第2話 オタクの憧れ、オタクの夢、異世界での大きな夢

 4歳の誕生日に温泉旅行に出かける事となった。

 今住んでいる場所からはかなり離れている、温泉が有名な街に行くらしい。


 そんな長距離移動に使うと言えば馬車が定番⋯⋯しかし、この世界は飛行船を使うらしい。

 窮屈感が全く無いし、快適な旅行ができる。

 べ、別に残念に思ってないもん。馬車とか初めて乗るな〜とか期待していた訳じゃないもん!


 豪華客船の空飛ぶバージョン。もうこれだけで旅行を楽しめるぐらいに施設が充実している。

 メインは温泉なので移動手段でしか無いのだが。


 「温泉か⋯⋯この世界に温泉って概念あるのか⋯⋯ふむ」


 社会人であり元日本人の僕からしたら温泉は凄く楽しみである。

 昔から温泉好きなのでね僕。


 年齢を考えて、奴隷であるサシャも連れて来ている。

 他の使用人や奴隷達はお留守番だ。


 「娯楽も現代並に充実しているし、文句無しだな⋯⋯ファンタジー成分が欲しくなる」


 最近している事と言えば、筋トレやマナトレやその二つを組み合わせた訓練やら。

 きちんと勉学にも励んでいる。


 何か普通な優等生がやりそうな日々を送っている。

 引き籠もり1歩手前(手遅れ)だけどね。


 退屈な時間をゆったりと甲板で過ごしていると、遠くで揺れ動く物体を発見。


 「視力を強化してっと」


 この世界の魔法はかなり使いやすい。

 過程とかイメージする必要が無い。


 青い炎をイメージすればそれが出せるし、威力を上げようと思ったらマナを増やせば良いだけ。

 過程をイメージしたところで火力は上がらないのだ。


 なので、視力強化も光の屈折とか気にする事無く、あの景色を近くで見たい⋯⋯的なイメージで行える。

 目にマナを集中させるのは中々に難しいが。


 「でかい鳥だ」


 大きな鳥さんがこの船に向かって真っ直ぐ飛んで来ている。

 ファンタジー要素はでかい部分だけだろう。見た目は鷹に近い。

 敵意のありそうな真っ赤な眼光をしている。


 先手必勝。

 見つけたのだからサクッと倒してしまおう。


 「折角の家族旅行なんだ。邪魔はされたくないんでね」


 周りに人の気配はしない。

 魔法を使って倒しても問題無いだろう。


 僕はこの体に転生した責任を果たすべく、父の家業を継ぎたいと考えている。

 幼い頃から強そうな魔法を使って、騎士とかそっち系に行かされたら困るのだ。

 父の家業は戦闘とあまり関わり合いが無いからな。


 冒険者に脳死であるテンプレ主人公を期待した誰かがいるかもしれないが、悪いね。

 僕はちゃんとした人生を送るよ。安定した給料と生活第一!


 なので、目立たないように倒す。

 しかし距離があるので、今の僕の技術では普通に倒す事はできない。


 「マナを集め具現化⋯⋯生成するは弓、矢は炎かな」


 僕は前世でテコンドーと極真空手、弓道をやっていた。柔道もかじった程度だが嗜んでいる。

 弓を形成して炎の矢で相手を射抜く。


 頬付けしなくても、マナを込めて威力を上げれば真っ直ぐ飛ぶので現代の弓道よりも簡単だ。


 「ごめんね、命を奪って」


 中心を穿ち、怪鳥は力無く落ちて行く。


 「ふっ。今は目立たない方が良いのは確かだけど、カッコイイ魔法は使いたい。弓は地味だよ。魔法なのに地味だよ!」


 僕の技術では弓で射程距離を伸ばす必要があったけど!

 オタク心的にはやはり、心残りなイベントとなった。


 「やはり無駄にカッコイイエフェクトを出す練習もするべきだな」


 エフェクトさえあればどんな武器だろうとカッコ良くなる。

 当面の目標が決まったな。


 「⋯⋯あのでかい魔獣を一撃で。それにあんなに距離があったのに」


 「⋯⋯ッ!」


 人の気配はしなかった⋯⋯なのに、僕の近くにはサシャが立っていた。


 油断? 慢心?


 人間の気配はしっかりと確認していたはずだ。油断も慢心もしていない。

 だと言うのに、サシャの存在に気づけなかった。


 「⋯⋯見てたか?」


 「はい。素晴らしいです」


 恍惚とした表情を浮かべ、僕をうっとりと見ている。

 いつもは無表情で感情の色なんて見せないのに。


 「⋯⋯魔法、教えて欲しいか?」


 「良いのですか!」


 「もちろんだよ。強い事に越した事は無いしね。魔族やら魔獣やら危険がいっぱいだからさ」


 「⋯⋯心より、感謝致します」


 良し、これで口止めはしやすいだろう。

 サシャに魔法を教えつつ、派手な演出をどうやって出すか考えよう。

 個人的に魔法をバーって出してズドドドって倒したいので、弓矢の出番はあまりないかもしれない。


 サシャにはまずマナを操る術を教える。

 空気中のマナをサシャの周囲に集め、感じ取らせるところから始まる。

 これは魔法を教える際に師匠が弟子にやる最初の段階らしい。


 マナの濃度を上げて、マナを感じ取らせる。そこからマナの基礎に移る。


 「マナなら少しだけ操れます。掃除の際に便利なので⋯⋯」


 「⋯⋯そうか」


 サシャの場合は実力を伸ばしてやれば良いだけだった。

 人の気配を探り、隠れながらやる事とした。


 きちんと人の気配は掴めるが⋯⋯やはりサシャの気配だけは変な気がする。

 身体の中を巡るマナが人間とは異なるのか?

 まぁ気にする事では無いだろう。


 僕が女の子に魔法を教えるとはな。人生分からないモノだ。

 魔法⋯⋯女の子?


 「魔法⋯⋯女の子⋯⋯少女⋯⋯魔法少女!」


 「ッ! る、ルーシャ様?」


 この世界は娯楽が充実している。

 だが、日本のようなアニメが無い。あれ程までに高いクオリティがない。ストーリーが無い。

 既に魔法があり色々とできてしまうが故に欠如した想像力!


 でも僕にはある。

 オタクとして培った記憶、アニメに対する熱意!


 「魔法が実在するならアニメのようなストーリーを作ってしまえば良い。僕のオタク魂の炎が再熱したぞ!」


 「あ、あの⋯⋯」


 僕は決めた。決めたぞ!

 この世界に魔法少女を顕現させアニメのようなストーリーを作る事に。


 それがきっかけに想像力が目覚めた人達が面白いアニメを作る事を期待する。

 僕がパイオニアとなろう。


 アニメを作る技術を持って産まれなかった事を後悔していた時期もあったが、それも今や過去である。


 「ワクワクして来たぞ!」


 僕はある歳になったら学園に通わなくてはならなくなる。

 学園⋯⋯魔法⋯⋯テンプレ的な魔法少女作品ができあがるぞ!

 僕の好きなアニメは深夜が多い⋯⋯。


 「でもあれだな。深夜アニメの魔法少女は何故か鬱展開が多い⋯⋯どうするか」


 「ルーシャ様⋯⋯お気を確かに。今医者を⋯⋯」


 「うん。僕は鬱展開あまり好きじゃないし鬱展開は無しにしよう。王道を行くぞ!」


 そうして僕には、夢ができた。


 魔法少女を育成すると言う、大きな夢が。

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