゃん!
敵キャラを作るって考えたらペットショップも不思議としっくりくるし。
「良し。ここを第一拠点としよう!」
「はい!」
「ありがとうなサシャ」
「いえ。この程度造作もありません」
マジで? 凄すぎないこの子?
この子も転生者だったりします?
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